粉ミルク菌として臨床現場で問題になる代表が、クロノバクター・サカザキ(Cronobacter sakazakii)です。食品安全委員会のQ&Aでは、本菌がヒトや動物の腸管、食品や自然環境に広く分布すること、以前はエンテロバクター属に分類されていたが2008年にクロノバクター属に再分類されたことが示されています。
また、本菌は乾燥環境でも長期間生残するとの報告がある一方、増殖可能温度域が6℃〜47℃と広く、家庭内の「室温放置」と相性が悪い点が強調されています。特に至適温度として25℃で急激に増えるとされ、夏場の室内だけでなく、冬でも暖房環境で条件がそろうことがあります。
医療従事者が説明すべきリスクは、「粉ミルク=危険」ではなく「粉ミルクは無菌とは限らない」という前提を共有した上で、感受性の高い集団(未熟児、低出生体重児、免疫不全児など)で侵襲性感染が問題になる、という整理です。食品安全委員会のQ&Aでは、乳幼児(特に未熟児等)が感染すると敗血症、壊死性腸炎を発症し、重篤例では髄膜炎や死亡、重度の神経学的後遺症が残り得るとされています。
臨床での注意点として、保護者説明では「菌がどこから来るか」を単純化しすぎない方が誤解が減ります。未開封製品の段階で菌数は可能な限り低減されているものの、自然界に広く存在するため、開封後のスプーン・フタ内側・手指・台所環境、さらには冷却時の外側流水など、複数の“入口”があり得ます。ここを押さえると、「70℃にしたのに不安」「どれか1個だけ守れば良いのか」といった相談に対し、運用全体(手洗い→器具殺菌→70℃調乳→速やかに消費→余りは廃棄)を一貫して伝えやすくなります。
参考:粉ミルク菌(クロノバクター)の性質・健康被害・家庭でできる対策(70℃調乳、速やかな消費、栄養素の扱い)
食品安全委員会「速やかに消費しましょう〜クロノバクター・サカザキについて」
粉ミルク菌対策の中核は「70℃以上のお湯で調乳し、速やかに消費する」です。食品安全委員会のQ&Aでは、クロノバクター・サカザキは70℃以上のお湯で調乳することで殺菌できるため、調乳は必ず70℃以上で行うよう明記されています。加えて「ビタミンが壊れるのでは」という懸念に対して、粉ミルクは70℃以上で調乳したときのビタミン損失を考慮して製造されているため、栄養素不足の心配はない、という説明も提示されています。
現場で「70℃の作り方」が曖昧になりがちなので、厚生労働省の手順のうち、説明価値が高いポイントを言語化しておくと指導が安定します。PDFの「哺乳ビンを用いた粉ミルクの調乳方法」では、沸騰させた湯を用い、湯は70℃以上に保ち、沸かしてから30分以上放置しない、という具体条件が示されています。さらに、洗浄・殺菌した哺乳瓶に正確な量の湯を注ぎ、粉を加え、やけどに注意しながらゆっくり振る/回転させて完全に混和する流れが記載されています。
冷却にも落とし穴があるため、指導では「冷やし方」までセットで示すと事故が減ります。同PDFでは、混ざったら直ちに流水または冷水/氷水で授乳できる温度まで冷やす、その際に内容物を汚染しないよう冷却水はキャップより下に当てる、という注意が明記されています。さらに「腕の内側に少量を垂らして温度確認」「調乳後2時間以内に使用しなかったミルクは捨てる」「電子レンジはホットスポットによるやけどリスクがあるため使用しない」と続きます。
医療者向けの実務としては、保護者へは“守る順番”を短く提示する方が定着します。例として、次のように1枚で説明できる形にしておくと、外来・病棟・退院指導で言い回しがぶれません。
参考:70℃以上を保つ条件、冷却時の再汚染防止、2時間ルール、電子レンジ注意など「具体手順」
厚生労働省「哺乳ビンを用いた粉ミルクの調乳方法(PDF)」
粉ミルク菌対策は「殺菌できたか」だけでなく、「増やさない」運用が同じくらい重要です。食品安全委員会のQ&Aでは、哺乳瓶は密閉ではないため置いている間に飲み口などから菌が混入することがある、と明記されており、作り置き・だらだら授乳・飲み残しの再使用がリスクになり得ます。さらに、クロノバクター・サカザキは6℃〜47℃で増殖可能で、25℃で急激に増えるとされるため、「飲む直前に調乳し、速やかに消費」することが推奨されています。
病棟でよくある相談は「飲むのに時間がかかる」「途中で寝てしまう」「いったん作ったミルクを温め直したい」です。ここでは、厚生労働省PDFにある「調乳後2時間以内に使用しなかったミルクは捨てましょう」という明確な基準を、そのまま説明の芯にするとぶれません。2時間という時間軸があると、保護者は「衛生の話」を行動(時計)に落とし込めます。
