相対リスクだけを見て治療を判断すると、患者に実際には1%しか恩恵がない介入を「25%効果あり」と過大評価してしまうことがある。
相対リスク(Relative Risk、略してRR)は、曝露群(危険因子あり)の罹患リスクを、非曝露群(危険因子なし)の罹患リスクで割った値です。 医療の現場では2×2分割表(クロス集計表)を使って整理すると、計算ミスが格段に減ります。 jeaweb(https://jeaweb.jp/glossary/glossary017.html)
| 疾患あり | 疾患なし | 合計 | |
|---|---|---|---|
| 曝露あり | a | b | a+b |
| 曝露なし | c | d | c+d |
この表を元にすると、RRの計算式は次のようになります。
数字を使って確認しましょう。 高血圧患者100名・非高血圧患者100名を追跡した研究で、高血圧群では20名、非高血圧群では8名が脳卒中を発症したとします。曝露群リスク=20/100=0.20、非曝露群リスク=8/100=0.08、RR=0.20÷0.08=2.5。これは「高血圧があると脳卒中発症リスクが2.5倍」という意味になります。 rehatech-links(https://rehatech-links.com/2022/05/30/column-88/)
RRの解釈は以下の3段階で整理しておくと便利です。
RRは点推定値なので、必ず95%信頼区間(CI)とセットで報告することが原則です。 信頼区間が1をまたいでいる場合、その差は統計的に有意とはいえません。これは基本中の基本です。 webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.18916/J01397.2022250878)
「相対リスクが高い」から必ずしも「臨床的に重要な差がある」とはいえません。 絶対リスク減少(ARR)と治療必要数(NNT)を同時に確認することが臨床判断の鉄則です。 dnmjapan(https://dnmjapan.jp/relative-risk-and-absolute-risk/)
具体例で確認します。 対照群の再発率が4%、介入群が3%の研究を考えます。 dnmjapan(https://dnmjapan.jp/relative-risk-and-absolute-risk/)
「25%も改善する」というフレーズは一見すると魅力的です。ところが実際には100人治療してやっと1人が再発を防げるという水準です。 これが「相対リスクだけを見ると過大評価する」という現象の典型例です。 dnmjapan(https://dnmjapan.jp/relative-risk-and-absolute-risk/)
同じ相対リスク0.5でも、元のリスクが40%であれば絶対リスク差は20%、NNTは5人。元のリスクが2%であれば絶対リスク差は1%、NNTは100人です。 数値の重みがまったく異なります。 dnmjapan(https://dnmjapan.jp/relative-risk-and-absolute-risk/)
つまり相対リスク単独では不十分です。
インフォームドコンセントや医師への説明においても、ARRとNNTを提示することで患者が実感に近い形でリスクを理解できます。日本医療機能評価機構のMinds診療ガイドライン作成の手引きにも、RRとNNTの併記が推奨されています。
Mindsガイドライン作成の方法論フレームワーク(日本医療機能評価機構):ARRとNNTの記載方法
相対リスクとオッズ比はよく混同されますが、使う場面が異なります。 コホート研究や無作為化比較試験(RCT)ではRRを、症例対照研究ではORを用いるのが標準です。 best-biostatistics(https://best-biostatistics.com/contingency/odds_risk.html)
オッズ比の計算式は OR = (a×d) ÷ (b×c) です。 この式ではリスク(確率)ではなくオッズ(発生数÷非発生数)を比較しているため、結果の意味が微妙にずれます。 halbau.world.coocan(http://halbau.world.coocan.jp/review/Evidence08.pdf)
喫煙と肺がんの研究で例を示します。 非喫煙者の肺がんリスクがもし90%超という極端な仮定であれば、喫煙者が100%発症してもRRは1.1どまりにしかなりません。しかし計算式の違いからORは何倍にも跳ね上がります。数字の乖離がどれほど大きくなるか、これは重要な注意点です。 med-statacademy(https://med-statacademy.com/storage/moviefile/192/NcgmJLgMVBMS2v0PgbAh12MKzEdAkeL31Rgbzztj.pdf)
RRとORの関係式は次のように表されます。 okumuralab(https://okumuralab.org/~okumura/stat/2by2.html)
RR = OR ÷ 1 − 非曝露群リスク + (非曝露群リスク × OR)
この式を知っておくと、症例対照研究のORをRRに換算して解釈することができます。これは使えそうです。
疫学用語の正確な定義を確認したいときは、日本疫学会の公式サイトが日本語で詳細にまとめています。
日本疫学会「疫学用語の基礎知識」相対危険:RR・リスク比の定義と信頼区間の算出方法
RRを正しく読むには、数値そのものだけでなく、その背景にある研究デザインの問題を理解することが必要です。 相対リスクは点推定値に過ぎず、精度は信頼区間で評価しなければなりません。 webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.18916/J01397.2022250878)
信頼区間が広い場合、サンプルサイズが小さく、推定精度が低い可能性を疑います。 たとえば「RR=2.5 (95%CI: 0.9–6.8)」であれば、信頼区間が1をまたいでいるため有意差なしです。一方「RR=1.3 (95%CI: 1.2–1.4)」は小さな値でも非常に精度の高いエビデンスを意味します。 webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.18916/J01397.2022250878)
交絡因子への対処も見落とせません。
ハザード比(HR)との混同も現場でよく起きます。 HRは生存時間解析で使い、「イベント発生の速さの比」を示します。追跡期間が均一でないデータや脱落例が多い研究ではRRではなくHRを用いるのが正解です。 rehatech-links(https://rehatech-links.com/2022/05/30/column-88/)
医療従事者にとって相対リスクを「計算できる」だけでは十分ではありません。患者への説明に落とし込む変換スキルが必要です。
研究では、患者に「相対リスク25%減少」と伝えた場合と「100人中1人減少」と伝えた場合とで、治療選択の意思決定が大きく変わることが示されています。 前者では治療を選ぶ割合が増え、後者では「それほどではない」と判断される傾向があります。これは認知バイアスの一種です。 dnmjapan(https://dnmjapan.jp/relative-risk-and-absolute-risk/)
臨床コミュニケーションで使えるセットは以下の3点です。
ARRが小さいとNNTは大きくなります。NNT=5は高い有効性、NNT>100は効果が限定的と解釈するのが一般的な目安です。
リスクコミュニケーションの実践的な詳細については、国立保健医療科学院のサイトが参考になります。
国立保健医療科学院「リスクの程度をどう伝えればよいですか?」:相対リスクと絶対リスクの計算例と説明方法
患者への説明時には「相対リスク表現」より「自然頻度表現(1000人中○人)」が誤解を生みにくいという研究もあります。 医療従事者がRRを正確に計算できるとともに、その数値を患者が正しく理解できる形に変換する力こそが、臨床での本当の価値を生みます。結論はシンプルです。RR単独でなく、ARR・NNT・信頼区間をセットで確認することが原則です。 ndrecovery.niph.go(https://ndrecovery.niph.go.jp/trustrad/risk_quantitative.html)