日本の医療制度では、一連の病気に対して保険診療と自由診療を併用する「混合診療」は原則として禁止されています。混合診療を行った場合、その日の診療費全体が自由診療(全額自己負担)として扱われるのが原則です。ym1-sr
厚生労働省が混合診療を原則禁止している背景には、患者の負担が不当に拡大するおそれや、安全性・有効性が確認されていない医療が保険診療と併せて実施されてしまう懸念があります。本来は保険診療により一定の自己負担額において必要な医療が提供されるにもかかわらず、患者に対して保険外の負担を求めることが一般化することを防ぐためです。cmic-hci
混合診療の禁止は、保険医療機関および保険医に対する強制規範であり、条文上の根拠も存在します。療養担当規則に違反すれば、健康保険法80条、81条に基づき保険医療機関の指定取消または保険医の登録取消の処分対象となります。ipss
同日に保険診療の対象疾患と自費診療の対象疾患を診療した場合、保険診療の基本診療料(初診料、再診料)は算定できません。これは健診同様、自費診療の診察料に含まれると考えられるためです。tokyo.med
特に注意すべきケースとして、健康診断や予防接種と同日の保険診療があります。健康診断や(自費の)予防接種は自由診療であり、これらの目的で来院した日に別の病気が見つかり保険診療を行ったとしても、原則として保険診療分の初診料・再診料は請求できません。これは診察という行為が健康診断や予防接種の費用にすでに含まれていると解釈されるためです。ym1-sr
この場合、保険診療と自由診療のカルテを分け、保険診療のレセプト(診療報酬明細書)には「初診料(再診料)は健診(予防接種)にて算定済み」のようにコメントを記載し、診察料を請求しないようにします。実務上は、自費診療の診察料に含まれると考えて対応することが求められています。tokyo.med+1
ニキビ治療(保険診療)と医療脱毛(自由診療)を同日に行うこと自体は混合診療にはあたりません。完全に別の疾患や目的である場合には、同日実施が認められるケースがあります。ym1-sr
ただし、同日に別の疾患で保険診療と自由診療を実施する場合でも、基本診療料の算定には注意が必要です。自費診療領域において診察料が自費で取られているため、保険で基本診療料が取れないと考えられています。美容注射を行う前に患者に対して診察を行っている場合、そこで診察料がすでに自費で取られているため、保険で基本診療料を算定できません。shirobon
美容皮膚科と保険診療を同日に行うことも原則として禁止されており、美容皮膚科に来院した方は同日に保険適応で内服薬・外用薬を処方することができません。保険診療に来院した方も同日にビタミン剤を自費で購入することや、美容皮膚科のメニューを受けることができません。kumamoto-kazuyohifuka
混合診療は原則禁止ですが、例外として「保険外併用療養費制度」が設けられています。この制度は、厚生労働大臣が定めた場合に限り、保険外診療の併用が認められるものです。cmic-hci
保険外併用療養費制度とは、原則として禁止されている「混合診療」の例外として、保険適用されていない医療と保険診療の併用を認めるものです。例外的な混合診療が認められると、保険診療分の治療費は1~3割負担で、自由診療分の治療費は全額自己負担と分けて考えることが可能になります。credo-m+1
保険外併用療養費制度には、評価療養と選定療養が含まれます。評価療養には先進医療などが含まれ、選定療養には差額ベッド代や時間外診療などが含まれます。これらの制度により、一定のルールの下で混合診療が認められています。wikipedia+1
医療機関では、保険診療と自由診療を適切に区分管理することが求められます。同日に自費診療と保険診療の両方を希望する場合には、日を分けてそれぞれ受診するよう患者に説明する必要があります。eki-kuri
美容皮膚科クリニックにおいて、同日に行ったピーリングやレーザー治療などが保険請求に含まれていた事例があり、厚生局から「混合診療の疑い」と判断されました。このような指摘を避けるためには、保険診療と自由診療の区分を明確にし、適切な記録とレセプト処理を行うことが重要です。medical-takt
保険診療と自由診療を同日に受ける場合、保険診療と自由診療の診察代をそれぞれ頂くことはなく、初診代と再診代は10割負担(自費診療と同額)で算定されるという対応を取る医療機関もあります。ただし、これは医療機関ごとの運用方針によって異なる場合があるため、事前に患者に説明することが重要です。tsc
興味深い点として、同日に別の医療機関で保険診療と自費診療を受けた場合については、混合診療にはあたらないという解釈があります。例えば同日の午前にA院で自費の検診を受けて、午後にB院で保険診療を受けた場合は、別々の医療機関であるため混合診療の問題は生じません。shirobon+1
東京都医師会「保険外の患者負担について」
保険診療と自費診療の同日実施における基本ルールと初診料・再診料の算定方法について詳細に解説されています。医療機関が実務で参考にすべき重要な情報源です。
厚生労働省「保険診療と保険外診療の併用について」
混合診療の原則と保険外併用療養費制度の詳細について、厚生労働省が公式に説明しているページです。制度の根拠と運用方針を確認できます。

月刊/保険診療 2025年11月号: 特集 【Before2026】 診療報酬の最適化マニュアル~医療機能・施設基準・診療報酬の総点検~ (2025年11月号)