腸炎は症状の持続期間によって急性腸炎と慢性腸炎に大別されます。急性腸炎は症状が突然現れ、比較的短期間(数日から数週間)で改善することが一般的で、主に感染性腸炎が原因となることが多いとされています 。
参考)https://fusion-clinic.jp/menu/enteritis/
急性腸炎の代表的症状は以下の通りです。
慢性腸炎は炎症が数ヶ月以上持続し、症状が継続的に現れることが特徴です。潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患、薬剤性腸炎、虚血性腸炎などが原因となることが多く、長期にわたる管理が必要となります 。
慢性腸炎では再燃寛解型のパターンを示すことが多く、症状の改善と悪化を繰り返します。そのため患者の生活の質(QOL)に大きな影響を与えることがあります 。
腸炎の原因は大きく感染性と非感染性に分類されます。感染性腸炎は病原微生物が原因となって引き起こされる腸炎で、細菌、ウイルス、寄生虫、カビなどさまざまな病原体が関与します 。
参考)https://www.kotobuki-pharm.co.jp/guide/guide03-12
細菌性腸炎の主な原因菌
ウイルス性腸炎の特徴
冬季に多発する「おなかのかぜ」と呼ばれることが多く、ノロウイルス、ロタウイルス、エンテロウイルス、腸管アデノウイルスなどが原因となります。上気道炎症状を伴うことが多いのが特徴です 。
非感染性腸炎の原因
参考)https://www.sanreikai.com/acute_enteritis/
虚血性腸炎は特に高齢者に多く見られ、腸管の血流が滞ることで腸管壁に炎症が起こります。動脈硬化や便秘、薬剤の影響などが誘因となることが知られています 。
参考)https://www.tama-naishikyo.com/enteritis/
腸炎の診断は症状の詳細な問診から始まり、原因の特定と重症度の評価のために各種検査が実施されます。診断の流れは段階的に行われ、患者の状態に応じて必要な検査が選択されます。
問診による初期評価
医師は以下の項目について詳細に聞き取りを行います。
参考)https://asakusa-naika.com/%E6%84%9F%E6%9F%93%E6%80%A7%E8%85%B8%E7%82%8E
血液検査による炎症と脱水の評価
血液検査では以下の項目が重要な指標となります。
白血球とCRPの両方が高い場合は細菌感染を疑い、CRPのみ高値の場合はウイルス感染の可能性が考えられます。これらの値は重症度の判定にも用いられます 。
便検査による原因菌の特定
便検査は感染性腸炎の原因を特定するための重要な検査です。便中の抗原を調べる迅速検査と、培養による細菌同定があります。
参考)https://asakusa-naika.com/%E6%84%9F%E6%9F%93%E6%80%A7%E8%85%B8%E7%82%8E/
ただし、便検体の提出が面倒であり、ウイルス性の場合は原因が同定できないこと、また検査結果が判明するまでに時間がかかることから、重症例や特殊な感染源が疑われる場合に限定して実施されることが多いです 。
画像検査による病変の評価
参考)https://www.ishicl.com/colum/1449
CT検査は感染性腸炎の全例で行う検査ではありませんが、重症度が高い患者や他疾患との鑑別が必要な場合に実施されます 。
腸炎治療の基本は症状の軽減と体力の回復を目指すことです。治療方針は原因と重症度に応じて決定され、薬物療法と食事療法を組み合わせた総合的なアプローチが重要となります。
薬物療法の選択基準
腸炎の薬物治療は原因に応じて以下のように分類されます。
下痢止め(止痢薬)の使用については注意が必要です。原因となる細菌やウイルスを体内に留める可能性があるため、感染性腸炎では一般的に使用を避けるか、最小限の使用にとどめられます 。
特に腸管出血性大腸菌感染では、抗生物質の投与により症状が重症化する危険性があるため、慎重な判断が求められます 。
段階的食事療法の実践
食事療法は症状の段階に応じて段階的に進めることが重要です。
急性期(症状が強い時期)
回復期(症状の改善期)
参考)https://honda-naika.net/disease/general/06
脱水対策の重要性
どのような原因の腸炎であっても、下痢・嘔吐による脱水の予防と改善が最も重要な治療目標となります。
脱水症状の早期発見と適切な対応により、多くの腸炎は1-3日程度で改善します。ただし、高齢者や基礎疾患を持つ患者では重症化のリスクが高いため、より慎重な管理が必要となります 。
参考)https://www.uenoclinic.com/acute-enteritis/
慢性腸炎の中でも特に重要な疾患群として炎症性腸疾患(IBD:Inflammatory Bowel Disease)があります。これには主に潰瘍性大腸炎とクローン病が含まれ、原因不明の慢性炎症性疾患として知られています。
潰瘍性大腸炎の特徴
潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜に限局した炎症が特徴で、直腸から連続的に口側に広がります。主な症状は以下の通りです。
参考)https://www.coloproctology.gr.jp/modules/citizen/index.php?content_id=15
病変の範囲により、直腸炎型、左側大腸炎型、全大腸炎型に分類され、臨床経過によって再燃寛解型、慢性持続型、急性劇症型、初回発作型の4つのタイプに分けられます 。
クローン病の複雑性
クローン病は口から肛門までの消化管全域に発生する可能性がある疾患で、潰瘍性大腸炎よりも複雑な病態を示します。
参考)https://yokohama-shiminhosp.jp/shinryo/shinryoka/ibd/crohn_disease.html
クローン病は病変の場所により小腸型、小腸・大腸型、大腸型の3タイプに分類されます。発症のピークは20代前半で、若年者に多く発症することが特徴です 。
過敏性腸症候群との鑑別
腸炎と混同されやすい疾患として過敏性腸症候群(IBS)があります。これは器質的な異常がないにも関わらず、ストレスなどにより腹痛や腹部不快感に下痢や便秘を伴う機能性疾患です 。
参考)https://kenko.sawai.co.jp/healthcare/201009.html
過敏性腸症候群の特徴。
治療は生活習慣の改善(規則正しい食事、十分な睡眠、ストレス管理)が基本となり、症状に応じて薬物療法も併用されます 。
参考)https://www.kawa-clinic.com/shinryo/ibs.html
炎症性腸疾患の管理と予後
炎症性腸疾患は慢性疾患であり、完治は困難ですが、適切な治療により症状をコントロールし、発症前と遜色ない日常生活を送ることが可能です。治療の継続が重要で、寛解期に治療を中止すると重症化や大腸癌発症のリスクが上昇するため、長期的な管理が必要となります 。
参考)https://www.tokorozawa-naishikyo.com/ibd/
最近では生物学的製剤など新しい治療選択肢も増え、より効果的な治療が可能になってきています。早期診断と適切な治療開始により、患者の予後は大幅に改善しています。