ロイコトリエン受容体拮抗薬は、システイニルロイコトリエンタイプ1(CysLT1)受容体に選択的に結合し、炎症メディエーターであるロイコトリエンD4(LTD4)やロイコトリエンE4(LTE4)の作用を阻害します。ロイコトリエンは免疫系により産生され、気管支収縮、炎症、微小血管透過性亢進、粘液分泌促進などの病態生理学的作用を引き起こすため、その受容体を阻害することで抗喘息作用を発揮します。jstage.jst+3
この薬理作用により気管支喘息やアレルギー性鼻炎に有効性を示す一方で、ロイコトリエン受容体は気道以外の臓器にも存在するため、全身性の副作用が発現する可能性があります。特に肝臓、皮膚、血液系、神経系への影響が臨床上問題となることがあり、投与開始時から注意深い観察が必要です。pins.japic+2
CysLT1受容体は気管支平滑筋細胞に最も多く発現していますが、肝細胞や血管内皮細胞、神経細胞にも分布しているため、これらの組織における受容体拮抗作用が副作用発現の一因となる可能性が指摘されています。また、モンテルカストの脳内作用部位は明確ではないものの、セロトニンやノルアドレナリンの産生抑制に関与している可能性が考察されており、これが精神神経症状の発現機序として注目されています。note+1
ロイコトリエン受容体拮抗薬で最も注意すべき重大な副作用として、アナフィラキシーおよび血管浮腫があり、いずれも頻度不明ながら致死的な転帰をとる可能性があるため緊急対応が求められます。アナフィラキシー発現時には呼吸困難、血圧低下、意識障害などの症状に対して速やかにアドレナリン投与を含む救急処置を実施する必要があります。pins.japic+2
劇症肝炎、肝炎、肝機能障害、黄疸も重大な副作用として報告されており、ASTやALTの著しい上昇を伴います。これらの肝障害も頻度不明とされていますが、投与開始後は定期的な肝機能検査によるモニタリングが推奨されます。軽度から中等度の肝機能障害患者では、モンテルカストの半減期が健康成人の4.7時間から8.6時間に延長し、AUCも増加することが報告されているため、肝障害患者では慎重な投与が必要です。med.sawai+3
中毒性表皮壊死融解症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、多形紅斑などの重篤な皮膚障害も頻度不明で発現する可能性があります。血小板減少(頻度不明)も重大な副作用であり、初期症状として紫斑、鼻出血、歯肉出血などの出血傾向が現れることがあるため、これらの症状に注意が必要です。kegg+2
間質性肺炎および好酸球性肺炎も重要な副作用で、発熱、咳嗽、呼吸困難、胸部X線異常、好酸球増加を伴います。プランルカストでは好酸球性肺炎の発現頻度が0.1%未満と報告されており、これらの呼吸器症状が出現した場合には投与中止と副腎皮質ホルモン剤投与などの適切な処置が求められます。横紋筋融解症(頻度不明)も報告されており、筋肉痛、脱力感、CK上昇、血中ミオグロビン上昇などの症状に注意し、横紋筋融解症による急性腎障害の発症にも警戒する必要があります。ceolia+1
ロイコトリエン受容体拮抗薬、特にモンテルカストにおいて精神神経系の副作用が近年大きな注目を集めています。2020年に米国FDAはモンテルカストに対して最も強い枠囲み警告(ブラックボックス警告)を発令し、うつ病、自殺念慮、自殺行動、攻撃性を含む精神症状のリスクについて警告しました。FDAは特に軽度の症状、アレルギー性鼻炎患者に対しては処方を避けるよう勧告しています。tokieda-cl+1
日本の添付文書においても、頭痛、傾眠が0.1〜5%未満の頻度で発現し、異夢、易刺激性、情緒不安、痙攣、不眠、幻覚、めまい、感覚異常、激越、振戦、夢遊症、失見当識、集中力低下、記憶障害、せん妄、強迫性症状などが頻度不明で報告されています。これらの精神神経症状は、モンテルカスト服用中だけでなく、まれに服用中止後にも発現することがあり、精神疾患の既往の有無にかかわらずあらゆる年齢の患者で報告されています。pins.japic+3
2020年に発表された大規模コホート研究では、モンテルカスト使用群で精神神経系の有害事象リスクがわずかに上昇することが示されました。特に小児や青年期の患者では気分の変化、不安、攻撃性、睡眠障害などに注意が必要です。モンテルカストの主な作用機序はCysLT1受容体拮抗作用ですが、脳内に作用部位は存在しないと考えられており、セロトニンやノルアドレナリンの産生抑制が精神神経症状の発現機序として考察されています。kobe-kishida-clinic+1
一方、プランルカストでは精神神経系副作用の報告が少なく、モンテルカストと比較して精神系の副作用がやや少ない可能性が示唆されています。そのため、モンテルカストで精神神経症状を経験した患者では、プランルカストへの切り替えが合理的な選択肢となる場合があります。日本では2010年に注意喚起が促されましたが、FDAほど明確な関連性は指摘されていません。fizz-di+1
処方時には患者用リーフレットで精神神経症状について説明し、投与開始後1カ月以内とその後定期的に患者の精神状態を確認することが重要です。攻撃性や衝動性の増強、気分変動、不安感の増大、睡眠パターンの変化などの症状が出現した場合には、速やかに投与中止を検討する必要があります。note+1
ロイコトリエン受容体拮抗薬の使用に関連して、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA、旧称チャーグ・ストラウス症候群)様の血管炎を生じたとの報告があります。これらの症状は、おおむね経口ステロイド剤の減量・中止時に生じているため、薬剤使用時は特に好酸球数の推移およびしびれ、四肢脱力、発熱、関節痛、肺の浸潤影などの血管炎症状に注意する必要があります。kegg+2
