ニューロパチー症状と原因、検査、治療法

ニューロパチーは末梢神経が障害される疾患で、手足のしびれや筋力低下など多彩な症状を呈します。糖尿病や免疫異常など原因は多岐にわたり、適切な診断と早期治療が重要です。あなたの症状は早期発見のサインかもしれません。どのような検査と治療で改善できるのでしょうか?

ニューロパチー症状と分類

ニューロパチーの主要症状と特徴
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運動神経障害の症状

筋力低下、筋萎縮、歩行困難などの運動機能の異常

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感覚神経障害の症状

しびれ、痛み、温度覚低下などの感覚異常

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自律神経障害の症状

起立性低血圧、発汗異常、消化器症状などの自律神経機能障害

ニューロパチー症状の特徴的な現れ方

 

 

ニューロパチーは末梢神経が障害されることで、全身のさまざまな部位に症状が現れる疾患群です。末梢神経は中枢神経(脳と脊髄)から枝分かれして、体中の各部位をつなぐ神経で、運動神経、感覚神経、自律神経の3種類に分類されます。
参考)末梢神経障害・ニューロパチー

最も一般的な症状は、手足のしびれと痛みです。患者さんは「正座の後のようなビリビリとしたしびれ感」「ピリピリとした痛み」「ジンジンとした痛み」などと表現することが多くあります。感覚神経が障害されると、痛覚、温度覚、振動覚、位置覚など多様な感覚が鈍くなり、足の裏に薄い紙がへばりついた感じがする、冷たさや熱さを感じにくくなるといった症状も出現します。
参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%91%E3%83%81%E3%83%BC

症状の進行パターンは原因によって異なりますが、多くの場合は遠位部(手足の先)から始まり、徐々に中枢に向かって進行する特徴があります。初期段階ではしびれや違和感程度であっても、進行すると立ち上がりや歩行の問題へと発展していく傾向があります。
参考)多発神経障害 - 09. 脳、脊髄、末梢神経の病気 - MS…

ニューロパチー運動神経障害の症状

運動神経が障害されると、筋力低下や筋萎縮が主要な症状として現れます。患者さんは手足に力が入らない、スムーズに歩けない、立ち上がることが困難に感じる、物を落としてしまうなどの症状を訴えます。
参考)末梢神経障害:原因は?症状は?ビタミン剤の効果はある?検査や…

具体的には、階段を上る際に足が上がらない、ドアノブを回しにくい、箸が持ちにくい、ボタンがかけられないといった日常生活動作の困難さとして自覚されることが多くあります。進行すると筋肉がやせ細り(筋萎縮)、関節の腱反射が低下または消失します。
参考)鑑別疾患として知っておきたいCIDP

多巣性運動ニューロパチー(MMN)では、感覚神経の症状であるしびれや感覚の鈍さなどはなく、手の使いづらさなどの運動症状から始まることが特徴的です。このように、障害される神経の種類によって症状の現れ方が異なるため、詳細な症状の評価が診断において重要となります。
参考)慢性炎症性脱髄性多発神経炎/多巣性運動ニューロパチー(指定難…

ニューロパチー感覚神経障害の症状

感覚神経が障害されると、陽性症状と陰性症状の両方が出現します。陽性症状とは異常な感覚が現れることで、しびれ、ピリピリ感、焼けるような痛み、電撃痛などが含まれます。これらの痛みは神経因性疼痛と呼ばれ、通常の鎮痛薬では効きにくく、患者さんの生活の質を著しく低下させる要因となります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2430688/

陰性症状は感覚の消失や低下を指し、触覚、痛覚、温度覚、振動覚などが鈍くなります。患者さんは足の裏の感覚がわからない、熱いものに触れても気づかない、怪我をしても痛みを感じないといった危険な状態に陥ることがあります。​
大径線維ニューロパチーでは関節位置覚と振動覚の消失が主体となり感覚性運動失調(ふらつき)が生じる一方、小径線維ニューロパチーでは痛覚と温度覚の障害が主体となります。これらの感覚障害は、歩行時のふらつきや転倒のリスクを高め、日常生活に大きな影響を与えます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2771953/

