ユルトミリスの薬価は、実は投与を続けるほど1回あたりの費用が安くなる仕組みになっています。
ユルトミリス(一般名:ラブリズマブ〈遺伝子組換え〉)は、アレクシオンファーマが製造・販売する抗補体(C5)モノクローナル抗体製剤です。 現在流通している規格は「300mg/3mL」と「1100mg/11mL」の2種類があり、300mg瓶の薬価は1瓶659,985円(約66万円)となっています。 大きな規格では1瓶257万円超に達するものもあります。 kegg(https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00071533)
費用対効果評価(HTA)の対象品目として指定され、2021年8月1日より1瓶730,894円から699,570円へと約4.3%の薬価引き下げが適用されました。 これはソリリス(エクリズマブ)を最類似薬として比較した評価で、「効果は同等、費用は増加」という結論が出たためです。 つまり、価格は下がりましたが、それでも1回の投与だけで数百万円規模になるケースがあることには変わりありません。 cbnews(https://www.cbnews.jp/news/entry/20210416182541)
これが基本です。
ユルトミリスの最大の特徴は、導入期(初回〜4週)と維持期(それ以降)で投与スケジュールが異なる点です。 維持期は8週間に1回の投与で管理でき、年間投与回数は約6.5回と計算されます。 これは前治療薬ソリリスが2週間に1回(年間約26回)だったことと比較すると、注射の頻度が4分の1に削減されています。 mscabin(https://www.mscabin.org/nmosd/nmosdultomiris/)
体重によって使用する瓶数が異なるため、維持期の年間薬剤費は約4,719万円〜5,148万円の範囲になります(2025年10月現在)。 東京都内の平均的な一軒家の購入価格が4,000〜5,000万円程度と言われる中で、1人の患者に対して毎年それと同額規模の薬剤費がかかっている計算になります。数字を見るだけでも、この薬剤が医療財政に与えるインパクトの大きさがわかります。 mscabin(https://www.mscabin.org/nmosd/nmosdultomiris/)
結論は超高額薬剤です。
健保連の調査では、ユルトミリスHI点滴静注の薬価使用合計額は166億5,148万円で、全医薬品の中でも最上位でした。 患者数が限られた希少疾患薬でありながら、1剤でこれほどの医療費を占有している点は、病院薬剤師・医師ともに認識しておくべき情報です。 kenporen(https://www.kenporen.com/book/kenpo_news/detail/2510/251001_03.shtml)
ユルトミリスは現在、以下の4疾患に適応が承認されています。 clinicalsup(https://clinicalsup.jp/jpoc/drugdetails.aspx?code=71533)
- 🔴 発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH):2019年8月に初承認。維持期は体重別で8週ごと投与
- 🟠 非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS):2020年9月追加。腎機能管理と組み合わせた投与計画が必要
- 🟡 全身型重症筋無力症(gMG):ステロイドや他の免疫抑制剤が奏効しない場合に限定
- 🟢 視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD):再発予防目的で承認。NMOSDでは年間約4,719〜5,148万円 mscabin(https://www.mscabin.org/nmosd/nmosdultomiris/)
適応症によって投与量・投与間隔が異なる場合があるため、薬剤費は単純に同一ではありません。PNH市場には近年競合新薬も相次いでおり、1年間で4つの新製品が登場するなど市場競争が本格化しています。 年間薬剤費が5,000万円を超える競合品も存在し、ユルトミリスの価格競争力の確認が求められる局面も出てきています。 answers.and-pro(https://answers.and-pro.jp/pharmanews/28667/)
適応ごとに確認が必要です。
参考:PNHをめぐる新薬競合の詳細解説
新薬出揃ったPNH市場、患者1000人の疾患に1年で4つの新製品が登場|Answers(アンサーズ)
年間5,000万円規模の薬剤費であっても、患者の実際の自己負担がそのまま5,000万円になるわけではありません。これが大事な点です。PNH・aHUS・NMOSDはいずれも指定難病の要件を満たす疾患であり、難病法に基づく医療費助成制度の対象となります。 mscabin(https://www.mscabin.org/nmosd/nmosdultomiris/)
指定難病の医療費助成が適用されると、患者の自己負担額には月額上限が設定されます。所得区分によって異なりますが、最も負担の大きい高所得区分でも月30,000円が上限となるケースがあります。5,000万円の薬剤費を年間で換算しても、実際の患者負担はその0.1%以下になる可能性があります。この事実を知っておくと、患者説明の質が大きく変わります。
また高額療養費制度も重複して機能し、医療費全体に上限が設けられます。 難病助成+高額療養費の二重の網があるため、「薬が高くて使えない」という状況は制度上は生じにくくなっています。ただし、助成を受けるためには医療受給者証の取得が必須であり、申請漏れがあれば患者が不必要な出費をすることになります。薬剤師・医師が申請手続きを確認・促すことが重要です。 wic-net(https://www.wic-net.com/material/document/22710/23)
参考:指定難病医療費助成制度の概要(厚生労働省)
難病対策|厚生労働省
費用対効果評価(HTA)による薬価引き下げは「患者にとって良いこと」と思われがちですが、医療機関の在庫を保有するタイミングによっては、損失が生じるリスクがあります。これが見落とされやすいポイントです。
2021年の引き下げ時、中医協は「医療機関の在庫価値への影響を踏まえ」適用日を8月1日に設定しています。 これは在庫調整の猶予を与えた対応ですが、切り替えタイミングによっては旧薬価で仕入れた在庫が新薬価で請求されるリスクが残ります。1瓶あたりの差額が約31,000円であり、複数本を同時保有していた施設では無視できない損失になりえます。 media.shaho.co(https://media.shaho.co.jp/n/nb07f0960515b?gs=ad30668ac28c)
| 評価前薬価 | 評価後薬価 | 引き下げ率 | 適用日 |
|---|---|---|---|
| 730,894円/瓶 | 699,570円/瓶 | ▲4.3% | 2021年8月1日 |
さらに、ユルトミリスは今後も市場規模の拡大(166億円超)に伴い、追加の費用対効果評価や再算定の対象になる可能性があります。 病院薬剤師として在庫量を最適化するためには、中医協の審議スケジュールを定期的に確認する習慣が有効です。中医協の議事録はウェブ上で公開されており、審議の動向を早期にキャッチできます。 kenporen(https://www.kenporen.com/book/kenpo_news/detail/2510/251001_03.shtml)
参考:費用対効果評価の仕組みと過去の適用実績
ユルトミリスの費用対効果評価結果に基づく価格調整について(厚生労働省)