「目薬をさす」を漢字にすると、古い文献や説明記事では「点す」「注す」「差す」が併記されることが多く、どれも完全な誤りとは言い切れないのが実情です。総合東京病院の解説でも、もともとは「注す」や「点す」だったが、常用漢字の事情から現在はひらがな表記か「差す」が一般的になっている、と整理されています。
医療従事者の文章では、「患者にとっての読みやすさ」と「言葉の由来・専門性」をどこまで両立させるかが悩みどころです。たとえば「点す」は“点眼”の語感と親和性が高く、液体を少量ずつ落とすニュアンスを示しやすい一方で、一般向け資料では見慣れない字として読解負荷が上がります。
「注す」は「注ぐ」と同根で“液体を注ぎ入れる”イメージを持たせられますが、現代の文章では頻度が低く、読者が「そそぐ」と読み違える可能性もあります。結果として、患者説明用の配布物や院内掲示では「差す」または「さす」で統一するほうが事故が起きにくい、という現場的な判断になりがちです。
「目薬」の正式な言い方として「点眼剤」「点眼する」という表現があり、専門領域ではこちらが標準になっています。総合東京病院も「目薬は通称で、正式には点眼剤」「目薬をさすの正式な言葉は点眼する」と述べています。
一方、患者さんへの指導で最初から「点眼」という語だけを使うと、医療者側の“当然”が患者側の“未知語”になり、手技の説明が入ってこないことがあります。そこで、指示文・カルテ・処方説明の内部文書は「点眼」を軸にしつつ、対面・配布資料では「目薬をさす(差す)」に置き換え、最後に「これを医療用語では点眼と言います」と接続するのが説明上きれいです。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10559273/
文章の統一ルールを作るなら、次のように決めると迷いが減ります。
・院内向け(記録・申し送り):点眼(点眼回数、点眼間隔)
・患者向け(掲示・説明書・LINE配信):目薬をさす(差す)
・教育的な記事(医療従事者向けブログ):差す/さすを基本にし、由来として点す・注すを紹介する
この「読みやすさ優先→必要に応じて専門用語を付記」の順番は、総合東京病院が示す“現在はひらがな表記か差すが一般的”という整理とも整合します。
表記の正解探しは大切ですが、臨床的には「どう差す(点眼する)か」のほうがアウトカム差が出やすいポイントです。総合東京病院は、点眼時に瓶の先を目に近づけすぎると、目と瓶の間が液体でつながって涙液が瓶の中に逆流し、薬液が不潔になることがある、と注意喚起しています。
さらに一般的な点眼指導としては、下眼瞼を軽く引いて結膜嚢に1滴、そして先端がまつ毛や眼瞼に触れないようにする、という要点が繰り返し強調されます。これは院内感染・二次汚染の観点で重要で、現場では「触れない」を最初に徹底させるだけでトラブルが減ります。
参考)点眼薬の正しい使いかた
患者さんが失敗しやすいのは「目を見開いて黒目に落とそうとする」動きで、結果として瞬目反射が強く出たり、先端を近づけすぎたりします。医療者側は「下まぶたを少し引いて“ポケット”に入れる」「狙うのは黒目ではなく下まぶた側」という言い方に変えると、成功率が上がりやすいです。
また、点眼薬は“入れれば入れるほど効く”ではなく、1滴で結膜嚢から溢れやすいことも説明ポイントです。溢れた分は効果が上がりにくいだけでなく、皮膚刺激や衣類汚染の原因になるため、基本は1滴で十分と指導し、必要なら医師の指示で回数を守る形にします。
「点す」「注す」が避けられやすい最大の理由は、“意味”よりも“用字”の運用です。実務では、院内掲示や患者配布物は読みやすさとクレーム回避が最優先になり、難読の可能性がある表記を減らす方向に寄ります。総合東京病院が「現在はひらがな表記か差すが一般的」と明言している点は、文章作成の判断材料として使いやすいです。
医療従事者向けブログなら、次のような書き分けが安全です。
・本文の基本表記:「目薬を差す」「目薬をさす」
・補足として:点す=点眼の語感、注す=注ぐの古い用法、差す=現代文書で使いやすい
この整理は「点す・注す・差す」の三つを並べ、それぞれのニュアンスと“公的文章は差す/さすが推奨されやすい”という結論に導く説明と相性が良いです。
また、患者さんから「目薬をうつ」と言われるケースもあり、現場では誤用を責めるより意味確認を優先する、という運用が紹介されています。表記だけを正してもアドヒアランスは上がらないので、「目薬を差す(点眼する)という意味ですね」と受け止め、手技に話題を戻すのが実際的です。
検索上位は「差す・点す・注すのどれが正しいか」に寄りがちですが、医療現場の独自視点として強調したいのは「点眼瓶の汚染リスクを“表記の話”とセットで伝える」ことです。総合東京病院は、目と瓶の間が液体でつながると涙液が瓶内に逆流して不潔になりうる、と具体的に説明しており、これは患者教育のフックとして有用です。
ここを踏まえると、記事内の言い回しも変えられます。たとえば「目薬を差す(点眼する)ときは、先端が触れない距離を保つのがコツで、近づけすぎると逆流で不潔になることがある」と書けば、読者は“漢字の正解”より“安全な行動”に意識が向きます。さらに、家族が介助して点眼する場合も同じで、介助者が焦って先端を接触させやすいため、介助者向けの一文を足すと実務的価値が上がります。
最後に、医療従事者向けの文章では、表記の結論を「差す(またはひらがな)」に寄せつつも、現場教育として「点眼=1滴=触れない=逆流を避ける」を太字や絵文字で強調すると、行動変容につながりやすいです。言葉の正しさを扱う記事ほど、手技の“なぜ”を添えると読後に残ります。
参考:表記(差す/点す/注す)と常用漢字、公的文書での推奨の考え方
目薬のおはなし
参考:差す・点す・注すの意味と由来、医療現場での使い分けの整理
目薬は「点す」?「注す」?「差す」?正しい表記は?
参考:点眼時に「先端がまぶたやまつげに触れない」ことの重要性(患者向けの基本手順)
点眼薬の正しい使いかた