子宮頸がんの症状と治療方法
子宮頸がん診療の重要ポイント
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早期発見の難しさ
初期症状が乏しく、進行するまで気づかれないことが多い
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ステージによる生存率の差
早期発見で5年生存率は90%以上、進行期では50%以下
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個別化治療の重要性
患者の年齢・妊孕性希望・全身状態を考慮した治療選択が必要
子宮頸がんの初期症状と自覚症状の特徴
子宮頸がんは初期段階では無症状であることが多く、これが早期発見を困難にしている主要な特徴です。患者さんが自覚症状を感じ始める頃には、すでにがんが進行していることも少なくありません。検診で発見される無症状の初期症例と、症状を契機に発見される進行例との間には、予後に大きな差が生じます。
初期症状としては、以下のものが典型的です。
- 性交渉後の出血
- 月経期間外の不正出血(特に閉経後の出血)
- おりもの(帯下)の異常(量の増加、色・臭いの変化)
これらの症状は子宮頸がんに特異的なものではなく、他の良性疾患でも生じるため、患者さん自身が「がん」と結びつけて考えることは稀です。そのため、上記の症状を訴える患者に対しては、常に子宮頸がんの可能性を念頭に置いた診察が必要となります。
子宮頸がんが進行すると、より明確な自覚症状が現れます。
- 下腹部や腰の持続的な痛み
- 骨盤部の圧迫感
- 排尿時・排便時の痛み
- 尿や便への血液混入
- 片側または両側の下肢のむくみ
これらの症状が認められる場合、すでにがんが子宮頸部を超えて周囲組織へ浸潤している可能性が高いことを意味します。特に下肢のむくみは、がんによるリンパ節転移やリンパ管閉塞によるものであり、進行したステージを示唆します。
子宮頸がんのステージ分類と進行度による症状変化
子宮頸がんのステージング(病期分類)は、治療方針の決定と予後予測において極めて重要です。国際産婦人科連合(FIGO)の分類が世界的に用いられており、がんの広がり方によってステージ0からIV期に分類されています。
【ステージ別分類と主な症状】
- ステージ0(上皮内がん)
- がん細胞が基底膜を超えていない状態
- 通常は無症状
- 5年生存率:ほぼ100%
- ステージI
- IA期:浸潤が5mm以下、横への広がりが7mm以下
- IB期:浸潤が5mmを超える、または横への広がりが7mmを超える
- 症状:多くは無症状、一部に少量の不正出血
- 5年生存率:約90%以上
- ステージII
- IIA期:子宮頸部の周囲組織には広がらず、膣壁上部まで広がる
- IIB期:子宮傍組織に浸潤するが、骨盤壁までは達していない
- 症状:不正出血の増加、腹部不快感、圧迫感、排尿時痛
- 5年生存率:約80%
- ステージIII
- IIIA期:膣壁下部まで広がる
- IIIB期:骨盤壁まで広がるか、水腎症または腎機能障害を引き起こす
- IIIC期:骨盤内または傍大動脈リンパ節に転移
- 症状:持続的な出血、下腹部・腰痛、排尿障害、直腸症状
- 5年生存率:約40-50%
- ステージIV
- IVA期:膀胱または直腸粘膜に浸潤
- IVB期:骨盤外への遠隔転移
- 症状:多量の出血、激しい痛み、尿・便への血液混入、下肢のむくみ
- 5年生存率:約20%以下
ステージが進行するにつれて症状は顕著になり、特にステージIII以上では患者のQOL(生活の質)の低下が著しくなります。また、がんの進行に伴い全身症状(倦怠感、体重減少、発熱など)も出現することがあります。
子宮頸がんの標準治療:手術・放射線・化学療法
子宮頸がんの治療は、ステージ、患者の年齢、妊孕性(妊娠能力)温存の希望、合併症の有無などを考慮して個別に計画されます。標準治療としては主に手術療法、放射線療法、化学療法、およびこれらの併用療法が選択されます。
【手術療法】
- 円錐切除術(コーンバイオプシー)
- 対象:上皮内がん、微小浸潤がん(IA1期)
- 方法:子宮頸部の一部を円錐状に切除
- 特徴:子宮を温存でき、妊娠・出産の可能性が残る
