五十肩と思って積極的にリハを進めた患者が、実は骨転移だったケースが報告されています。
夜間痛とは、就寝中に肩関節周囲の疼痛が生じ、目が覚める症状のことです。三角筋周囲に疼痛が現れ、起床後もしばらく持続するのが特徴とされています。痛みで目覚める頻度によって4つのタイプに分類でき、「夜間痛が全くない(TYPE1)」から「明らかな睡眠障害を訴えるほど毎日持続する(TYPE4)」まで重症度に幅があります。
夜間痛の最大の発生要因は、肩峰下圧の上昇です。立位・座位では上肢の重みによって肩峰下腔にわずかな隙間が生まれ、関節への圧力が比較的小さく保たれています。しかし横になると、この隙間が失われて肩峰下の構造物が圧迫されやすくなります。これが夜間に限って症状が強くなる根本的な理由です。
林典雄らの報告(J Clin Rehabil 2004)では、肩峰下圧上昇の要因として1次的要因(炎症)と2次的要因(癒着)の2種類があると整理されています。炎症期では肩峰下滑液包や腱板周辺の浮腫・腫脹が容積を増大させ、拘縮期では肩峰下滑液包と腱板の癒着・瘢痕組織が問題となります。つまり、どちらの病期でも上方支持組織の容積増大が共通の最終経路です。
夜間痛が持続すると、睡眠不足から交感神経が優位になり、血管・筋肉の収縮が生じます。その結果、筋スパズムが誘発されて発痛物質が蓄積されるという悪循環が形成されます。睡眠障害が長引くと、自律神経の乱れから頚部の凝りやうつ症状にまで波及することも報告されています。夜間痛は単なる睡眠の問題ではなく、早期に取り除くべき優先課題です。
参考:肩関節疾患における夜間痛の病態・メカニズムを解説したセラピスト向けコンテンツ
肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)は、freezing期(炎症期)・frozen期(拘縮期)・thawing期(回復期)の3つの病期で推移します。夜間痛は主に炎症期と拘縮期に出現しますが、その発症機序は異なるため、鑑別なしに同じ介入を行うことは危険です。
炎症期の夜間痛では、腱板や肩峰下滑液包に生じた浮腫・腫脹が主因です。この時期は積極的な関節への介入よりも、炎症のコントロールとポジショニング指導がメインとなります。NRSで7〜8以上の高強度の夜間痛があるケースは、まず医師へのステロイド注射依頼を検討することが優先されます。
拘縮期に入ると日中の安静時痛は軽減しますが、寝返りの際に強制される側臥位内転ストレスで夜間痛が持続するケースがあります。NRS3〜4程度であれば徒手療法・運動療法への介入が可能です。炎症と癒着をしっかり評価せずに積極的な可動域訓練を進めると、拘縮をむしろ助長してROM制限の改善に難渋することがあります。
林らの研究では、夜間痛を有する症例は下垂位外旋可動域が有意に低下していると報告されています。これは肩関節下垂位外旋が上方支持組織の伸張性を反映するためです。臨床での鑑別指標として、下垂位外旋制限の程度を確認することは重要な情報源になります。
病期鑑別のポイントをまとめると、以下の3点が基本です。
- 炎症期:夜間痛・運動時痛が著明。関節拘縮は軽度またはなし。肩峰下の圧痛あり。
- 拘縮期:挙上・外旋・結帯が制限される。最終域での疼痛が主体。夜間痛は残存しうる。
- 回復期:疼痛・ROM共に改善傾向。夜間痛は消失もしくは軽度。
これが病期鑑別の基本です。
参考:病期の鑑別と筋膜アプローチを含む実践的内容
肩関節周囲炎の病期鑑別と夜間痛への筋膜アプローチ|理学BODY
腱板断裂も夜間痛の大きな原因の一つです。重要な事実があります。腱板断裂の有病率は50歳以上で約25%、70歳以上では約50%にのぼると報告されています(岡山済生会報告 2022)。つまり70歳以上の患者の2人に1人は何らかの腱板断裂を有している計算になり、「肩の夜間痛=五十肩」と即断するのは臨床上リスクが高い判断です。
腱板断裂では、仰向けや横向きで寝ると健常な腱板が担っていた骨頭求心性を保つ機能が低下し、三角筋の剪断力が増大して骨頭上方偏位が助長されます。これが肩峰下圧をさらに上昇させ、夜間痛につながります。五十肩との鑑別のポイントとして、腱板断裂では特定方向への筋力低下(特に外旋・外転)を伴うことが多い点に注目してください。
さらに見逃してはならないのが、骨腫瘍・がん骨転移による夜間痛です。肺がん・乳がん・前立腺がんなどは上腕骨・肩甲骨・鎖骨・頸椎へ転移しやすく、安静時痛・夜間痛として現れることがあります。
以下のレッドフラグ🚩が1つでも当てはまる場合は、速やかに画像精査(X線・MRI・骨シンチ)を検討してください。
