スピリーバレスピマット(レスピマット製剤)は、患者さんの「吸う力」に強く依存する粉末吸入(DPI)と異なり、ゆっくり持続的にミストが噴霧される点が特徴です。したがって、指導の中心は「強く吸う」ではなく、「ゆっくり深く吸って、噴霧と呼吸を同調させる」ことに置きます。特に高齢COPD患者では“急いで吸う”癖があるため、ここが最初の分岐点になります。
以下は、院内指導箋でも採用されやすい、再現性の高い基本手順です。患者説明は、この順番を崩さないと成功率が上がります。
・①キャップを閉じたまま、吸入器を上向きに持つ。
・②透明ケースを「カチッ」と音がするまで180度回転(回し過ぎ・回し不足に注意)。
・③キャップを完全に開ける。
・④息をゆっくり吐き出す(吸入口に向かって吐かない)。
・⑤マウスピース(吸入口)をしっかり口にくわえ、通気孔をふさがない。
・⑥「ゆっくり吸いながら」噴霧ボタンを押し、ミストをゆっくり深く吸い込む。
・⑦吸入後、5秒を目安に苦しくない範囲で息止め。
・⑧キャップを閉じ、同じ手順で2吸入目を行う(通常1日1回2吸入)。
この「回す→開ける→吐く→吸いながら押す→息止め→もう一回」の型は、指導者側が毎回同じ言い回しで伝えると定着が早いです。市立豊中病院の手順書でも、180度回転・通気孔を塞がない・5秒程度の息止め・通常1日1回2吸入が明確に示されています。
患者さんが「押すのが怖い」「いつ押すの?」と訴える場合は、「吸い始めてから押す」よりも「吸いながら押す」を強調すると、同調がとりやすくなります。押すタイミングが先行しすぎると、ミストが口腔内に滞留して咽頭刺激(むせ)につながり、結果として“吸入嫌い”を作ることがあります。
参考リンク(メーカーFAQ:キャップ開放で回すと誤噴霧、装填エラーの戻し方、3カ月ルールなど「こんなときは…」の実務情報)
https://www.bij-kusuri.jp/faq/srs_rmt/
レスピマットで意外に多いトラブルが「吸入手技」ではなく、初期セットアップ(カートリッジ挿入と初回準備)です。現場では、患者さんが“すでに回してしまった状態”で持参し、カートリッジが入らない・噴霧できない、という相談が起こります。ここは医療者が「戻し方」まで説明しておくと、電話対応や再指導の手間が減ります。
カートリッジ挿入の要点は次の通りです。市立豊中病院の手順書では、透明ケースを外す際に安全止めを押すこと、カートリッジは最後まで強く挿入することが具体的に書かれています。さらに、カートリッジを挿入する前に透明ケースを回転させない注意も明記されています。
・キャップを閉じた状態で、安全止めを押しながら透明ケースを外す。
・カートリッジは斜めにせず「まっすぐ」挿入する。
・固い平面の上でゆっくり押し込むなどして、最後までしっかり装填する。
・もし透明ケースを180度回してしまってカートリッジが入らない場合は、噴霧ボタンを押して元に戻してから挿入する(現場の“あるある”です)。
これらは、院内資料でもメーカーFAQでも共通しているため、指導内容の標準化がしやすい領域です。
次に初回の「ためし噴霧」です。初めて吸入する前には、下向きにして噴霧し、ミスト(霧)が出ることを確認する操作を繰り返す、と市立豊中病院の手順書に記載されています。薬液が目に入らないよう注意喚起がある点も、医療者が患者へ伝えるべき安全情報です。
・初回は、噴霧を行いミストが見えるのを確認する(目に入らないように下向きで)。
・ミスト確認後、同様の準備操作をさらに複数回繰り返し、噴霧が確実に行われることを確認する。
初回の準備が不十分だと、患者さんは「吸ったのに出ていない」「効かない」と感じやすく、早期中断の原因になります。吸入薬は“効かない”ではなく“入っていない”ことがしばしばあるため、初回指導の時間配分は投資価値が高いです。
参考リンク(病院薬剤部の具体的な手順書:カートリッジ挿入、初回準備、誤使用例、チェックリストまで載っていて指導に転用しやすい)
https://www.city.toyonaka.osaka.jp/hp/outpatient/section/pharmacy/inhaled_drug.files/su_03.pdf
スピリーバレスピマットの「注意点」は、吸入の成否に直結するものと、薬剤管理として重要なものに分けて説明すると、医療者側も整理しやすくなります。特に“通気孔をふさぐ”“キャップを開けたまま回転”“残数確認をしない”は、外来で実際に頻発します。市立豊中病院の誤使用例にも、通気孔をふさいでいる、キャップを開けたまま回転、180度以上回す/回せない、噴霧ボタンを押したまま回す、といった具体例が並んでいます。
吸入の成否に直結する注意点。
・通気孔を指でふさがない(ふさぐと吸気流が乱れ、ミスト取り込みが不安定になる)。
・キャップを開けたまま回転させない(微量の薬液が噴霧されることがあるため、必ずキャップを閉めて回す)。
・「回す」角度は180度(回しすぎ・途中で戻す・中途半端に回すと、無駄噴霧や不作動につながる)。
・噴霧口をのぞき込まない(目に入るリスクを避ける)。
これらは“操作の癖”として残りやすいので、患者さんが実演した時に、その場で手の位置と持ち方まで直すと効果的です。