ニューロパチー自律神経障害の症状

自律神経が障害されると、体の自動調節機能が失われ、多様な症状が出現します。最も代表的な症状は起立性低血圧で、立ち上がったときに過度に血圧が低下し、ふらつきや失神しそうな感覚を覚えます。この症状は日常生活において転倒事故につながる危険性があります。
参考)自律神経性ニューロパチー - 09. 脳、脊髄、末梢神経の病…

消化器系では、胃から内容物が送り出されるペースが遅くなる胃不全麻痺により、食事をしてもすぐに満腹感を覚えたり嘔吐したりすることがあります。また、重度の便秘や下痢を繰り返すこともあります。
参考)こんな症状はありませんか?|長引く手足のしびれ・まひ・脱力ナ…

泌尿器系の症状としては、膀胱の活動が過剰になることで意図せず尿が漏れる尿失禁、逆に膀胱の活動が弱まって排尿が困難になる尿閉などが見られます。男性では勃起の開始や維持が困難になる勃起障害も生じることがあります。​
その他、発汗の異常(汗が出ない、または過度に出る)、不整脈、頻脈、疲れやすさ、気分不快などの多彩な症状が出現します。これらの自律神経症状は、患者さんの生活の質を著しく低下させる要因となります。​

ニューロパチー症状の経過と病型による違い

ニューロパチーの症状の進行速度は、原因となる疾患によって大きく異なります。急性に発症するものは数日の単位で症状が急速に進行し、亜急性のものは数週間から数ヶ月、慢性のものは月から年の単位でゆっくりと進行します。
参考)https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000145653.pdf

ギラン・バレー症候群のような急性炎症性脱髄性多発ニューロパチーでは、感染症の後に数日から数週間で急速に筋力低下が進行し、重症例では呼吸筋麻痺に至ることもあります。一方、発症6ヶ月以内に自然軽快する予後良好な疾患ですが、一部の患者さんに再発があります。
参考)ニューロパチー - Wikipedia

慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)では、2ヶ月以上にわたる四肢の筋力低下と感覚異常をきたし、慢性進行型と再発寛解型の病型があります。症状を1回認めた後に自然寛解するタイプもある一方、慢性に進行するタイプ、再発と寛解を繰り返すタイプが存在します。重症例では手足に障害が残ったり、車いすによる生活が必要になったりする場合があるため、早期診断と適切な維持療法が重要です。
参考)経過・予後 href="https://pro.csl-info.com/medical-info/mi-6012/" target="_blank">https://pro.csl-info.com/medical-info/mi-6012/amp;#8211; CSL pro

糖尿病性ニューロパチーは最も頻度の高いニューロパチーであり、糖尿病の3大合併症の一つです。高血糖が続くことで産生されたソルビトールが神経細胞に蓄積し、特に足の末梢神経が障害されることが多く、ゆっくりと進行する傾向があります。
参考)糖尿病性ニューロパチー – 脳・神経疾患

家族性アミロイドポリニューロパチーは遺伝性の疾患で、発症後約10〜15年で亡くなることが多い進行性の病気ですが、発症早期であれば肝移植治療が根治療法として選択できる場合があります。
参考)家族性アミロイドポリニューロパチーの余命はどれくらいですか?…

国立精神・神経医療研究センター病院 - 末梢神経障害の詳細な症状と検査方法について
メディカルノート - ニューロパチーの原因から治療まで包括的な情報

ニューロパチー原因と分類

ニューロパチー炎症性・免疫介在性の原因

炎症性・免疫介在性ニューロパチーは、末梢神経が自己免疫によって攻撃され障害される疾患群です。本来、免疫系は異物から身体を守るためにはたらきますが、自己免疫では自分の体の組織を誤って敵と認識し攻撃してしまいます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/106/11/106_2439/_pdf