もう一歩踏み込むなら、「なぜ2時間なのか」を簡単に補足すると納得感が上がります。粉ミルク菌は乾燥下で生残し、再構成(溶解)すると増殖可能な水分・栄養・温度がそろいやすいため、放置時間が伸びるほど“少数混入→増殖”のリスクが上がる、という説明が筋の通ったストーリーになります。医療従事者としては、保護者を不安にさせる表現(「すぐ危険」)よりも、行動を変えられる表現(「増える時間を与えない」)を選ぶのが現実的です。
加えて、速やかに消費する運用は「家庭の事情」と衝突しやすい点も押さえておきたいところです。例えば夜間授乳での作り置きは、保護者の疲労・睡眠不足から生まれる合理化行動です。ここを責める方向ではなく、「作り置きしたい気持ちは自然だが、粉ミルクは無菌ではない前提があるので、時短は“器具の準備”で稼ぐ(消毒済みセットを複数用意等)」のように代替策を提示すると、指導が現場実装されやすくなります(ただし家庭の安全管理能力に応じて現実的な範囲で)。
70℃調乳を守っていても、器具由来の再汚染があると対策が崩れます。厚生労働省PDFでは、石鹸と水で手を洗うこと、粉ミルクを調乳する場所を清掃・消毒すること、洗浄・殺菌した哺乳瓶を使うことが工程として明示されています。つまり、温度ルールは“単独で完結”ではなく、手指衛生・環境整備・器具衛生と同じパッケージで設計されています。
医療従事者向けに現場で使える観点としては、「どこを清潔にすべきか」を部位で伝えると抜け漏れが減ります。例えば、哺乳瓶本体だけでなく、乳首の内側、キャップ、リング、計量スプーン、粉ミルク缶のフチ、フタの裏、乾燥用ラック、調乳に使う布巾(使い捨て推奨か、毎回交換か)など、接触面の連鎖で考えると改善点が見つかります。PDFにも「清潔なふきん、又は使い捨てのふきん」といった記載があり、布巾が汚染媒体になり得る前提が読み取れます。
また、冷却工程は「外側に流水を当てる」行為が、台所周りの飛沫やシンク由来の汚染と交差しやすい工程です。厚生労働省PDFで「冷却水は哺乳瓶のキャップより下に当てる」としているのは、冷却水がキャップ上部や飲み口周囲に触れ、それが内側へ移行するリスクを避ける意味があります。指導の際は、この“なぜ”を一言添えると、単なる作法ではなく感染対策として理解されます。
さらに、電子レンジの扱いは「利便性」と「安全」が衝突する典型です。同PDFでは、電子レンジは加熱が不均一になりホットスポットができ、乳児の口にやけどを負わせる可能性があるため使用しない、と注意喚起されています。粉ミルク菌の観点だけでなく、熱傷予防としても一貫して禁止理由を示せるため、保護者の納得が得やすいポイントです。
粉ミルク菌の指導で見落とされやすいのは、「正しい手順を知っているのに守れない」層が一定数いることです。医療者が“やり方”だけを提示すると、保護者は理解したつもりでも、夜間・外出・上の子対応・ワンオペ・災害時などの状況で手順が破綻し、結果的にリスクが上がります。そこで独自視点として、感染対策を「行動設計(ヒューマンファクター)」で組み直すのが有効です。
具体的には、粉ミルク菌対策を「失敗しやすいポイント」から逆算して、チェック項目を短く作ります。厚生労働省PDFと食品安全委員会Q&Aの要素を、家庭の運用に落とすと次のような“事故ポイント”が見えます。
この“事故ポイント”を踏まえ、医療従事者ができる支援は、正論の追加ではなく、失敗の前提に立った提案です。例えば、退院指導の場で「70℃調乳が難しい場面はいつですか?」と聞くと、保護者側のボトルネックが言語化されます。そこに対して、「準備(消毒済みセット)」「導線(調乳場所を固定)」「時間管理(タイマー)」「廃棄判断(2時間ルール)」を具体的に合わせると、粉ミルク菌対策は“知識”から“習慣”に変わります。
最後に、医療者の説明で強い武器になるのが「粉ミルクは無菌とは限らないが、70℃調乳と速やかな消費でリスクを下げられる」という、恐怖ではなくコントロール可能性の提示です。食品安全委員会Q&Aには、70℃調乳で殺菌できること、速やかに消費すべきこと、栄養素について過度に心配しなくてよいことが一体として書かれており、保護者への説明資材としても組み立てやすい内容になっています。医療従事者がこのメッセージを一貫して伝えることが、現場で起こりがちな“自己流の合理化”を減らし、粉ミルク菌のリスクコミュニケーションを改善します。

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