PPIとH2ブロッカーが同一処方に並んだ時点で、まず「原則として認めない」という審査の大枠を前提に動くのが安全です。
社会保険診療の審査側は、H2ブロッカーとPPIを「同効薬」と捉え、どちらも単独使用で所期の効果が期待できるため併用は基本的に不要、というロジックで基準を統一しています。
この“原則”を知らずに調剤・請求まで進めると、医療機関側・薬局側いずれにも手戻り(返戻・査定対応、患者説明の再構築)が発生しやすく、結果的に現場全体の負担が増えます。
では、疑義照会で何を確認するか。ポイントは「意図」と「期間(服用時点)」です。
審査基準の資料でも“例外”の考え方として、服用時点が異なるため併用投与ではないことが症状詳記等から判断できる場合は認め得る、という整理が明確に示されています。
つまり、処方箋の見た目が「併用」に見えても、実態が「切替の重なり」「短期間の移行」「服薬タイミングのずれ」などなら、疑義照会の着地点が変わります。
疑義照会の実務では、次のような質問が有効です(電話で30秒〜1分で聞ける形に落とします)。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8281649/
保険の観点では、H2ブロッカーとPPIの併用は「原則として認めない」と審査基準が統一されているため、正当な理由や“併用ではない”説明が薄いと査定・返戻のリスクが上がります。
厚労省資料でも、地域差(認める/認めない)の不合理を解消する流れの中で、H2ブロッカーとPPIの併用投与は原則認めない方向に整理された経緯が示されています。
現場感としては「医師の臨床判断の個別性」と「保険審査の画一性」が衝突しやすいテーマで、疑義照会が“医学的に正しいか”だけでなく“保険上の説明可能性があるか”も同時に問われます。
薬理の観点では、両者は胃酸分泌抑制に働く点で作用標的が異なりつつも、目的が重なるため同効扱いになりやすいのが本質です。
支払基金の整理では、胃酸分泌は壁細胞への刺激(ヒスタミンなど)を経てプロトンポンプから酸が分泌される仕組みであり、H2ブロッカーとPPIはいずれも胃酸分泌抑制を狙う薬剤として説明されています。
この“狙いが重なる薬”を漫然と二重に使うと、効果の上積みが確実ではない一方で、処方の合理性説明(症状詳記・適応・期間設計)が難しくなる、というのが疑義照会の核心です。
ここで意外に重要なのが「患者安全」ではなく「処方設計の曖昧さ」がトラブル源になりやすい点です。
例えば、患者が「2剤とも“胃薬”だから両方飲む」と解釈しやすい処方は、それ自体が服薬アドヒアランスの誤解を招きます。
疑義照会は“削るための電話”ではなく、患者が迷わない設計にするための処方意図の明文化、という位置づけで捉えると、医師側とも合意が作りやすくなります。
PPI抵抗性の難治性逆流性食道炎では、夜間の効果減弱、すなわちnocturnal gastric acid breakthrough(NAB)に対して、速効性のあるH2ブロッカーが効果的という報告がある、という整理が支払基金の資料にも明記されています。
一方で、その効果は1週間程度で長期投与では効果が減弱するとの報告があり、併用効果について一定の見解が得られていない、と同資料は釘を刺しています。
ここが実務の分岐点で、「NABっぽいから足した」という口頭説明だけでは、長期併用の合理性が弱く見えやすい点に注意が必要です。
さらに同資料では、PPI抵抗性の難治性逆流性食道炎に対しては、まずPPIの倍量または1日2回投与が強く推奨されている、とガイドライン(2015)に触れています。
つまり、疑義照会で“例外的併用”を相談する際は、①PPI最適化(用法用量、服用タイミング、アドヒアランス)をやり切ったのか、②それでも残る夜間症状に対する短期介入なのか、をセットで確認すると筋が通ります。
この確認ができると、医師側も「じゃあ就寝前H2を7日だけ」「PPIを分2に変更」など、処方の再設計に繋げやすくなります。
実務上の提案フレーズ例(相手の裁量を尊重しつつ、論点を提示します)。
厚労省資料では、例外として「服用時点が異なるため併用投与ではないことが症状詳記から判断できる場合等は認める」と示されています。
この一文は、薬局側が“どんな情報を処方元から引き出せばよいか”のチェックリストにもなります。
疑義照会で確認した内容を、処方元が症状詳記や処方コメントに落とせると、審査・監査・院内問い合わせのすべてが楽になります。
症状詳記や処方意図として、具体的に効く項目は次のとおりです。
「症状詳記を書いてください」とだけ言うと角が立つことがあります。
そこで、薬局側は“審査基準の例外条件を満たす情報”を短い定型文として提案すると、医療機関側の手間が減ります。
例(電話口でそのまま読める形)。
参考:審査基準の統一(原則併用不可・例外の考え方)の根拠部分
厚労省資料:H2ブロッカーとPPI併用は原則認めない/例外は服用時点が異なる等(審査基準統一の説明)
参考:支払基金が公表している併用取扱いの趣旨(NAB、1週間程度で効果減弱、まずPPI最適化)
支払基金資料:H2ブロッカーとPPI併用投与の取扱い(原則認めない、NABの記載、PPI倍量・分2推奨)
併用が出た瞬間、現場が陥りやすい落とし穴は「保険で通るか」だけを見て、患者の服薬行動の設計が後回しになることです。
厚労省資料が示す“来院日1日だとレセプト上は併用に見えるが、実際は切替という治療法も存在する”という文脈は、患者側から見れば「結局どれをいつ飲むのか」が最重要、という示唆でもあります。
疑義照会で処方意図が確認できたら、患者には「期間」「タイミング」「終了条件(何が起きたら中止・受診)」までセットで渡すと、医療安全と保険リスクの両方が下がります。
実務で効く“患者説明テンプレ”の例です(処方内容に合わせて調整)。
ここまでやると、疑義照会は“削除の交渉”ではなく“治療計画の共有”になり、処方元との関係も改善しやすいです。
そして最終的に、薬局の価値が「査定回避」だけではなく「患者が迷わない導線設計」に見える形で残ります。
PPIとH2ブロッカーはどちらも現場で頻出だからこそ、疑義照会の型を作り、短時間で確認→記録→患者説明まで一気通貫にするのが、明日から効く運用です。

PPI FE Chemical Review Manual – Comprehensive Review Guide for the NCEES FE Chemical Exam