ギラン・バレー症候群は、感染症の後に急速に発症する代表的な免疫介在性ニューロパチーです。マイコプラズマやウイルス感染をきっかけに、免疫系が末梢神経の髄鞘を攻撃することで脱髄が生じ、神経伝導が障害されます。フィッシャー症候群もその亜型であり、血液中から抗ガングリオシド抗体であるGQ1b IgG抗体が80〜90%の患者さんで検出されます。
参考)自己免疫による末梢神経障害 - 独立行政法人国立病院機構 宇…

慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)は、2ヶ月以上にわたる四肢の筋力低下と感覚異常をきたす後天性の免疫介在性末梢神経疾患です。CIDPは神経内科領域における代表的な免疫介在性の脱髄を特徴とする慢性疾患で、治療法も確立していますが、診断や治療介入の遅れは不可逆性の軸索変性をきたし、治療抵抗性や予後不良のおそれがあります。​
多巣性運動ニューロパチー(MMN)は、免疫グロブリン療法が有効な免疫介在性の疾患で、手の使いづらさなどの運動症状から始まり、感覚神経の症状はありません。これらの免疫介在性ニューロパチーは、適切な免疫療法により症状の改善が期待できる治療可能な疾患群です。
参考)慢性炎症性脱髄性多発神経炎/多巣性運動ニューロパチー(指定難…

ニューロパチー代謝性・中毒性の原因

糖尿病性ニューロパチーは、あらゆるニューロパチーのなかで最も高い頻度で起こっている疾患です。高血糖が続くことで産生されたソルビトールが神経細胞に蓄積し、末梢神経が障害されます。糖尿病性ニューロパチーには多発ニューロパチーと単ニューロパチーという二つの主要な病型があり、特に足の末梢神経が障害されることが多くなっています。​
栄養欠乏によるニューロパチーも重要な原因です。ビタミンB1欠乏性ニューロパチーは脚気として古くから知られており、歩行障害などの症状を呈します。その他、葉酸欠乏、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンEの欠乏や、逆にビタミンB6の過剰摂取も軸索障害を引き起こします。
参考)末梢性ニューロパチー[直感的な神経・筋疾患の診かた] - み…

アルコール性ニューロパチーは、過度の飲酒により生じる代謝性ニューロパチーの代表例です。アルコールの直接的な神経毒性に加え、栄養障害も関与していると考えられています。尿毒症性ニューロパチーは腎不全に伴って発症し、透析療法が必要となることがあります。​
中毒性ニューロパチーの原因物質としては、鉛、タリウム、水銀、ヒ素などの金属類、ベンジン、スチレン、n-ヘキサンなどの化学物質があります。職業的曝露や環境汚染により発症することがあり、原因物質の除去が治療の基本となります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/ohpfrev/37/1/37_1/_pdf/-char/ja

ニューロパチー薬剤性・感染性の原因

薬剤性ニューロパチーは、医薬品の副作用として発症する末梢神経障害です。抗がん剤、特にビンクリスチンやシスプラチンなどは神経毒性が強く、投与量に依存してニューロパチーを引き起こします。抗結核薬のイソニアジドも高頻度でニューロパチーを引き起こす薬剤として知られています。
参考)https://www.med-sovet.pro/jour/article/download/6542/5927

その他、抗てんかん剤、麻酔薬免疫抑制剤、抗原虫剤、ビタミン剤、抗不整脈薬、痛風の治療薬、嫌酒薬、抗菌薬、抗HIV薬などが原因となることがあります。薬剤性ニューロパチーは原因薬剤の中止により改善することが多いため、早期発見が重要です。​
感染性ニューロパチーは、病原体の直接侵襲や感染後の免疫反応により発症します。マイコプラズマ、ウイルス(HIV、C型肝炎ウイルス、帯状疱疹ウイルスなど)、細菌(らい菌、ライム病など)が原因となります。HIV感染症では、ウイルス自体による神経障害と抗HIV薬による薬剤性神経障害の両方が問題となります。​
らい病(ハンセン病)は、らい菌による慢性感染症で、末梢神経が直接侵され、知覚麻痺と運動麻痺を引き起こす代表的な感染性ニューロパチーです。ライム病では、ボレリア菌の感染により多発性の神経根炎や脳神経障害を呈することがあります。​

