腸炎の症状から治療まで完全ガイド

腸炎は誰もが経験しうる身近な病気でありながら、原因や治療法について正しく理解している人は少ないのではないでしょうか?急性と慢性の違い、感染性と非感染性の見分け方など、知っておくべき重要なポイントとは何でしょうか?

腸炎の症状から治療まで

腸炎の基本情報
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急性と慢性の分類

症状の持続期間により4週間以内の急性腸炎と、それ以上続く慢性腸炎に分類されます

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感染性と非感染性

細菌・ウイルス・寄生虫による感染性腸炎と、ストレス・薬剤・アレルギーによる非感染性腸炎があります

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診断と治療

問診・血液検査・便検査により原因を特定し、症状に応じた適切な治療を行います

腸炎の急性症状と慢性症状の特徴

腸炎は症状の持続期間によって急性腸炎と慢性腸炎に大別されます。急性腸炎は症状が突然現れ、比較的短期間(数日から数週間)で改善することが一般的で、主に感染性腸炎が原因となることが多いとされています 。
参考)https://fusion-clinic.jp/menu/enteritis/

 

急性腸炎の代表的症状は以下の通りです。

  • 突然の腹痛(特に臍周囲の痛み)
  • 下痢や軟便(水様便から血便まで幅広い)
  • 発熱(38度以上の高熱を伴うことが多い)
  • 悪心・嘔吐
  • 脱水症状(口渇、めまい、倦怠感

慢性腸炎は炎症が数ヶ月以上持続し、症状が継続的に現れることが特徴です。潰瘍性大腸炎クローン病などの炎症性腸疾患、薬剤性腸炎、虚血性腸炎などが原因となることが多く、長期にわたる管理が必要となります 。
慢性腸炎では再燃寛解型のパターンを示すことが多く、症状の改善と悪化を繰り返します。そのため患者の生活の質(QOL)に大きな影響を与えることがあります 。

腸炎の感染性と非感染性の原因

腸炎の原因は大きく感染性と非感染性に分類されます。感染性腸炎は病原微生物が原因となって引き起こされる腸炎で、細菌、ウイルス、寄生虫、カビなどさまざまな病原体が関与します 。
参考)https://www.kotobuki-pharm.co.jp/guide/guide03-12

 

細菌性腸炎の主な原因菌

  • サルモネラ菌:鶏卵や食肉に付着し、8-48時間の潜伏期間で発症
  • カンピロバクター:主に鶏肉が感染源で、風邪様症状が先行
  • 腸炎ビブリオ:魚介類が原因、10-18時間の潜伏期間
  • 黄色ブドウ球菌:毒素産生型で、1-5時間の短い潜伏期間
  • 腸管出血性大腸菌(O-157):ベロ毒素を産生し、血便や重篤な合併症を引き起こす可能性

ウイルス性腸炎の特徴
冬季に多発する「おなかのかぜ」と呼ばれることが多く、ノロウイルス、ロタウイルス、エンテロウイルス、腸管アデノウイルスなどが原因となります。上気道炎症状を伴うことが多いのが特徴です 。
非感染性腸炎の原因

虚血性腸炎は特に高齢者に多く見られ、腸管の血流が滞ることで腸管壁に炎症が起こります。動脈硬化や便秘、薬剤の影響などが誘因となることが知られています 。
参考)https://www.tama-naishikyo.com/enteritis/

 

腸炎の診断に必要な検査方法

腸炎の診断は症状の詳細な問診から始まり、原因の特定と重症度の評価のために各種検査が実施されます。診断の流れは段階的に行われ、患者の状態に応じて必要な検査が選択されます。

 

問診による初期評価
医師は以下の項目について詳細に聞き取りを行います。

血液検査による炎症と脱水の評価
血液検査では以下の項目が重要な指標となります。

  • 白血球数:細菌感染で高値を示すことが多い
  • CRP(C反応性蛋白):炎症の程度を示す指標
  • クレアチニン(Cr):脱水による腎機能障害の評価
  • 電解質バランス:ナトリウム、カリウムなどの異常

白血球とCRPの両方が高い場合は細菌感染を疑い、CRPのみ高値の場合はウイルス感染の可能性が考えられます。これらの値は重症度の判定にも用いられます 。
便検査による原因菌の特定
便検査は感染性腸炎の原因を特定するための重要な検査です。便中の抗原を調べる迅速検査と、培養による細菌同定があります。

ただし、便検体の提出が面倒であり、ウイルス性の場合は原因が同定できないこと、また検査結果が判明するまでに時間がかかることから、重症例や特殊な感染源が疑われる場合に限定して実施されることが多いです 。
画像検査による病変の評価

  • 腹部レントゲン:腸管ガスの分布や異常な拡張の確認
  • 腹部エコー検査:腸管壁の肥厚や浮腫の評価
  • 腹部CT検査:炎症の部位と重症度、合併症の有無を詳細に評価
  • 大腸内視鏡検査:慢性腸炎や重症例での粘膜病変の直接観察