| レッドフラグ | 疑うべき病態 |
|---|---|
| 安静・ポジショニング変更でも全く改善しない痛み | 骨転移・腫瘍 |
| 体重減少(1ヶ月で3〜5kg以上)を伴う | 悪性疾患 |
| 発熱・倦怠感を伴う | 感染・悪性疾患 |
| 両側性の肩・頸部痛 | リウマチ・全身疾患 |
| 50歳以上の男性で既往にがんあり | 骨転移の高リスク |
「五十肩だから」と判断して積極的なリハビリを進め、骨転移による病的骨折リスクを高めた事例は決してゼロではありません。意外ですね。しかし、これはリハビリ介入前の情報収集・画像確認の徹底によって十分に防げるリスクです。
参考:肩の痛みとがんの関係について専門医が解説したページ
肩の痛みとがんの関係性|症状の種類と適切な治療法を専門医が解説
夜間痛の介入で最も即効性があるのは、就寝時のポジショニング指導です。これは必須です。山本ら(2003)の研究では、腱板断裂患者における肢位別の肩峰下滑液包圧を実測し、以下の順で圧が高くなることを示しています。
1. 🥇 患側下の側臥位(最も圧が高い)
2. 🥈 仰臥位(肩関節伸展位)
3. 🥉 仰臥位(肩関節中間位〜軽度屈曲位)
4. ✅ 立位(最も圧が低い)
患側を下にした側臥位では、体重による圧迫ストレスと肩関節の強制内転が重なり、肩峰下滑液包への負荷が最大になります。仰臥位でも肩甲上腕関節が伸展位(腕が身体の後方に落ちた状態)になると、腱板疎部や前方組織に伸張ストレスがかかり夜間痛が誘発されます。
臨床で実施するポジショニング指導の基本は次の通りです。
- 仰臥位の場合:折りたたんだバスタオル(厚さ約5〜8cm:文庫本2〜3冊分が目安)を上腕〜肘の下に置き、肩甲上腕関節を軽度屈曲位(30°程度)に保つ。肘を上腕よりわずかに高くすることで伸展位を防ぐ。
- 患側上の側臥位:抱き枕を使い上肢を軽度外転・前方に保持させる。体重を健側の体幹で分散させる。
- 患側下の側臥位は原則NG:どうしても側臥位を好む患者には、健側を下にして患側肢を枕やクッションで高く保持させる。
ポジショニング指導を患者に定着させるコツは、「なぜこの肢位で痛いのか」のメカニズムを図や写真を用いて説明することです。理解が得られると自主的に継続しやすくなります。紙に書いたポジショニング図を渡す、スマートフォンで写真を撮ってもらうなどのフォローを1アクションで完結させると、実施率が上がります。
参考:夜間痛に対するポジショニング指導の意義と方法
夜間痛に対する適切なポジショニング指導の考え方|理学療法士監修ブログ
夜間痛が長期化するにつれ、多くの患者に共通して生じる問題があります。それは自律神経の乱れによる二次的な疼痛増幅です。これは見逃されやすいポイントです。
夜間、本来は副交感神経が優位になり、身体の修復・回復が進む時間帯です。しかし痛みで目覚めることが繰り返されると交感神経が優位になり、血管収縮・筋緊張の亢進が起こります。その結果、肩周囲の血流低下から筋スパズムが生じ、発痛物質(ブラジキニン・プロスタグランジンなど)が蓄積されやすくなります。つまり、痛みが睡眠を妨げ、睡眠の乱れがさらに痛みを増幅させるという負のスパイラルです。
この悪循環を断ち切る上で、医療従事者が意識すべき視点が「夜間痛を単独の症状として扱わない」ことです。特に慢性化したケースでは、睡眠の質そのものへの介入が疼痛管理に直結します。以下の4点は、医療従事者としてすぐに患者に提案できるアプローチです。
- 夕方以降の過度な活動を避ける:日中の疲労が夜間の肩周囲の浮腫を増悪させる可能性があります。
- 就寝1時間前の入浴(40℃・10分程度):副交感神経を優位にし、肩周囲の血流促進と筋緊張緩和を促します。
- 鎮痛薬・NSAIDsの就寝前服用タイミング:処方が出ている場合、就寝30〜60分前に服用することで薬効のピークを夜間痛が最も強い時間帯に合わせられます。医師・薬剤師と連携して服用タイミングを確認しましょう。
- 痛みの日誌記録:痛みが特に強い時間帯・肢位・環境(気温など)を記録することで、介入ポイントの絞り込みと患者本人の客観的理解が同時に促せます。
疼痛マネジメントと睡眠改善を並行して進めることが条件です。
「夜間痛はそのうち治る」と放置させる指導は禁物です。睡眠障害が長引くと、うつ症状・慢性疼痛化のリスクが上昇することも報告されています。患者の訴えを軽視せず、睡眠の質を評価項目に加えた多角的なマネジメントを実践してください。
参考:夜間痛の悪循環と自律神経・睡眠への影響について
肩関節周囲炎の夜間痛メカニズムと自律神経への影響|整形外科リハ note