ポルトラック原末(一般名:ラクチトール水和物)は「非代償性肝硬変に伴う高アンモニア血症」に用いる薬剤で、用法及び用量は「通常、成人には1日量18~36gを3回に分けて、用時、水に溶解後経口投与」と記載されています。
ここで重要なのは、「水に溶解」は明記されている一方で、「水の量(mL)」が添付文書の用法及び用量そのものには規定されていない点です。
つまり、水の量は“薬効の本体”というより「服用しやすさ」「安全に続けるための工夫」の領域に入りやすく、現場では患者の嚥下・嗜好・服薬アドヒアランスに合わせた最適化が必要になります。
一方で、同じ添付文書には「水様便があらわれた場合には、減量又は投与を一時中止すること」という用法及び用量に関連する注意が明記されます。
参考)https://www.carenet.com/drugs/materials/pdf/530263_3999015A1039_1_05.pdf
この一文が示す臨床的メッセージは明確で、「最終的に目指すのは“適量の軟便”であり、下痢(水様便)まで行ったらやり過ぎ」という調整型の薬である、ということです。
参考)https://jsimd.net/pdf/portolac-document.pdf
したがって「水の量」を考えるときも、単に溶かすmLの話で終わらせず、便性状・便回数の観察、増量スピード、患者の水分制限の有無(肝硬変合併症の状況)まで含めて設計すると事故が減ります。
補足として、添付文書には「溶解後、24時間安定であることが確認されている」とも記載されています。
これは、すぐに飲めない場面(病棟での作り置きの可否、在宅での準備の相談)を考えるうえで、地味ですが実務に効く情報です。
患者向け情報(くすりのしおり)では、服用時の目安として「コップに、めやすとして100mLの水またはぬるま湯で、薬をとかして飲んでください」と具体的なmLが提示されています。
この「100mL」は、添付文書の“必須条件”というより、再現性が高く説明しやすい「標準手技」として価値が高い数字です。
現場で「水の量はお好みで」と言ってしまうと、極端に少量で練り状になって飲みにくくなったり、逆に大量で飲み切れず服薬中断につながったりします。
目安を運用するコツは、まず100mLを“基準点”として提示し、患者の事情で上下に動かすことです。
参考)くすりのしおり : 患者向け情報
例えば、嚥下が弱い・むせやすい患者は「一気に飲む量が多い」こと自体が負担になるので、同量の薬を少量の水で溶かし、少しずつ飲む方が安全なことがあります(ただし“濃すぎて飲みにくい”は逆効果になり得ます)。
逆に、甘味が強い薬が苦手な患者では、100mLよりやや多めにして味を薄めた方が継続しやすいことがあります。
ここで、医療従事者が押さえるべき境界線は「水の量を増やしたら薬効が強くなる/弱くなる」と単純化しないことです。
ラクチトールは腸管内での作用によりアンモニアの生成・吸収抑制に寄与するとされ、作用機序は腸内細菌叢や腸管内pHなど複数要素が関与します。
水の量は主に“飲ませ方の最適化”であり、効果判定はあくまで便性状・便回数(目標は1日2~3回程度の軟便がみられる量)と安全性(下痢・水様便)で調整する、という筋道がブレないように説明するのがポイントです。
添付文書は、下痢が副作用として一定頻度で起こり得ることを示し、さらに「水様便があらわれた場合には、減量又は投与を一時中止」と具体的対応まで書いています。
つまり、患者が「水の量を増やしたら下痢になった」「少なくしたら効かない気がする」と訴えた場合、議論の中心は“水のmL”ではなく“投与量と増量計画”へ戻すべきです。
実務では次のような説明が誤解を減らします(病棟・外来・在宅で共通に使えます)。
また、肝硬変患者では、病態や合併症によっては水分摂取に配慮が必要な局面があります。
肝硬変合併症の資料では「水分摂取量制限は基本的に不要だが、低ナトリウム血症のある時は1,000mL/day以下に制限」といった記載があり、水分戦略が一律でないことが示唆されます。
参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2010/103131/201030005A/201030005A0012.pdf
このため、ポルトラックを溶かす“100mL”が患者の全体の水分設計に影響するケース(厳格な水分制限、嚥下制限、夜間頻尿の訴えなど)では、主治医の方針に沿って「服用回数×溶解水の量」まで含めた説明が必要になります。
参考:肝硬変合併症の水分制限(低ナトリウム血症時など)の考え方
肝硬変合併症の診断・治療(低Na時の水分制限など)
添付文書の「溶解後、24時間安定であることが確認されている」という記載は、意外に見落とされがちですが、運用設計に直接効きます。
例えば、病棟では「服薬直前に溶かす」が理想でも、夜勤帯の負荷や服薬介助の都合で、一定の範囲で前もって溶かしておきたいことがあります。
在宅でも、手が震える患者、認知機能が低下している患者、介護者が一括で準備するケースなどでは、「作ってすぐ飲めない」現実が起こります。
このとき「24時間安定」という情報は、むやみに“不適切”と断定せず、現場の制約に沿った現実解を提示する根拠になります。
ただし、安定性が確認されているからといって、衛生面(容器の清潔、室温放置の条件)や誤投与リスク(誰の分か、何gか、いつ作ったかが曖昧になる)まで自動的に解決するわけではありません。
そこで、実務上は次のチェック項目をセットで指導すると安全域が上がります。
ポルトラックは「1gあたり約2kcalのエネルギーを有し、1日量18~36gでは36~72kcalに相当する」と添付文書に明記されています。
高アンモニア血症の患者は、栄養療法(摂取エネルギー、たんぱく質、分割食など)と薬物療法が並走することが多く、薬の“カロリー”が会話に出るタイミングがあります。
ここで「水の量」を絡める独自の実務ポイントは、患者が“甘い=糖=危ない”と誤解して自己中断しないように、カロリーの事実を短く提示して安心材料にすることです。
患者説明の例。
また、薬が腸内で分解され、有用菌(Bifidobacterium)を増加させ、短鎖脂肪酸産生などを通じて腸管内環境に影響する、という作用機序の説明は、患者の納得感を上げやすいポイントです。
「水の量」の相談は一見すると服薬手技の話ですが、背景には“続けられるかどうか”の不安が潜むため、作用機序・便目標・中止基準(水様便)をセットで説明する方が、結果的に水の量の迷いも減ります。