    参考)https://www.ishicl.com/colum/1449

     

CT検査は感染性腸炎の全例で行う検査ではありませんが、重症度が高い患者や他疾患との鑑別が必要な場合に実施されます 。

腸炎の薬物療法と食事療法

腸炎治療の基本は症状の軽減と体力の回復を目指すことです。治療方針は原因と重症度に応じて決定され、薬物療法と食事療法を組み合わせた総合的なアプローチが重要となります。

 

薬物療法の選択基準
腸炎の薬物治療は原因に応じて以下のように分類されます。

  • 細菌感染が疑われる場合:抗菌薬の投与を検討
  • ウイルス性腸炎:特異的な治療薬は限定的で、対症療法が中心
  • 腹痛・発熱:解熱鎮痛薬の使用
  • 腸内環境の改善:整腸剤(プロバイオティクス)の投与

下痢止め(止痢薬)の使用については注意が必要です。原因となる細菌やウイルスを体内に留める可能性があるため、感染性腸炎では一般的に使用を避けるか、最小限の使用にとどめられます 。
特に腸管出血性大腸菌感染では、抗生物質の投与により症状が重症化する危険性があるため、慎重な判断が求められます 。
段階的食事療法の実践
食事療法は症状の段階に応じて段階的に進めることが重要です。
急性期(症状が強い時期)

  • 水分摂取を最優先とし、経口補水液やスポーツドリンクを少量ずつ頻回に摂取
  • 固形物は避け、水分やゼリー、ペースト状のものから開始
  • 牛乳や乳製品、食物繊維の多い食品は避ける

回復期(症状の改善期)

  • 消化の良い食事を少量ずつ摂取:お粥、うどん、白身魚など
  • 脂肪分の多い食品、香辛料、アルコール、コーヒーなどの刺激物は避ける
  • 徐々に食事量を増やし、通常食に移行

    参考)https://honda-naika.net/disease/general/06

     

脱水対策の重要性
どのような原因の腸炎であっても、下痢・嘔吐による脱水の予防と改善が最も重要な治療目標となります。

  • 軽度の脱水:経口補水液やスポーツドリンクによる水分補給
  • 重度の脱水:静脈内点滴による水分・電解質の補給
  • 口から水分摂取できない場合:入院での点滴治療が必要

脱水症状の早期発見と適切な対応により、多くの腸炎は1-3日程度で改善します。ただし、高齢者や基礎疾患を持つ患者では重症化のリスクが高いため、より慎重な管理が必要となります 。
参考)https://www.uenoclinic.com/acute-enteritis/

 

腸炎に関連する炎症性腸疾患の理解

慢性腸炎の中でも特に重要な疾患群として炎症性腸疾患(IBD:Inflammatory Bowel Disease)があります。これには主に潰瘍性大腸炎とクローン病が含まれ、原因不明の慢性炎症性疾患として知られています。

 

潰瘍性大腸炎の特徴
潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜に限局した炎症が特徴で、直腸から連続的に口側に広がります。主な症状は以下の通りです。

病変の範囲により、直腸炎型、左側大腸炎型、全大腸炎型に分類され、臨床経過によって再燃寛解型、慢性持続型、急性劇症型、初回発作型の4つのタイプに分けられます 。
クローン病の複雑性
クローン病は口から肛門までの消化管全域に発生する可能性がある疾患で、潰瘍性大腸炎よりも複雑な病態を示します。

クローン病は病変の場所により小腸型、小腸・大腸型、大腸型の3タイプに分類されます。発症のピークは20代前半で、若年者に多く発症することが特徴です 。
過敏性腸症候群との鑑別
腸炎と混同されやすい疾患として過敏性腸症候群(IBS)があります。これは器質的な異常がないにも関わらず、ストレスなどにより腹痛や腹部不快感に下痢や便秘を伴う機能性疾患です 。
参考)https://kenko.sawai.co.jp/healthcare/201009.html

 

過敏性腸症候群の特徴。

  • 血液検査や内視鏡検査で異常が認められない
  • ストレスにより症状が悪化
  • 腸の知覚過敏とストレスホルモンの関与
  • 男性では下痢型、女性では便秘型が多い

治療は生活習慣の改善(規則正しい食事、十分な睡眠、ストレス管理)が基本となり、症状に応じて薬物療法も併用されます 。
参考)https://www.kawa-clinic.com/shinryo/ibs.html

 

炎症性腸疾患の管理と予後
炎症性腸疾患は慢性疾患であり、完治は困難ですが、適切な治療により症状をコントロールし、発症前と遜色ない日常生活を送ることが可能です。治療の継続が重要で、寛解期に治療を中止すると重症化や大腸癌発症のリスクが上昇するため、長期的な管理が必要となります 。
参考)https://www.tokorozawa-naishikyo.com/ibd/

 

最近では生物学的製剤など新しい治療選択肢も増え、より効果的な治療が可能になってきています。早期診断と適切な治療開始により、患者の予後は大幅に改善しています。