逆流性食道炎は胃酸が食道に逆流することで生じる疾患で、その症状は典型的なものから非典型的なものまで多岐にわたります。
典型的症状
これらの症状は空腹時や夜間に悪化しやすい特徴があります。
非典型症状
逆流した胃酸が喉や気管支を刺激することで、これらの症状が出現します。特に高齢者では腰部後弯により常に胃酸逆流しやすい状態となるため、症状が持続しやすく注意が必要です。
有病率は日本人で約10%とされており、症状の重症度と内視鏡所見の程度は必ずしも相関しないため、症状の詳細な聴取が診断において重要となります。
逆流性食道炎の診断には上部消化管内視鏡検査が必須であり、胸焼けや呑酸などの胃酸逆流症状の問診と併せて総合的に判断します。
内視鏡検査の意義
内視鏡検査では食道下端のびらん、潰瘍、粘膜の白濁などの色調変化を観察し、ロサンゼルス分類(星原改訂)により重症度を分類します。
ロサンゼルス分類の詳細
グレード | 内視鏡所見 | 治療方針 |
---|---|---|
N | 正常 | 経過観察可能 |
M | 最小変化 | 症状があれば治療 |
A | 軽度びらん | 症状があれば治療 |
B | 中等度びらん | 症状があれば治療 |
C | 重度びらん | 症状の有無に関わらず治療 |
D | 最重度 | 症状の有無に関わらず治療 |
治療適応の判断
内視鏡上の粘膜障害の程度は胃酸逆流の程度と相関しますが、症状の程度とは必ずしも相関しないため、患者の生活の質(QOL)を考慮した治療選択が重要です。
逆流性食道炎の薬物治療では胃酸分泌抑制が中心となり、複数の作用機序を持つ薬剤が使用されます。
胃酸分泌抑制薬
1. プロトンポンプ阻害薬(PPI) 💊
胃壁細胞のプロトンポンプ(H⁺/K⁺-ATPase)を不可逆的に阻害し、強力な胃酸分泌抑制作用を示します。
代表的薬剤。
長時間にわたる胃酸分泌抑制効果があり、逆流性食道炎治療の第一選択薬として位置づけられています。
2. カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB) ⚡
ボノプラザン(タケキャブ®)は2015年に発売された新しいクラスの薬剤で、PPIよりも強力で迅速な胃酸分泌抑制作用を示します。酸による活性化が不要で、酸に対して安定した作用を発揮するため、効果発現が早いという特徴があります。
3. H2受容体拮抗薬(H2ブロッカー) 🛡️
胃酸分泌細胞のヒスタミンH2受容体を競合的に阻害し、胃酸分泌を抑制します。
補助薬
制酸薬・粘膜保護薬
胃酸の中和や食道粘膜の保護を目的として使用されます。
消化管運動機能改善薬
胃の運動を改善し、逆流した胃酸を胃に押し戻すとともに、胃からの排出を促進します。胸焼けや呑酸感だけでなく、胃もたれや食後の不快感、げっぷの改善効果も期待できます。
逆流性食道炎の薬物選択では、症状の重症度、内視鏡所見、患者背景を総合的に考慮した個別化治療が重要です。
第一選択薬の選択基準
PPI vs P-CAB の使い分け
現時点でボノプラザン(P-CAB)とPPIの使い分けに明確なルールはありませんが、以下の特徴を考慮して選択します。
P-CAB(タケキャブ®)の適応。
PPI継続の適応。
H2ブロッカーの位置づけ
市販薬としても入手可能で、軽症例や間欠的な症状に対する初期治療として有用です。ただし、市販薬で効果が不十分な場合は、医療機関でのPPIやP-CABの処方を検討すべきです。
治療効果判定と調整
併用療法の考え方
胃酸分泌抑制薬単独で効果不十分な場合。
高齢者では腰部後弯により常に胃酸逆流しやすい状態が続くため、より強力な胃酸分泌抑制薬が必要となることが多く、長期的な治療戦略の立案が重要です。
逆流性食道炎の治療成功には薬物療法と生活習慣改善の両立が不可欠であり、薬物療法のみでは根本的な解決に至らない場合があります。
生活習慣改善の具体的指導 📋
食事・食習慣の調整
体重・姿勢管理
その他の生活習慣
薬物療法の限界と課題 ⚠️
治療抵抗性
約10-20%の患者でPPI治療に対する不応性が報告されており、以下の要因が関与します。
長期使用のリスク
PPI長期使用に伴う潜在的リスク。
維持療法の必要性
治療中止後の再発率は高く(60-90%)、多くの患者で長期的な維持療法が必要となります。間欠療法やオンデマンド療法も選択肢として考慮されます。
手術適応の検討
薬物療法抵抗性で生活の質が著しく低下している場合、腹腔鏡下噴門形成術などの外科的治療も選択肢となりますが、適応は慎重に検討する必要があります。
逆流性食道炎は慢性疾患であり、患者教育と長期的なフォローアップが治療成功の鍵となります。薬物療法の効果と限界を理解し、個々の患者に最適化された包括的なアプローチを提供することが医療従事者に求められています。