プリン体は、生命活動に不可欠な核酸(DNA・RNA)の主成分であり、細胞の核に多く含まれています。体内でのプリン体代謝は、生体の恒常性維持において重要な役割を果たしています。プリン体は体内で代謝されると最終的に尿酸(uric acid)に変換されます。
尿酸は水に溶けにくい性質を持ち、主に腎臓から排泄されますが、一部は消化管からも排泄されます。健康な状態では、尿酸の生成と排泄はバランスを保ちますが、このバランスが崩れると血中の尿酸濃度が上昇し、高尿酸血症を引き起こします。
高尿酸血症の診断基準は、年齢や性別にかかわらず血清尿酸値が7.0mg/dL以上とされています。健康診断や人間ドックでは、一般的に以下の基準値が使用されています。
尿酸自体は活性酸素を除去する抗酸化作用を持っており、体を酸化ストレスから守る役割も担っています。つまり、尿酸は一定量存在することが健康維持に必要なのです。問題は、その濃度が過剰になった場合です。
プリン体の過剰摂取は、体内で尿酸の生成量を増加させ、血中尿酸濃度の上昇を招きます。この状態が続くと、特に尿のpHが酸性に傾いた場合、尿中で尿酸が結晶化しやすくなり、尿路結石の形成リスクが高まります。
尿酸結石は全尿路結石の約10%を占め、尿酸が水に溶けにくい性質がその形成の主な原因です。尿酸の溶解度は尿のpHに大きく依存しており、pH 5.5以下では著しく低下します。このため、尿が酸性に傾いている人は特にリスクが高いとされています。
高尿酸血症から尿酸結石が形成されるリスク因子としては、以下のようなものが挙げられます。
また、高尿酸血症が続くと、尿路結石だけでなく痛風発作や痛風腎などの合併症も引き起こす可能性があります。日本における痛風患者数は年々増加傾向にあり、2019年の調査では約130万人と推定されています。また、高尿酸血症患者は約1000万人以上とも言われており、これは痛風患者の約10倍に相当します。
プリン体は多くの食品に含まれていますが、特に含有量が多い食品を知っておくことは、尿酸結石の予防において重要です。
プリン体の多い食品。
また、アルコール、特にビールはプリン体を多く含むだけでなく、体内でのプリン体産生を促進し、尿酸の排泄を抑制する三重の作用があります。ビールにプリン体が多い理由は、製造過程で麦芽の核酸が分解される際に大量のプリン体が生成されるためです。
尿路結石予防のための食事療法。
アルコール摂取の目安。
医学的に許容される範囲内として、以下のいずれか1つを週に2回程度とされています。
運動面では、週に2回、30分程度の有酸素運動(ジョギングや水泳など)が推奨されます。無酸素運動の過剰は逆に尿酸値を上昇させる可能性があるため注意が必要です。
尿酸結石による典型的な症状は、突然の激しい疝痛発作です。痛みの部位は結石の位置によって異なりますが、主に以下のような症状がみられます。
尿酸結石の特徴として、X線透過性であるため、単純X線写真では写らないことが多く、診断には以下の検査が有効です。
尿酸結石は通常、pH 5.5以下の酸性尿環境で形成されるため、尿pHの測定は診断において重要な指標となります。また、尿中に特徴的な尿酸結晶が観察されることもあります。
診断後は、結石のサイズ、位置、症状の程度に応じて治療方針が決定されます。小さな結石であれば経過観察と保存的治療が選択されますが、大きな結石や症状が強い場合には積極的な治療介入が必要となります。
プリン体代謝に関連する尿路結石の中でも、きわめて稀な症例として「2,8-ジヒドロキシアデニン(2,8-DHA)結石」が挙げられます。この結石は、アデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(APRT)と呼ばれる酵素の欠損症に起因します。
APRTは通常、アデニンをAMPに変換する役割を担っていますが、この酵素が欠損すると、アデニンが2,8-DHAに代謝され、尿中に排泄されます。2,8-DHAは水に極めて溶けにくい性質を持つため、尿中で結晶化しやすく、結石を形成します。
2,8-DHA結石の特徴的な所見としては、尿沈渣中に内部が車軸状を呈する黄褐色の円形結晶が観察されることです。この結石は通常のX線検査では尿酸結石と同様に透過性があるため、単純X線写真では描出されにくく、診断が遅れる原因となります。
APRT欠損症は常染色体劣性遺伝形式をとり、APRT*Jというアレルのホモ接合体として発症することが多いとされています。典型的には若年から繰り返す尿路結石や腎機能障害を特徴とし、早期に診断されないと腎不全に至る危険性があります。
診断には、尿中のプリンヌクレオチド代謝産物の分析(メタボローム解析)やAPRT活性測定、遺伝子解析などが有用です。治療としては、アロプリノールによるキサンチンオキシダーゼの阻害と、尿量の増加を図ることが基本となります。
プリン体代謝異常による結石症例は稀ですが、繰り返す尿路結石や若年での発症例、家族歴がある場合などは、通常の尿酸結石とは異なる病態の可能性を考慮する必要があります。適切な診断と治療が行われれば、腎機能の保持が期待できます。
2,8-DHAの詳細な症例報告についてはこちらの論文が参考になります
尿酸結石の治療法は、結石のサイズや症状の重症度によって異なりますが、大きく薬物療法と外科的治療に分けられます。
薬物療法(結石溶解療法)
尿酸結石の特徴として、アルカリ環境下では溶解しやすいという性質があります。このため、以下の薬剤が用いられます。
高尿酸血症を合併している場合は、尿酸降下薬の併用が重要です。ただし、高尿酸尿症(尿中尿酸排泄増加)が原因の場合は、尿酸排泄促進剤(プロベネシド、ブコロームなど)の使用は避けるべきとされています。
外科的治療
薬物療法で効果が得られない場合や、大きな結石、尿路閉塞がある場合には、以下の外科的治療が検討されます。
これらの治療法は、結石の部位やサイズ、患者の状態に応じて選択されます。特に2cm以上の大きな腎結石に対してはPNLが適応となることが多く、手術時間は3~4時間程度です。
再発予防のための管理
尿酸結石は再発率が高いため、再発予防のための長期的な管理が重要です。
患者教育においては、単にプリン体の摂取を避けるよう指導するだけでなく、適切な水分摂取の重要性や、市販の「プリン体ゼロ」と表示された商品だけに頼らない総合的な食生活指導が必要です。プリン体は生命活動に必要な物質であり、完全に排除することはできないため、バランスの取れた食事と適度な運動を継続的に行うことが大切です。