ニューロパチー遺伝性・腫瘍関連の原因

遺伝性ニューロパチーの代表はシャルコー・マリー・トゥース病(CMT)です。この疾患は遺伝子変異により末梢神経の構造や機能が障害され、特に運動神経や感覚神経が損傷されます。感覚症状がわずかであっても診察では相当の感覚障害が認められ、多年にわたる緩徐進行性の遠位部の筋力低下を示します。​
家族性アミロイドポリニューロパチーは、トランスサイレチン(TTR)遺伝子の変異により異常なタンパク質が末梢神経に沈着する遺伝性疾患です。血液などから遺伝子の情報を解析して、TTR遺伝子に変異があるかないかを調べる遺伝子検査が確定診断に必要です。発症後約10〜15年で亡くなることが多い進行性の病気ですが、発症早期であれば肝移植治療が根治療法となります。
参考)診断に必要な主な検査

腫瘍性・傍腫瘍性ニューロパチーは、がんに関連して発症する末梢神経障害です。がんによる直接的な圧迫や浸潤により末梢神経が障害されることがあります。また、がんによる直接的な関与は認められないものの、肺小細胞がんの患者さんなどに神経症状が現れる傍腫瘍性神経症候群も重要です。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/contentpage.aspx?diseaseid=821

Crow-Fukase症候群(POEMS症候群)は、形質細胞腫瘍に伴う多発ニューロパチーで、多発神経障害、臓器腫大、内分泌異常、M蛋白血症、皮膚病変を特徴とします。膠原病性ニューロパチーとしては、全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群、結節性多発動脈炎などに伴う血管炎性ニューロパチーがあります。​

ニューロパチー病理学的分類と特徴

ニューロパチーは病理学的には、障害部位により軸索性と脱髄性に分類されます。末梢有髄神経は輪切りにするとドーナツ型をしており、中心の軸索と周囲を取り囲む髄鞘(ミエリン)から構成されています。
参考)医学界新聞プラス [第1回]末梢神経障害の種類

軸索性ニューロパチーは、神経細胞の突起である軸索が主に障害される病態です。血管炎性ニューロパチー、糖尿病、アルコール中毒を含む多くの中毒代謝性ニューロパチー、傍腫瘍性ニューロパチーが軸索性に分類されます。軸索障害は栄養欠乏、ビタミンB6の過剰摂取、過度の飲酒により生じることもあります。
参考)多発神経障害 - 07. 神経疾患 - MSDマニュアル プ…

脱髄性ニューロパチーは、軸索を取り囲む髄鞘(シュワン細胞)が主に障害される病態です。ギラン・バレー症候群やCIDPなどの免疫介在性ニューロパチーが代表的です。脱髄により神経伝導速度が低下し、神経伝導検査で特徴的な所見が得られます。​
分布パターンによる分類では、単神経炎、多発性単神経炎、多発神経炎(多発ニューロパチー)に分けられます。単神経炎は単一の神経幹が障害されるもので、手根管症候群や尺骨神経管症候群などの絞扼性ニューロパチーが含まれます。多発性単神経炎は、複数の神経幹が非対称性に障害されるもので、血管炎などが原因となります。多発ニューロパチーは、下肢および上肢の遠位部に左右対称性の感覚および運動障害を呈し、末梢神経障害の中で最も患者数が多い病型です。​
MSDマニュアル プロフェッショナル版 - 多発神経障害の原因と病理分類の詳細

ニューロパチー検査と診断

ニューロパチー神経伝導検査の重要性

神経伝導検査は、ニューロパチーの診断において最も重要な電気生理学的検査です。この検査では皮膚に機械を当てて神経へ電気刺激を与え、刺激が伝わる速度(伝導速度)や振幅を測定します。末梢神経伝導検査により、刺激の伝導速度や末梢神経がどのように障害されているか(脱髄性か軸索性か)を客観的に評価できます。
参考)CIDP・MMNの検査と診断|長引く手足のしびれ・まひ・脱力…