- 注意点:切除後に子宮頸管が狭くなり、月経障害や妊娠時の早産リスク増加の可能性
- 単純子宮全摘出術
- 対象:浸潤が少ない早期がん(IA1期)
- 方法:子宮のみを摘出
- 特徴:比較的低侵襲で術後合併症が少ない
- 準広汎子宮全摘術
- 対象:微小浸潤がん(IA2期)、小さな浸潤がん(一部のIB1期)
- 方法:子宮と周囲の一部組織を摘出
- 広汎子宮全摘術
- 対象:浸潤がん(IB期~IIA期)
- 方法:子宮、子宮頸部周囲の結合組織、膣の上部、骨盤リンパ節を摘出
- 特徴:根治性が高いが、術後の膀胱機能障害や性機能障害などの合併症リスクも高い
【放射線療法】
放射線療法は主にステージIB期以上の症例に対して行われ、手術適応のない進行例や高齢者、合併症のある患者にも適用できる利点があります。
- 外部照射(体外照射)
- 体外から病変部に高エネルギーX線を照射
- 骨盤全体を照射するため広範囲の病変に有効
- 腔内照射(ブラキセラピー)
- 子宮腔内や膣内に放射線源を直接留置
- 腫瘍に高線量を集中できる利点がある
- 組織内照射
- 病変部に直接放射線源を挿入
- 特に大きな腫瘍や不規則な形の腫瘍に有効
放射線療法の主な副作用には、急性期(治療中~治療後数週間)の下痢、膀胱炎症状、皮膚炎などと、晩期(治療後数ヶ月~数年)の膣狭窄、直腸炎、膀胱炎、小腸障害などがあります。特に若年患者では卵巣機能の喪失による早期閉経症状に対する対策も重要です。
【化学療法】
化学療法は主にステージIVBの遠隔転移例や再発例に対して行われますが、近年では放射線治療の効果を増強するための同時化学放射線療法(CCRT)として広く用いられています。
- プラチナ製剤(シスプラチン、カルボプラチン)
- 単独または他の抗がん剤との併用で使用
- 放射線増感作用があり、CCRTの標準レジメンとして使用
- パクリタキセル
- プラチナ製剤との併用で使用されることが多い
- 進行・再発例に対する標準レジメンの一つ
- ベバシズマブ
- 血管新生阻害剤
- 再発・転移性子宮頸がんに対する併用療法として承認
- 生存期間の延長が示されている
化学療法の副作用としては、骨髄抑制(白血球減少、貧血、血小板減少)、嘔気・嘔吐、脱毛、末梢神経障害などがあり、適切な支持療法が重要です。
子宮頸がんの最新治療:免疫療法と分子標的薬
近年、子宮頸がん治療においても免疫療法や分子標的薬の研究・開発が進み、新たな治療選択肢として注目されています。特に従来の標準治療に抵抗性を示す再発・転移例に対する治療戦略として期待されています。
【免疫チェックポイント阻害薬】
免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞による免疫逃避機構を阻害し、自己の免疫系(主にT細胞)によるがん細胞攻撃を促進します。
- ペムブロリズマブ(抗PD-1抗体)
- 再発・転移性子宮頸がんのうち、PD-L1陽性かつMSI-High/dMMR症例に対して承認
- 単独療法での奏効率は約13-17%
- 2021年の臨床試験(KEYNOTE-826試験)では、標準化学療法にペムブロリズマブを追加することで全生存期間の有意な延長が示された
- ニボルマブ(抗PD-1抗体)
- 現在、複数の臨床試験が進行中
- CheckMate 358試験では、再発・転移性子宮頸がんに対して26.3%の奏効率が報告されている
KEYNOTE-826試験の結果と臨床的意義に関する論文
免疫チェックポイント阻害薬の特徴的な副作用として、免疫関連有害事象(irAE)が知られており、皮膚炎、下垂体炎、甲状腺機能異常、肺臓炎、肝炎、腸炎、1型糖尿病などが含まれます。これらの副作用の早期発見と適切な管理が重要です。
【免疫細胞療法】
- NK細胞療法
- 患者自身のNK細胞を体外で活性化・増殖させ、体内に戻す治療
- 現在は主に臨床研究として行われている
- 副作用が比較的軽微であることが利点
- 樹状細胞ワクチン
- がん抗原で刺激した樹状細胞を用いた治療
- 特にHPV関連抗原(E6、E7など)を標的とするものが研究されている
- 単独での効果は限定的だが、他の免疫療法との併用で効果増強が期待される
https://www.jstage.jst.go.jp/article/