EGPAは典型的には気管支喘息症状や好酸球性副鼻腔炎が悪化した後に血液中の好酸球数が増加し、その後に血管炎の症状が出現します。多くの患者で血管炎による末梢神経障害が認められ、皮膚症状としては紅斑、水疱、血疱、紫斑などが出現します。病理組織学的には好酸球浸潤を伴う白血球破砕性血管炎が特徴的で、採血検査では好酸球増多と抗好中球細胞質ミエロペルオキシダーゼ抗体(MPO-ANCA)陽性を認めることがあります。nanbyou+1
ロイコトリエン受容体拮抗薬使用後にEGPAが発症することがありますが、明らかな因果関係は証明されていません。ロイコトリエン拮抗薬との関連を示唆する報告がある一方で、現在ではこれらの薬剤投与により喘息が安定しステロイドが減量できたためにEGPAが顕在化した可能性も指摘されています。しかし、モンテルカスト内服開始後に好酸球増多が顕著となった症例報告もあり、薬剤内服が発症の一因となった可能性は否定できません。webview.isho+5
EGPAと診断された場合、プレドニゾロン(PSL)による治療が行われ、多くの症例で速やかに症状が軽快します。必要であればロイコトリエン受容体拮抗薬はEGPA患者に処方することができるとされていますが、慎重な判断が求められます。imed3.med.osaka-u+1
難病情報センター:好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の詳細情報
| 項目 | モンテルカスト(シングレア) | プランルカスト(オノン) |
|---|---|---|
| 投与回数 | 1日1回kumanomae-fc+1 | 1日2回fizz-di |
| 精神神経系副作用 | FDA枠囲み警告あり、精神症状の報告多いtokieda-cl+1 | 精神系副作用が少ない可能性tokieda-cl+1 |
| 一般的副作用 | 頭痛、傾眠、下痢などpins.japic | 発疹、じんましん、下痢、腹痛などrad-ar |
| 肝機能障害 | 劇症肝炎、肝炎、肝機能障害(頻度不明)pins.japic | 肝機能障害(頻度不明)ceolia |
| 服薬アドヒアランス | 1日1回で良好fizz-di | 1日2回で相対的に低い可能性fizz-di |
モンテルカストは1日1回投与で服用が楽であり、患者の服薬アドヒアランスが良好である点が大きな利点です。一方、プランルカストは1日2回投与が必要ですが、精神神経系の副作用発現がモンテルカストよりもやや少ない可能性が示唆されています。この差異は臨床的に重要で、モンテルカストで副作用を経験した患者ではプランルカストへの切り替えが合理的な選択となります。kumanomae-fc+1
両薬剤とも重大な副作用としてアナフィラキシー、血管浮腫、劇症肝炎、肝炎、肝機能障害、黄疸、中毒性表皮壊死融解症、皮膚粘膜眼症候群、多形紅斑、血小板減少が報告されています。しかし、FDAがモンテルカストに対して2020年に発令した枠囲み警告はプランルカストには適用されておらず、日本製のプランルカストでは精神神経系副作用の報告が少ないことが指摘されています。pins.japic+2
効果発現までの期間は両薬剤とも約1週間を要し、即効性はないため症状がひどくなってからではなく日ごろから継続的に服用することが重要です。副作用発現率については、モンテルカスト5mg群で4.7%、10mg群で4.2%、プランルカスト450mg群では特定の発現率データが限定的ですが、いずれも比較的安全性の高い薬剤として認識されています。tsujicli+4
妊婦または妊娠している可能性のある女性、授乳中の女性に対するロイコトリエン受容体拮抗薬の使用については、慎重な判断が求められます。モンテルカストナトリウム(シングレア、キプレス)は妊娠中・授乳中ともに比較的安全に服用できるとされています。妊娠前から自分に合った薬剤を服用している場合、妊娠期や授乳期にあえて切り替える必要はないとされていますが、短期間の服用であっても新しい薬剤を開始する際にはかかりつけの産科医に相談することが重要です。fuyukilc
妊娠時の安全性評価では、治療上の有益性が危険を上回ると判断される場合にのみ投与することが望ましいとされています。しかし、プランルカストについては妊娠第1三半期における安全性データが限られており、実世界データ(RWD)のみで妊娠中の薬の安全性の結論を出すことは難しく、さらなる前向き研究が必要とされています。妊娠中の喘息患者に使用できる薬剤はほとんどが同様の条件下で投与されるため、個々の患者の病態と治療の必要性を総合的に判断する必要があります。kamimutsukawa+2
高齢者や小児におけるロイコトリエン受容体拮抗薬の使用については、特に精神神経系副作用に注意が必要です。小児や青年期の患者ではモンテルカストによる気分の変化、不安、攻撃性、睡眠障害のリスクが指摘されており、投与開始後1カ月以内とその後定期的な精神状態の確認が推奨されます。高齢者では代謝能力の低下により薬剤の血中濃度が上昇する可能性があるため、慎重な投与と副作用モニタリングが求められます。kobe-kishida-clinic+1
肝機能障害患者では、軽度から中等度の肝硬変患者でモンテルカストの半減期が延長しAUCが増加することが報告されているため、投与量の調整や投与間隔の延長を検討する必要があります。腎機能障害患者についても、薬剤の排泄遅延による蓄積のリスクを考慮し、定期的な腎機能検査と副作用モニタリングが重要です。これらの特定集団では、ベネフィットとリスクのバランスを慎重に評価し、必要最小限の用量で治療を開始することが推奨されます。med.towayakuhin
妊婦・授乳婦における薬剤使用の詳細ガイド