脱髄性ニューロパチーでは神経伝導速度が著明に低下し、伝導ブロックや時間的分散が認められます。一方、軸索性ニューロパチーでは伝導速度は比較的保たれますが、振幅の低下が主体となります。この鑑別は治療方針の決定に直結するため、神経伝導検査は診断において不可欠です。
参考)https://www.chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse3508.pdf

CIDPやMMNの診断では、神経伝導検査の結果が診断基準の中核をなしています。複数の神経で脱髄所見を確認することがCIDPの診断に必須であり、MMNでは運動神経の伝導ブロックが特徴的な所見です。神経伝導検査はニューロパチーの有無だけでなく、治療の効果判定にも用いられます。
参考)慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー、多巣性運動ニューロパチ…

針筋電図検査も補助的に行われることがあり、神経原性変化や筋原性変化を鑑別し、神経障害の程度や分布を評価します。体性誘発感覚電位は、感覚神経の伝導路全体を評価するために実施されます。これらの電気生理学的検査を組み合わせることで、ニューロパチーの病態を詳細に把握できます。​

ニューロパチー血液検査と髄液検査

血液検査は、ニューロパチーの原因を特定するために必須の検査です。糖尿病の有無を確認するため血糖値やHbA1cを測定し、栄養状態を評価するためビタミンB1、B12、葉酸などのビタミン類を測定します。腎機能、肝機能、電解質も評価し、尿毒症や肝障害に伴うニューロパチーを除外します。​
免疫や炎症の状態を調べるため、抗核抗体、リウマチ因子、補体、血沈、CRPなどを測定します。自己免疫性ニューロパチーでは、抗ガングリオシド抗体(GQ1b、GM1、GD1aなど)が検出されることがあります。感染症スクリーニングとして、HIV抗体、HCV抗体、ライム病抗体なども必要に応じて測定します。​
脳脊髄液検査は、炎症性ニューロパチーの診断に重要です。CIDPやギラン・バレー症候群では、蛋白細胞解離(髄液中の蛋白は増加するが細胞数は正常)という特徴的な所見が認められます。髄液検査により中枢神経系の炎症性疾患や腫瘍性疾患を除外することもできます。​
血清M蛋白の検出は、POEMS症候群や原発性マクログロブリン血症に伴うニューロパチーの診断に有用です。腫瘍マーカーの測定は、傍腫瘍性ニューロパチーのスクリーニングとして行われます。これらの血液検査・髄液検査の結果を総合的に判断し、原因疾患を特定します。​

ニューロパチー画像検査と生検

MRI検査は、脳や脊髄の病気からしびれや力が入りにくいといった症状が起こっていないかを確認するために行われます。中枢神経から末梢神経が枝分かれする部位での障害が疑われる場合には、脳や脊髄のMRIを撮像します。神経根の肥厚や造影増強効果がCIDPで認められることがあり、診断の補助となります。​
超音波検査やMRI神経撮像(MR neurography)は、近年ニューロパチーの評価に用いられるようになってきました。末梢神経の肥厚や形態異常を非侵襲的に評価でき、絞扼性ニューロパチーの診断にも有用です。特にCIDPでは、多発性の神経肥厚がMRIで検出されることがあります。​
神経生検は、診断が難しいケースで行われる侵襲的検査です。感覚神経の一部(通常は腓腹神経)を採取し、病理組織学的に評価します。軸索変性の程度、脱髄の有無、炎症細胞浸潤、血管炎、アミロイド沈着などを直接確認できます。ただし、神経生検は患者さんへの負担も大きく、採取部位に永続的な感覚障害が残るリスクがあるため、実施すべきかどうかは慎重に判断される必要があります。​
皮膚生検は、小径線維ニューロパチーの評価に有用です。皮膚の表皮内神経線維密度を測定することで、通常の神経伝導検査では検出できない小径線維の障害を定量的に評価できます。糖尿病性ニューロパチーや自律神経障害の早期診断に応用されています。​