薬剤管理として重要な注意点。
・残数表示を見て「0」になったらロックがかかる(残数の見方と、いつ受診・処方が必要かをセットで説明する)。
・高温・直射日光を避けて保管し、キャップを閉じ清潔に保つ(院内チェックリストでも指導項目になりやすい)。
・カートリッジを挿入してから3カ月以上経過したものは、薬液が残っていても使用しない(メーカーFAQで明記され、安定性試験の情報も示されています)。
この「3カ月ルール」は、患者さんが“もったいない”と感じて継続使用しがちなため、最初に強く伝える価値があります。吸入薬では、使用期限や保管条件の逸脱が、臨床効果の揺らぎだけでなく患者の信頼低下にもつながるためです。
また、うがいに関しては“吸入薬=必ずうがい”と画一的に伝えられがちですが、メーカーFAQでは「吸入ステロイド薬と併用する場合は吸入後うがいが推奨」「併用しない場合は吸入前後のうがいは不要」と整理されています。施設方針(全吸入薬でうがい指導)と患者の負担(手間・継続性)を天秤にかけ、少なくとも説明の根拠を医療者が把握しておくと、患者質問に一貫して答えられます。
現場で多い質問は、「カートリッジが入らない」「回してしまった」「回すと薬が出た気がする」「残っているのに使えない」「古い本体に新しいカートリッジを入れたい」など、“患者の工夫”が裏目に出たケースです。ここを想定しておくと、再診時の指導が短時間で済みます。メーカーFAQは、この“つまずきポイント”を具体的な手順で示しているので、医療者が内容を一度読んでおくと強いです。
代表的なエラーと対応。
・カートリッジ挿入前に透明ケースを回転させた→一度噴霧ボタンを押して元の状態に戻してから挿入する。
・カートリッジを斜めに挿入した→「まっすぐ」挿入し直す(装填後、下部から見える端が2~3mm程度なら装填できている目安が示されています)。
・キャップを開けたまま回転させた→微量噴霧が起こり得るため、今後は必ずキャップを閉じた状態で回す(構造上、キャップが閉じていると噴霧ボタンが押せない設計で誤噴射を防ぐ)。
・使用済み本体に新しいカートリッジを挿したい→再利用できず、目盛りもリセットされないため使用できない(本体とカートリッジはペアで使用)。
・カートリッジを挿して3カ月以上経った→薬液が残っていても使用しない。
これらは、医療者側が“ありがちなミス”として先回りで説明すると、患者さんは失敗しても自己解決でき、服薬継続率が上がります。
患者さんが「スペーサーが必要?」と質問することもありますが、メーカーFAQでは、レスピマットはゆっくり持続的にミストを噴霧するため、スペーサーなしでも容易に吸入でき、吸入補助器は作成していない旨が示されています。つまり、基本はデバイス単体での手技完成を目標にし、どうしても同調困難なら“再指導+環境調整(姿勢、呼気のタイミング、実演)”で改善を狙うのが実務的です。
検索上位の解説は「手順」を丁寧に説明してくれますが、医療従事者が本当に困るのは、“分かっているのにできない患者さん”への具体的な声かけです。ここでは、吸入指導の現場で効きやすい「息止め(5秒目安)」の教え方を、独自の視点として整理します。なお、息止め自体は市立豊中病院の手順書でも「5秒を目安」と明記されており、指導の根拠にできます。
息止めができない患者さんの背景は、単純な理解不足だけではありません。
・息を吐き切りすぎて苦しくなり、吸入後に止められない。
・吸入直後に咳が出てしまい、止められない。
・「止める=我慢」と捉えて不安になり、焦って呼吸が乱れる。
この場合、手順を繰り返すより、声かけの設計を変える方が改善が早いことが多いです。
現場で使える声かけ例(患者さんに合わせて選択)。
・「息を止める前に、まず“口を閉じる”だけでOKです。閉じたら、心の中で1、2、3、4、5と数えましょう。」
・「吐きすぎなくて大丈夫です。吐き切るより“ゆっくり吐く”が目的です。」
・「苦しくなる手前で止めてOKです。5秒は目安で、まずは2~3秒から伸ばしましょう。」
・「咳が出る人は、吸うスピードが速いことがあります。ゆっくり吸う方がむせにくいです。」
・「首を少し伸ばすと、のどが開きやすい人がいます(姿勢を整えてからやりましょう)。」
このように“正しさ”より“成功体験”を優先して、2秒→3秒→5秒と段階的に到達させると、患者さんの自己効力感が上がり、手技が安定します。
医療者側のチェックのコツは、患者さんの手技を「回転」「くわえ方(通気孔)」「吸う速度」「押すタイミング」「息止め」の5要素に分解して、毎回1つだけ改善点を決めることです。いきなり全部を直すと、患者さんは“できていない感”だけが残り、次回以降の実演を避けるようになります。
また、患者さんの生活文脈に合わせたトリガー設定も有効です。たとえば「1日1回2吸入」を、“朝の歯みがきの後”など既存習慣に結びつけると、取りこぼしが減ります(ただし、食事の影響について電子添文上の記載はない、とメーカーFAQに整理されています)。薬剤効果の最大化は、デバイス手技とアドヒアランスの両輪で決まるため、医療者の介入余地は大きい領域です。