掌蹠膿疱症の治療は「治癒を目指す治療」と「症状緩和を目的とする対症療法」に大別される。最も重要なポイントは、他の炎症性皮膚疾患とは異なり、掌蹠膿疱症は完治する可能性が高い疾患であることである。
治療の優先順位は以下の通りに設定される。
扁桃摘出術は掌蹠膿疱症の根治療法として高い効果を示している。日本人患者の約75%で病巣感染が発症契機となっており、特に扁桃炎が重要な役割を果たしている。
扁桃摘出術の治療効果データ:
研究年 | 扁桃摘出群 | 非扁桃摘出群 |
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1977年 | 84%有効 | 39%有効 |
2009年 | 85%有効 | 35%有効 |
138名の症例報告 | 約80%で治癒・著明改善 | - |
扁桃摘出術は1週間程度の入院を要するが、長期的な寛解率が極めて高い治療法である。手術適応の判断には、咽頭培養や血清抗体価(ASO、ASK)の測定、扁桃の病理組織学的検査などが参考となる。
外用療法は治療の土台となる重要な位置を占める。手掌・足底という特殊な部位の特性を理解した薬剤選択が必要である。
ステロイド外用薬の使用法:
手掌・足底は角層が厚く薬剤の浸透性が低いため、密封療法(ODT)の併用が効果的である。
活性型ビタミンD3外用薬の特徴:
これらの薬剤は皮膚のターンオーバーを正常化し、角質肥厚の改善と膿疱形成の抑制効果を示す。ただし、高カルシウム血症のリスクがあるため、規定量を守ることが重要である。
保湿剤の併用も重要で、手掌・足底は皮脂腺がないため乾燥しやすく、適切な保湿により角質の柔軟性を保つことで治療効果が向上する。
紫外線療法の適応と効果
ナローバンドUVB(NB-UVB)とエキシプレックス308(308nm単色光)が使用される。エキシプレックス308は病変部に限局して照射できるため、手掌・足底の限られた範囲の治療に適している。
全身療法の選択肢:
内服療法:
免疫調整療法:
これらの治療法は、外用療法で十分な効果が得られない中等度〜重症例に適応される。
2018年以降、掌蹠膿疱症に対する生物学的製剤の使用が可能となり、治療パラダイムが大きく変化している。
現在使用可能な生物学的製剤:
IL-17阻害薬:
IL-23阻害薬:
PDE4阻害薬:
ルミセフ投与後1ヶ月で著明な改善を示した症例では、多発する膿疱タイプに特に効果的であることが報告されている。一方、膿疱が少ない乾燥型では効果が限定的な場合がある。
生物学的製剤の選択は、病型、重症度、併存疾患、患者の希望などを総合的に判断して決定する必要がある。
掌蹠膿疱症は3〜7年の経過で自然寛解することが多いが、治療により寛解期間の短縮と症状軽減が可能である。
治療継続のポイント:
禁煙の重要性
喫煙は治療反応性を著しく低下させるため、禁煙は必須条件である。禁煙のみで症状改善を認める患者も存在するが、完全寛解に至ることは稀である。精神疾患を有する患者では、精神科医と連携して禁煙タイミングを調整する。
定期的なモニタリング
多職種連携の重要性
掌蹠膿疱症性骨関節炎を合併する場合は、整形外科やリウマチ科との連携が不可欠である。また、病巣感染治療では歯科口腔外科、耳鼻咽喉科との綿密な連携が必要となる。
患者教育のポイント
治療選択肢の多様化により、個々の患者に応じたオーダーメイド治療が可能となっている。根治を目指す病巣感染治療を軸とし、症状に応じて対症療法を組み合わせることで、良好な治療成績を期待できる現代的な疾患となっている。