ニューロパチー遺伝子検査と診断アプローチ

遺伝性ニューロパチーが強く疑われる場合は、遺伝子検査が行われます。ご本人の同意を得て(未成年や、ご本人に判断能力がない場合は代諾者の同意を得て)血液などから遺伝子の情報を解析し、原因遺伝子の変異を同定します。シャルコー・マリー・トゥース病ではPMP22、MPZ、GJB1などの遺伝子変異が、家族性アミロイドポリニューロパチーではTTR遺伝子の変異が検出されます。​
ニューロパチーの診断には、体系的なアプローチが重要です。まず詳細な病歴聴取が不可欠で、いつからどこに症状が出現したか、どのくらい時間をかけて症状が出現したか、どのように症状が広がっていったか、血縁者に同様症状があるかなどの情報が診断の鍵となります。職業歴(有機溶剤への曝露など)、飲酒歴、服薬歴、最近の感染症の有無なども重要な情報です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3922643/

神経学的診察では、徒手筋力検査で筋力低下のパターンを評価し、腱反射の異常(低下・消失・亢進)を確認します。感覚検査では、触覚、痛覚、温度覚、振動覚、位置覚を詳細に評価し、感覚障害の分布パターンを把握します。自律神経機能検査では、起立性低血圧の有無、発汗機能、心拍変動などを評価します。​
パターン認識アプローチでは、ニューロパチーを運動型、感覚型、感覚運動型、自律神経型に分類し、さらに分布パターン(対称性か非対称性か、遠位優位か近位優位か)、時間経過(急性、亜急性、慢性)、病理型(軸索性か脱髄性か)を組み合わせて鑑別診断を進めます。この体系的なアプローチにより、多数の鑑別診断の中から効率的に原因を絞り込むことができます。​

ニューロパチー診断時の重要な鑑別ポイント

ニューロパチーの診断において、脊椎疾患や中枢神経疾患との鑑別が重要です。しびれや筋力低下は整形外科領域の脊椎症や腫瘍、手根管や足根管における絞扼性障害でも生じるため、症状を説明し得る整形外科的な異常所見がないか確認する必要があります。特にCIDPは歩行障害やしびれを訴える例が多く、整形外科が初診科となることもまれではありません。​
症状を説明し得る整形外科的な異常所見を認めない例や、治療介入にもかかわらず症状が進行するような例においては、ニューロパチーの可能性を考え神経内科と連携を図るのがよいとされています。診断や治療介入の遅れは不可逆性の軸索変性をきたし、治療抵抗性や予後不良のおそれが生じることから、診断は速やかに確定するのが望ましいとされています。​
慢性疼痛と神経因性疼痛の鑑別も重要です。脊椎疾患に伴う痛みの36〜55%に神経因性疼痛の要素が含まれているとされ、侵害受容性疼痛と神経因性疼痛を区別することが治療選択において重要です。神経因性疼痛は焼けるような痛み、電撃痛、異痛症(通常痛みを感じない刺激で痛みを感じる)などの特徴的な症状を呈します。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9961043/

治療可能なニューロパチーを見逃さないことが極めて重要です。ビタミン欠乏、甲状腺機能異常、糖尿病、免疫介在性ニューロパチー、圧迫性ニューロパチーなどは、適切な治療により改善や進行抑制が期待できるため、早期診断が患者さんの予後を大きく左右します。原因が100以上にも及ぶニューロパチーの中から、体系的なアプローチにより効率的かつ確実に診断を進めることが医療従事者に求められます。​
武田薬品 - CIDPとMMNの検査と診断の流れについて患者向けに詳しく解説

