新生児黄疸は医療現場で最も頻繁に遭遇する病態の一つであり、適切な管理により重篤な合併症であるビリルビン脳症を予防することができます。本記事では、最新のガイドラインに基づく効果的な治療戦略について解説します。
光線療法は新生児黄疸に対する第一選択治療として確立されており、波長400~700nmの青色光または緑色光を皮膚に照射することで、皮下のビリルビンを光異性体化し水溶性に変化させる治療法です。この治療により、ビリルビンは便や尿中に効率的に排泄されます。
現在の光線療法器は従来のスタンド型から進歩し、ベビーコット一体型(ベッド型)光線療法器が普及しています。これにより治療中も母子同室が可能となり、母親の心理的負担を軽減できます。また、着衣での照射も可能で、視覚的なショックも軽減されます。
光線療法の適応基準は、総ビリルビン値と日齢、出生体重を組み合わせて決定します。成熟児では通常18mg/dLを超えることはありませんが、この基準値を超える場合や急激な上昇を認める場合には積極的な治療が必要です。
治療効果のモニタリングには、定期的な血清ビリルビン測定が不可欠です。治療中は発熱や不感蒸泄の増加、下痢などの副作用が生じる可能性があるため、水分バランスの管理も重要となります。
交換輸血は光線療法で効果が不十分な重症黄疸に対する治療選択肢であり、新生児から血液を抜き取りながら同時にドナー血と交換する治療法です。この治療は集中治療室での厳密な管理下で実施されます。
交換輸血の適応基準は、アメリカ小児科学会の2022年更新ガイドラインに基づき、総ビリルビン値が25mg/dLを超える場合や、光線療法を4-6時間実施してもビリルビン値の低下が認められない場合に検討されます。特にABO血液型不適合や溶血性疾患が原因の黄疸では早期の交換輸血が必要となることがあります。
実施前の準備として、血液型検査、交差適合試験、感染症検査が必須です。交換量は通常、新生児の循環血液量の約2倍(160-180ml/kg)を目安とし、全血または濃厚赤血球製剤を使用します。
合併症として出血、血栓、電解質異常、感染症などのリスクがあるため、経験豊富な医療チームによる慎重な実施が求められます。治療後は継続的なビリルビン値のモニタリングと、神経学的異常の評価が重要です。
従来の総ビリルビン測定に加えて、アンバウンドビリルビン(UB)測定が注目されています。アンバウンドビリルビンは、アルブミンと結合していない遊離型のビリルビンを指し、血液脳関門を通過して脳組織に毒性を示す可能性が高い成分です。
神戸大学が提案した早産児の黄疸管理指針では、総ビリルビン値とアンバウンドビリルビン値を組み合わせた管理基準を採用しています。この基準により、Low モード光線療法、High モード光線療法、交換輸血の適応をより精密に決定できます。
測定方法は専用の測定機器を用いて行われ、特に早産児や低出生体重児では、総ビリルビン値が比較的低くても脳症のリスクが高い場合があるため、アンバウンドビリルビン測定による評価が有用です。
早産児の管理では、生後0-6日までは可能な限り連日の血清TB・UB測定、7-13日までは2-3日毎の測定、14日-退院まではTcB(経皮ビリルビン)測定を基本とし、TcB 8以上であれば血清TB・UB測定を行う方法が推奨されています。
ABO血液型不適合や溶血性疾患による新生児黄疸は、生後24時間以内に急激にビリルビン値が上昇する特徴があり、早期診断と積極的治療が必要です。母親がO型で新生児がA型またはB型の場合、または母親がRhマイナスで新生児がRhプラスの場合に発生しやすくなります。
G6PD(グルコース-6-リン酸脱水素酵素)欠損症は、赤血球の破壊を促進する遺伝的要因として重要です。この酵素欠損により、通常よりも赤血球が破壊されやすくなり、重篤な黄疸を引き起こす可能性があります。
治療選択肢として、従来の光線療法と交換輸血に加えて、メチルプレドニゾロンなどの免疫調節治療が検討される場合があります。これは特に重症例で標準治療が効果不十分な場合の追加治療として位置づけられます。
ガンマグロブリン点滴療法も溶血性疾患による黄疸の治療選択肢の一つです。この治療は溶血反応を抑制し、ビリルビン値の上昇を防ぐ効果が期待されますが、適応は慎重に検討する必要があります。
母乳性黄疸は新生児黄疸の重要な原因の一つであり、適切な授乳指導により予防・軽減が可能です。母乳哺育黄疸と母乳性黄疸の2つのタイプがあり、それぞれ異なるアプローチが必要です。
母乳哺育黄疸は授乳回数の不足や授乳量の不足が原因となるため、1日8~12回以上の頻回授乳が推奨されます。授乳技術の向上により、多くの症例で改善が期待できます。授乳姿勢の指導、赤ちゃんの吸着方法の確認、母乳分泌量の評価が重要な要素となります。
母乳性黄疸の場合、母乳に含まれる特定の成分がビリルビンの代謝を阻害することが原因とされています。この場合、1~2日間の母乳中断により診断を確定し、ビリルビン値の低下を確認した後に母乳授乳を再開します。
重要な点として、核黄疸の発症リスクよりも母乳授乳の有益性が勝るため、基本的には母乳授乳の継続を優先します。水や砂糖水の投与は、母乳や人工乳の摂取量減少を招くため推奨されません。
治療中の母子分離による心理的影響を最小限に抑えるため、可能な限り母子同室を維持し、家族への十分な説明とサポートが必要です。現代の治療器具の進歩により、治療を継続しながら授乳やスキンシップが可能となっています。