タグリッソの皮膚副作用は治療患者の約80%以上に発現し、最も管理が重要な副作用です。発疹・ざ瘡等が40.8%、皮膚乾燥・湿疹等が26.2%、爪障害(爪囲炎を含む)が30.6%と高い頻度で報告されています。
主要な皮膚症状:
これらの皮膚症状は治療開始後数週間以内に現れることが多く、保湿剤の積極的使用、刺激性石鹸の回避、適切な外用薬治療により管理可能です。重篤化した場合は一時休薬や減量が検討されます。
間質性肺疾患はタグリッソの最も重篤な副作用で、単独投与時3.3%、根治的化学放射線療法後投与時6.3%の発現率が報告されています。死亡例も報告されており、早期発見と迅速な対応が極めて重要です。
典型的な初期症状:
🔹 乾いた咳(特に夜間の持続する咳)
🔹 労作時呼吸困難(階段昇降時の息切れ)
🔹 発熱(38℃以上の熱)
🔹 胸部不快感
診断と治療アプローチ:
投与期間中は定期的な胸部画像検査(CT検査)による早期発見が必須です。疑いがある場合は直ちに投与中止し、ステロイド治療等の適切な処置を行います。患者には初期症状の重要性を十分に説明し、症状出現時の即座の報告を徹底することが生命予後を左右します。
特に日本人患者では間質性肺疾患の発現率が高い傾向にあり、より慎重な経過観察が求められています。
消化器副作用は患者のQOLに大きく影響するため、適切な予防と対症療法が重要です。下痢が38.7%、口内炎が23.6%と高頻度で発現します。
下痢の管理:
口内炎の予防と治療:
食事指導では、消化に良い食品の選択、少量頻回摂取、十分な水分補給が基本となります。脱水症状の進行により腎機能悪化のリスクもあるため、全身状態の評価も重要です。
タグリッソによる心血管系副作用として、うっ血性心不全と左室駆出率低下が報告されています。これらは頻度不明とされていますが、致命的となる可能性があるため、定期的な心機能評価が必要です。
監視すべき症状:
💓 動悸・不整脈
💓 下肢浮腫
💓 労作時呼吸困難の悪化
💓 体重増加(短期間での2-3kg以上)
検査と評価:
治療開始前の心電図、心エコー検査による左室駆出率測定は必須です。治療中は3-6か月毎の心機能評価を実施し、左室駆出率50%未満への低下や10%以上の絶対値低下を認めた場合は投与中止を検討します。
高齢患者や既存の心疾患を有する患者では特に注意深い観察が必要で、循環器専門医との連携も重要な管理戦略となります。
神経系副作用は比較的軽微とされがちですが、患者のADL(日常生活動作)や生活の質に大きく影響する可能性があります。味覚異常、頭痛が主要な症状として報告されています。
注目すべき神経症状:
🧠 味覚異常(金属味、苦味の持続)
🧠 頭痛(特に朝方の頭痛)
🧠 末梢性ニューロパチー(手足のしびれ)
🧠 記憶障害・集中力低下
🧠 めまい・体位性低血圧
実用的対処法:
味覚異常では亜鉛補充療法の効果が期待され、食事の工夫(香辛料やレモンの活用)により食欲維持を図ります。頭痛に対しては生活リズムの改善、適度な運動、必要に応じてNSAIDsの使用を検討します。
末梢性ニューロパチーは化学療法との併用時に注意が必要で、ビタミンB群の補充や神経保護薬の併用も検討されます。これらの症状は患者自身が医療従事者に報告しにくい場合があるため、積極的な問診による症状の掘り起こしが重要です。