ニューロパチー治療法と予後

ニューロパチー免疫療法の実際

免疫介在性ニューロパチーに対する治療は大きく進歩しており、CIDPや多巣性運動ニューロパチー(MMN)では標準治療が確立しています。CIDPの三大治療法は、ステロイド療法、免疫グロブリン静注療法(IVIg)、血液浄化療法(血漿交換)です。これらの治療により症状の改善が得られることが多く、診断基準においても免疫療法後の臨床症状の改善は診断を支持する所見とされています。​
免疫グロブリン静注療法は、免疫系が正常な人の血液から得られた様々な抗体を含む溶液を静脈内投与する治療法です。CIDPやMMNにおいて高い有効性が示されており、特にMMNでは第一選択の治療法とされています。大量ガンマグロブリン静脈内投与により、異常な免疫反応を調整し神経障害の進行を抑制します。
参考)末梢性ニューロパチー、神経生検について - 独立行政法人国立…

ステロイド療法は、プレドニゾロンなどの副腎皮質ステロイドを経口または静注で投与します。CIDPにおいて長年使用されてきた治療法で、免疫反応を広く抑制する効果があります。血液浄化療法(血漿交換)は、血液をいったん体外に取り出して異常な抗体をフィルターで取り除いてから再度体内に戻す方法で、自己免疫性の自律神経性ニューロパチーで重度の症状がみられる場合にも行われます。​
免疫抑制剤(アザチオプリンシクロホスファミドシクロスポリンなど)は、ステロイドやIVIgで効果不十分な場合や、維持療法として用いられます。自己免疫反応による神経障害は、これらの免疫機能を抑えて免疫反応を弱める薬剤によって治療されることがあります。​

ニューロパチー寛解維持療法と再発予防

CIDPでは、単回の治療が奏功しても寛解維持が困難で再発を繰り返す、もしくは緩徐進行性の経過を示す例が存在します。再発時治療のタイミングを逸すると脱髄のみならず不可逆性の軸索変性へ進展する危険性があるため、病勢の進行抑制を図るために再発に関係なく間欠的に治療を繰り返す寛解維持療法が重要です。​
寛解維持療法では、IVIgの定期投与、経口ステロイドの継続、免疫抑制剤の使用などが行われます。重症例では手足に障害が残ったり、車いすによる生活が必要になったりする場合があるため、このような障害を残さないために維持療法が実施されます。治療効果の予測には、早期からの積極的な治療開始、脱髄所見の程度、軸索変性の有無などが有用とされています。​
再発のリスク因子としては、治療中断、感染症、過労、ストレスなどが挙げられます。フィッシャー症候群では発症6ヶ月以内に自然軽快する予後良好な疾患ですが、患者さんの一部に再発があるため、経過観察が必要です。適切な維持療法により、多くのCIDP患者さんは日常生活を維持できるようになってきています。​
治療の減量や中止のタイミングは慎重に判断する必要があります。長期間(通常1〜2年以上)寛解を維持できている場合に、徐々に治療間隔を延長したり投与量を減量したりして、最終的に治療中止を目指します。しかし、治療中止後に再発する例も少なくないため、定期的な神経学的評価と神経伝導検査によるモニタリングが重要です。​

ニューロパチー原因疾患への治療

原因疾患が特定された場合は、それに対する治療が最も重要です。糖尿病性ニューロパチーでは、血糖コントロールが根本的な治療となります。高血糖が続くことで神経障害が進行するため、食事療法、運動療法、薬物療法を適切に組み合わせて血糖値を管理することが不可欠です。​
ビタミン欠乏によるニューロパチーでは、不足しているビタミンを補充します。ビタミンB1欠乏症(脚気)にはビタミンB1の内服や注射、ビタミンB12欠乏症にはビタミンB12の筋肉注射が有効です。アルコール性ニューロパチーでは禁酒が最も重要で、併せてビタミンB1の補充を行います。​
圧迫による末梢神経障害(手根管症候群、肘部管症候群など)では、内服薬、装具、手術などが選択されます。軽症例では非ステロイド性抗炎症薬の内服や装具による固定で改善することがありますが、重症例や保存的治療で改善しない場合は手術が検討されます。​
膠原病や悪性腫瘍に伴う末梢神経障害では、原疾患の治療を行います。血管炎性ニューロパチーではステロイドや免疫抑制剤による治療が、傍腫瘍性ニューロパチーでは腫瘍の治療が優先されます。薬剤性ニューロパチーでは、可能であれば原因薬剤の中止または変更を行います。​

