
炎症期にストレッチを一生懸命やればやるほど、あなたの患者さんの症状は長引きます。
癒着性関節包炎(Adhesive Capsulitis)は1945年にNeviaserが命名した疾患で、肩関節包に炎症・線維化・癒着が生じ、疼痛と可動域制限を来たします。 病期は大きく3つに分かれており、それぞれでリハビリの目標と手法が根本的に異なります。
関連)https://note.com/idononippon/n/n5361b9cefe3d
| 病期 | 期間の目安 | 主な症状 | リハビリの重点 |
|---|---|---|---|
| 炎症期(凍結前期) | 2〜9か月 | 夜間痛・安静時痛が顕著 | 疼痛コントロール・炎症抑制 |
| 拘縮期(凍結期) | 4〜12か月 | 痛みは軽減、可動域制限が主体 | 関節包ストレッチ・モビライゼーション |
| 回復期(解凍期) | 6〜12か月 | 痛みが軽減し可動域が回復 | 筋力・協調性の再構築 |
3つのステージが重複する場合もあります。 発症から完治まで最長で約3年を要するケースがあり、その間のQOL低下は無視できません。
安静時痛や夜間痛が消えていない段階でストレッチを開始すると、炎症が長引く可能性があると報告されています。 つまり「動かせば治る」という単純な発想は炎症期には危険です。まず疼痛評価が条件です。
関連)https://okuno-y-clinic.com/itami_qa/02.html
拘縮期に移行したら、関節モビライゼーションは最も中心的な徒手介入の一つとなります。関節包の収縮・癒着が可動域制限の主因となるため、関節包に直接アプローチする手技が有効です。
関連)https://co-medical.mynavi.jp/contents/therapistplus/career/useful/23511/
>後方関節包ストレッチ(スリーパーストレッチ):内旋可動域の改善に有効、最大内旋位で30秒〜1分保持
関連)https://note.com/idononippon/n/n5361b9cefe3d
>前方・下方関節包モビライゼーション:外旋・外転の可動域制限に対してアプローチ
関連)https://xn--pcktatsz2j7ie.jp/adhesive-capsulitis/
>肩峰下滑液包(SAB)の癒着剥離:通常のモビライゼーションで改善乏しい難渋例に有効な手技
これが基本です。ただし、各手技の適用は病期と疼痛の程度を踏まえた評価が前提です。
強度設定も重要です。過剰な負荷は炎症再燃の引き金になります。「許容痛」(我慢できる弱い痛みの範囲)を目安とした段階的な負荷増加が推奨されています。
関連)https://africatime.com/topics/47649/
↑ 関節モビライゼーションおよび患者教育のエビデンスレベルが整理されており、臨床判断の根拠として参照価値が高い。
「最終的には手術が一番早い」と考えている医療従事者は少なくありません。意外ですね。しかし、最新のエビデンスはその前提を覆しています。
英国で実施されたUK FROST試験(Lancet 2020)では、関節鏡下関節包切離術(ACR)・非観血的関節受動術(MUA)・早期構造化理学療法(ESP)の3群を比較しました。 主要アウトカムであるオックスフォード肩スコア(0〜48点)を12か月後に測定した結果、3群間に臨床的に明確な優越性の差はなかったと報告されています。 これは手術の優越性を示せなかった、という意味で非常に重要な知見です。
関連)https://www.carenet.com/news/journal/carenet/51015
また2024年のランダム化試験では、経過観察のみと早期理学療法を比較した場合、1年後の機能スコアの差は小さいものの、理学療法群は回復開始時期が平均3か月早かったとされています。 3か月の差は患者のQOLに直結します。これは使えそうです。
>🩺 関節内ステロイド注射:炎症期の短期疼痛軽減に有効、理学療法移行を促進する目的で使用
関連)https://africatime.com/topics/47649/
>💉 ヒアルロン酸注射:中期的な疼痛緩和を目的に使用、効果のエビデンスは限定的
関連)https://africatime.com/topics/47649/
>🔧 サイレントマニュピレーション(非観血的関節受動術):伝達麻酔下で関節包・靱帯を徒手的に剥離する方法で、劇的な可動域改善が得られる場合がある
関連)https://www.unayamaseikei.com/treatment/silent_manipulation-2/
注射単独で完結させるのではなく、注射による疼痛軽減を「リハビリのウインドウ」として活用する考え方が現在の主流です。
関連)https://africatime.com/topics/47649/
UK FROST試験の解説記事(CareNet)
↑ 手術治療と理学療法の成績比較についてLancetの知見をわかりやすく解説。根拠に基づく治療選択の参考になる。
自己ストレッチ指導の場面では、タイミングのミスが最も多い落とし穴です。 夜間痛・安静時痛が残存している炎症期に積極的なストレッチを勧めてしまうと、炎症遷延を招くリスクがあります。炎症期が続く期間は最長9か月に及ぶため、「少し痛みが引いた」という患者の自己判断だけでストレッチ開始のタイミングを決めるのは危険です。
関連)https://okuno-y-clinic.com/itami_qa/02.html
>⚠️ 夜間痛・安静時痛の消失を確認してからストレッチ指導を開始する
関連)https://okuno-y-clinic.com/itami_qa/02.html
>📏 1回のストレッチは30秒〜1分保持、1日2〜3セットが目安
関連)https://note.com/idononippon/n/n5361b9cefe3d
>🔄 再癒着防止のため、自己ストレッチは日常生活に組み込んで継続させる
関連)https://taniguchiseikei.com/outpatient/shoulder/
>🧾 疾患の自然経過(最長3年)を患者と共有し、焦りを軽減させる心理的サポートも含める
「患者が頑張りすぎている」ことを見逃さないようにする視点も必要です。熱心にやりすぎて炎症を再燃させるケースは実臨床でも珍しくありません。痛みの管理が条件です。
可動域訓練を続けているのに一向に改善しない患者では、背景疾患の見直しが先決です。
癒着性関節包炎は特発性だけでなく、糖尿病・甲状腺疾患・心疾患術後などの二次性として発症するケースが知られています。 糖尿病患者では、終末糖化産物(AGE)の蓄積が関節包の線維化を促進するとされており、血糖コントロールが不良なまま関節包にアプローチしても改善が乏しいケースがあります。最新の国際レビューでも、糖尿病などの併存症があると経過がさらに遅れると報告されています。 これは見落としがちなポイントですね。
>🩸 糖尿病合併例:HbA1cの推移と関節可動域の回復を並行して評価する視点が重要
>🦋 甲状腺疾患合併例:甲状腺機能低下症では拘縮期が遷延しやすく、内科との連携が必要
>❤️ 心疾患術後(開胸手術後など):患側肩の廃用性変化が加わることで、典型的な病期分類に当てはまりにくい経過をたどることがある
リハビリが「なぜ進まないか」を考えるとき、運動療法の技術だけでなく全身状態の管理が問われます。 リハビリ担当者が医師・内科との情報共有を強化することが、こうした難渋例の解決につながります。つまり多職種連携が原則です。
最近では関節液や関節包組織の線維化マーカー(TGF-βなど)の評価が研究レベルで進んでおり、将来的には病態に応じたより精密なリハビリプロトコルの選択が可能になると考えられています。
関連)https://www.m3.com/clinical/news/1143130
五十肩は自然に治るのか?最新ガイドラインで示された治療の実態(桃谷うすい整形外科)
↑ 最新の国際レビューを踏まえた自然経過・治療期間・残存障害リスクについての解説。糖尿病合併例など予後不良因子にも触れており、臨床的に参考になる。