固縮とは、四肢などの筋肉が持続的にこわばり、他動的に関節を動かしたときに抵抗が出る状態を指します。特にパーキンソン病では「歯車様固縮」が特徴で、関節を曲げ伸ばしするとカクカクした抵抗感として触れます。これは患者本人が「筋肉が固い」と自覚しにくいこともあり、看護師の観察で初めて問題化するケースがあります。
看護で大事なのは、固縮を“診断名の説明用語”として終わらせず、生活動作の困りごとに翻訳することです。例えば、こわばりで可動性が低下すると、寝返り、車いす移乗、深く座った姿勢からの立ち上がりなどが難しくなり、時間がかかります。さらに、日常生活動作(更衣、整容、食事など)が遅くなり、本人の焦りや疲労感を強めます。
また、固縮は「痛み」や「疲労」を増やしやすい点も見逃せません。筋肉のこわばりと可動性低下により筋肉痛や疲労が生じることがあるため、単なる運動機能の問題ではなく、睡眠や意欲にも波及します。痛みがあると動かなくなり、さらに関節が硬くなる、という悪循環が起きやすいので、早めに介入できる観察が重要です。
参考:パーキンソン病の「筋肉の固縮(歯車様固縮)」の説明と、症状が進むと動作がぎこちなくなる点
健康長寿ネット「パーキンソン病」
固縮が代表的に問題になる疾患として、パーキンソン病があります。パーキンソン病は安静時振戦、筋強剛(こわばり)、随意運動の遅さ、姿勢不安定などを特徴とし、筋肉がこわばって動くことが困難になります。医師が腕を曲げ伸ばししようとすると抵抗があり、歯車のように動き始めたり止まったりする所見がみられることがあります。
原因の理解は「ケアの納得感」を作ります。パーキンソン病では大脳基底核(黒質など)の神経細胞変性によりドパミンが減少し、運動の制御がうまくいかなくなることで、こわばり・動作緩慢などが生じます。患者や家族は「年のせい」「筋力低下」と受け止めがちなので、固縮は“力が弱い”とは別の問題で、動きの調整が難しくなる結果だと説明すると、支援策(環境調整、介助方法、リハ、服薬調整)への合意が得やすくなります。
さらに意外と盲点になりやすいのが、「振戦が目立たない人でも固縮は起こりうる」点です。パーキンソン病では振戦が典型ですが、進行とともに振戦が目立たなくなり筋肉が固くなることがある、と整理されています。つまり「震えていないからパーキンソン病らしくない」と決めつけると、固縮による生活障害の見逃しにつながります。
参考:筋強剛(こわばり)や歯車様強剛、こわばりと可動性低下による困難(寝返り・立ち上がり等)の説明
MSDマニュアル家庭版「パーキンソン病」
固縮の観察は「関節の硬さ」だけでは足りません。看護で実用的なのは、①どの動作が、②どの場面で、③どの程度、④何が誘因で悪化するか、を言語化して記録することです。例えば、ベッド上の寝返りに時間がかかる、起き上がりで体幹が回らない、歩き始めの一歩が出ない、方向転換で止まりやすい、などの“動作単位”で拾うと介入が具体化します。
転倒リスクは固縮と強く結びつきます。パーキンソン病では姿勢が前かがみになり、バランス保持が難しくなり、転びそうになってもさっと手をつけないことがあるとされます。歩行では最初の一歩が踏み出せない、歩き出すと小刻み歩行になる、途中で止まれない(加速歩行)、突然止まる(すくみ足)なども起こりえます。看護師は「立位保持・方向転換・トイレ動作」の三点を重点的に見て、夜間や疲労時に悪化していないかも確認します。
嚥下や呼吸の安全も、固縮の文脈で見直す価値があります。顔面やのどの筋肉が硬くなると嚥下が困難になり、よだれや誤嚥のリスクが高まることがあります。「むせるかどうか」だけでなく、食事に時間がかかる、疲れて途中でやめる、声が小さく単調になる、なども関連所見として拾えます。
観察のチェック例(現場でそのまま使える形)
固縮への対応は「無理に動かす」より「動きやすい条件を揃える」が基本です。患者を急かすと動作が乱れやすく、結果として転倒や不安を増やします。まずは動作に必要な時間を確保し、声かけは短く具体的に(例:「今、足をここに」「次に体をこちらへ」)して、連続動作を分割すると成功率が上がります。
環境調整は看護が主導しやすい領域です。小さな敷物撤去、手すり設置などの転倒予防の工夫は、パーキンソン病の一般的対策としても挙げられています。病棟なら、ベッド周囲の導線を短くし、夜間の照明を確保し、履物は滑りにくいものに統一するなど、事故予防に直結します。
薬の“効いている時間帯”にケアを寄せる視点も重要です。パーキンソン病ではレボドパが筋肉のこわばりを軽減し、運動能力を改善することがあるとされます。つまり、清拭・更衣・離床・排泄誘導・リハなど「動作が必要なケア」は、可能なら内服後で動きやすい時間帯に合わせると、本人の負担もスタッフの介助量も減らせます。
実務の工夫(看護計画に落とし込みやすい形)
固縮のケアで“地味に効く”のは、症状の変動を看護記録で「共有可能な情報」に変換することです。医師やリハ職が診察・評価できる時間は限られるため、看護師が24時間の変動を拾って渡すと、薬剤調整やリハプログラムの質が上がります。ここが看護の独自性で、検索上位の一般解説では薄くなりがちな実務ポイントです。
具体的には、「いつ」「何をすると」「どんな固縮が」「どれくらい続く」を、短文で統一フォーマット化します。例として、次のような記録はチームで解釈しやすいです。
もう一つの“意外な落とし穴”は、固縮を「ストレッチ不足」と誤解して、痛みを我慢させてしまうことです。固縮は中枢の運動制御の問題が背景にあるため、ただ強く伸ばすだけでは改善しないこともあり、痛みや恐怖で動かなくなると悪循環が起きます。だからこそ、看護は「痛みの有無」「不安」「疲労」「睡眠」「便秘」などの生活要因も一緒に整え、固縮を悪化させる条件を減らす支援が求められます。
参考:固縮を含む4大症状、転倒予防の住環境調整、ゆとりある声かけ(急かさない)などケア面の記載
健康長寿ネット「パーキンソン病」