ニューロパチー対症療法とリハビリテーション

神経因性疼痛に対する薬物療法は、患者さんのQOL向上において重要です。第一選択薬として、抗てんかん薬プレガバリンやガバペンチン、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬SNRI)のデュロキセチンなどが用いられます。三環系抗うつ薬も神経因性疼痛に有効ですが、副作用に注意が必要です。​
通常の鎮痛薬(NSAIDsアセトアミノフェン)は神経因性疼痛にはあまり効果がありません。難治性の疼痛に対しては、オピオイド鎮痛薬(トラマドールオキシコドンなど)が使用されることもありますが、依存性や副作用のリスクを考慮する必要があります。局所治療として、リドカインパッチやカプサイシンクリームが補助的に用いられることもあります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8942164/

しびれに対しては、ビタミンB12製剤(メコバラミン)が処方されることが多いですが、欠乏がない場合の効果は限定的です。自律神経障害に対しては、起立性低血圧に対する昇圧薬、便秘に対する下剤、排尿障害に対する泌尿器科的治療など、症状に応じた対症療法が行われます。​
リハビリテーションは、ニューロパチー治療において重要な役割を果たします。歩行障害が生じているときには、理学療法士による歩行訓練などの機能訓練が行われます。下垂足(足首を上げられない状態)に対しては、短下肢装具(AFO)を使用することで歩行能力を改善できます。作業療法では、日常生活動作の訓練や自助具の導入により、自立度を向上させます。​

ニューロパチー予後と長期管理の重要性

ニューロパチーの予後は原因疾患により大きく異なります。ギラン・バレー症候群の多くは数ヶ月以内に自然回復しますが、約20%の患者さんに後遺症が残り、約5%が死亡するとされています。フィッシャー症候群は発症6ヶ月以内に自然軽快する予後良好な疾患です。​
CIDPの予後は治療により改善してきていますが、単回の治療が奏功しても寛解維持が困難で再発を繰り返す例や緩徐進行性の経過を示す例が存在します。重症例では手足に障害が残ったり、車いすによる生活が必要になったりする場合があるため、早期診断と適切な維持療法が極めて重要です。​
家族性アミロイドポリニューロパチーは発症後約10〜15年で亡くなることが多い進行性の病気ですが、発症早期であれば肝移植治療が根治療法となり得ます。糖尿病性ニューロパチーは、血糖コントロールにより進行を遅らせることができますが、一度進行した神経障害は完全には回復しないことが多いため、早期からの予防が重要です。​
長期管理において、定期的な神経学的評価と神経伝導検査によるモニタリングが必要です。治療効果の判定、再発の早期発見、軸索変性への進展の有無などを評価し、治療方針を適宜修正していくことが重要です。患者さん自身による自己管理も大切で、糖尿病患者さんでは血糖管理、アルコール性ニューロパチーでは禁酒、薬剤性ニューロパチーでは原因薬剤の回避などが必要です。​
多職種連携によるチーム医療が理想的です。神経内科医、整形外科医、リハビリテーション科医、理学療法士、作業療法士、看護師、薬剤師などが協力し、包括的なケアを提供することで、患者さんのQOLを最大限に維持することが可能になります。特にCIDPでは、整形外科が初診科となることも多いため、症状を説明し得る整形外科的な異常所見を認めない例や治療介入にもかかわらず症状が進行する例では、神経内科と連携を図ることが重要です。​
難病情報センター - 慢性炎症性脱髄性多発神経炎とMMNの治療法と予後について
MSDマニュアル 家庭版 - 自律神経性ニューロパチーの症状と治療の詳細

 

 




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