メディエーター(mediator)とは、文字通り「媒介者」「仲介者」を意味し、細胞から細胞への情報伝達に使用される化学物質の総称です 。生体内で産生されるこれらの物質は、極めて微量でも他の細胞や器官に作用して、特定の反応を引き起こします 。
参考)https://www.pharm.or.jp/words/word00610.html
炎症性メディエーターは、体内で炎症反応を起こしたり維持したりする内因性物質として定義され、局所に侵害刺激が加わると産生・放出される起炎性物質の総称でもあります 。これらは血管拡張、血管透過性亢進、白血球遊走、細胞傷害作用などにより炎症反応を惹起する重要な役割を担っています 。
参考)https://www.oralstudio.net/dictionary/detail/6335
炎症反応は、病原菌や傷害組織の効率的な除去のために必須の生体防御機構であり、好中球の浸潤と活性化により生体内の異物を排除する「初期過程」と、それに続いてアポトーシスした好中球や組織片を除去し、組織を修復へと導く「収束過程」からなります 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrhi/51/1/51_60/_pdf
メディエーターは、その化学的性質と起源により、血漿由来と細胞由来の2つに大きく分類されます 。血漿由来のメディエーターには補体成分(C3a、C5aなど)が含まれ、細胞由来のメディエーターには多様な物質が存在します 。
参考)https://www.okayama-u.ac.jp/user/byouri/pathology-1/pg548.html
細胞由来メディエーターは、さらに以下のように詳細に分類されます。
脂質メディエーターについては、構造的に以下の3つのカテゴリーに分類されます :
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%84%82%E8%B3%AA%E3%83%A1%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A8%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC
メディエーターは、「必要な時に」、「必要な場所で」、「必要な量だけ」産生され、様々な生理機能を調節しています 。その作用は極めて微量で発揮され、産生制御は極めて厳密に行われています 。
参考)https://pathobiochem.pharm.oups.jp/research.html
炎症性メディエーターによる作用には、特に、白血球の走化性誘導、肥満細胞や好塩基球の増殖や脱顆粒など、免疫系の細胞に対する作用が含まれます 。また、浮腫形成に伴う血管への影響(拡張や透過性の増加など)を示し、発熱の調節にも中心的な役割を果たしています 。
脂質メディエーターの中でも、プロスタグランジンとロイコトリエンは特に重要な役割を果たします。これらは主に起炎性の脂質メディエーターとして働き、炎症反応初期に血管透過性を亢進し、好中球の浸潤・活性化に関与しています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspen/29/1/29_5/_pdf/-char/ja
一方で、近年注目されているのは抗炎症性・消炎症性メディエーターの存在です 。ω-3不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)より合成されるレゾルビンやプロテクチンは、炎症の収束に重要な役割を果たします 。
参考)https://med.m-review.co.jp/article/detail/J0003_2402_0012-0017
それぞれの脂質メディエーターは固有の生合成経路を経て産生され、特異的受容体を介して標的細胞に特有の応答を引き起こします 。脂質受容体の多くはG蛋白共役受容体(GPCR)として機能し、細胞内シグナル伝達を媒介します 。
参考)https://lmmhs.m.u-tokyo.ac.jp/mako.html
興味深いことに、脂質受容GPCRでは、配列相同性とリガンド選択性が単純に一致していない点が特徴的です 。例えば、化学構造が大きく異なる脂質メディエーターの受容体が、配列上は近縁な関係にあるケースも見られます 。
参考)https://www.pssj.jp/archives/art_lec/GPCR_01/GPCR_01.html
受容体の構造解析により、膜貫通ヘリックスの間に位置する細胞外ループが、リガンド結合ポケット上部を覆う"lid"構造を形成していることが明らかになっています 。この構造がリガンド認識の特異性を決定する重要な要素となっています 。
メディエーター研究の成果は、既に多くの治療薬の開発に結実しています。国民に最も一般的に服用されている非ステロイド性解