小胞は脂質膜に包まれた袋状の構造体で、細胞内の物質貯蔵と輸送に不可欠な役割を果たしています。膜構造は細胞膜と同様の構造を持ち、内部空間を細胞質から分離することで、特殊な化学環境を維持しています 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E8%83%9E
小胞は膜の層数により分類され、単層小胞では1層のリン脂質二重層で構成される一方、多層小胞は複数の膜層を持ちます 。この構造の違いにより、異なる機能を担う小胞が形成されています。
小胞の機能は多岐にわたり、主要なものとして以下が挙げられます。
小胞輸送は、膜の出芽、輸送、融合という一連のプロセスで構成される精密なシステムです。この過程では、送り手のオルガネラの膜が出芽して輸送小胞を形成し、細胞骨格に沿って目的地まで運搬され、受け手のオルガネラと選択的に結合して膜融合を起こします 。
参考)https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E5%B0%8F%E8%83%9E%E8%BC%B8%E9%80%81
輸送小胞の形成には、コートタンパク質と呼ばれる特殊なタンパク質複合体が重要な役割を果たします。これらのタンパク質が小胞表面を被覆し、低分子量GTPaseによって制御されています。最近の研究では、このGTPaseがコートタンパク質の膜アセンブリーだけでなく、選択的な積み荷の取り込みにも関与することが明らかになっています 。
参考)https://biophys.jp/dl/journal/47-4.pdf
細胞内での小胞融合には、同型融合と異型融合の2種類の様式が存在します。同型融合では2つの小胞が急速に融合して1つの小胞になる一方、異型融合では一方の小胞がもう一方にゆっくりと吸収されていきます。この融合様式は主に小胞のサイズによって決定され、アクチンなどの細胞骨格タンパク質が融合過程を促進することが確認されています 。
参考)https://www.nips.ac.jp/nips_research/press/2024/04/post_535.html
小胞体は膜タンパク質や分泌タンパク質の翻訳後修飾と適正な折りたたみを担う重要な細胞小器官です。細胞に内外からの刺激負荷がかかると、小胞体内でのタンパク質折りたたみが障害され、小胞体ストレス状態が発生します 。
参考)https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2018.900051/data/index.html
小胞体ストレスが生じると、細胞は状態を改善するためにUPR(unfolded protein response)を発動し、折りたたみ不全の不良タンパク質を排除しようと試みます。しかし、過度あるいは持続的な小胞体ストレスはUPRでは対処しきれなくなり、最終的にアポトーシスを引き起こします 。
このアポトーシスによる細胞の脱落や組織の機能不全が、様々な疾患発症の引き金となります。小胞体ストレスが関与する疾患には、神経変性疾患、糖尿病、心血管疾患、がんなど多岐にわたる病態が含まれています。特に、タンパク質の異常蓄積を特徴とする疾患では、小胞体ストレスが病態の中心的な役割を果たすと考えられています 。
細胞分裂過程において、小胞は重要な機能を果たしています。細胞質分裂時には、膜小胞輸送システムが活性化され、小胞体で新規に合成されたタンパク質とエンドサイトーシスによって取り込まれたタンパク質が、トランスゴルジネットワークを通じて分裂中の細胞に供給されます 。
参考)https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2016.880465/data/index.html
エンドサイトーシスによって生じる小胞の形成は、細胞膜の陥入による「内向型分裂」の一形態として捉えることができます。これに対し、通常の細胞分裂は「外向型分裂」と分類されます。内向型分裂では細胞内に多くの小胞が形成され、特に神経細胞のような分化が完了した細胞では、この機能が細胞内環境の維持に重要な役割を果たしています 。
参考)https://ocw.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2021/04/2009_shinkatohananika_12.pdf
細胞分裂の最終段階である細胞質分裂では、エンドサイトーシスと膜融合の協調的な働きが必要不可欠です。この過程では、エンドサイトーシスによる小胞の取り込みと、分泌による小胞の放出が絶妙にバランスを取りながら進行し、2つの娘細胞の物理的分離を可能にしています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/biophys/56/1/56_013/_pdf
小胞の正常な機能は、健康維持において極めて重要な役割を果たしています。小胞体での適切なタンパク質folding(折りたたみ)は、細胞の恒常性維持の基盤となっており、この過程が障害されると様々な病態が引き起こされます。
細胞外小胞の研究から、細胞間のシグナル伝達における小胞の新たな役割が明らかになってきています。細胞外小胞は、エンドソーム由来のエクソソームと細胞膜由来の小胞に分類され、それぞれ異なる分泌機構を持ちます。これらの小胞は様々なタンパク質やmiRNAを内包し、受容細胞に取り込まれることで細胞間コミュニケーションを媒介しています 。
参考)https://bsw3.naist.jp/bsedge/0007.html
興味深いことに、細胞突起から分泌される細胞外小胞は、従来考えられていたよりも複雑で精巧な分泌機構を持つことが判明しています。細胞膜由来の小胞は細胞突起の切断により形成され、この過程はがん細胞の転移や免疫応答の調節に重要な役割を果たすと考えられています 。
小胞輸送の異常は、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患、糖尿病、動脈硬化症など、多くの疾患の病態形成に関与することが明らかになっています。したがって、小胞機能を支える適切な栄養摂取、ストレス管理、規則的な生活リズムの維持は、これらの疾患予防において重要な意義を持つと考えられます。