発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療において、最も重要な絶対禁忌は髄膜炎菌感染症に罹患している患者への補体阻害薬の投与です。エクリズマブ(ソリリス)やラブリズマブ(ユルトミリス)などのC5阻害薬は、補体系を阻害することでPNHの症状を改善しますが、同時に感染防御機能も低下させるため、髄膜炎菌感染症患者では症状を悪化させる危険性があります。
🚨 絶対禁忌事項
補体阻害薬の添付文書には、髄膜炎菌感染症のリスクを最小化するため、投与開始前の髄膜炎菌ワクチン接種が強く推奨されています。ワクチン接種から2週間以内に治療開始が必要な場合は、適切な抗菌薬による予防的治療を併用する必要があります。
PNH患者では、溶血発作や感染症のリスクを考慮した薬剤選択が重要です。特に副腎皮質ステロイドの使用は、感染症が溶血発作の原因となっている場合に注意が必要です。ステロイドは溶血を抑制する効果がある一方で、感染症を増悪させる可能性があるため、感染症の完全な制御後に使用することが推奨されます。
⚠️ 相対禁忌・注意薬剤
また、PNH患者では血栓症のリスクが高いため、凝固能に影響する薬剤の使用には特別な注意が必要です。抗凝固薬の使用は血栓症予防に重要ですが、血小板減少を伴う場合は出血リスクとのバランスを慎重に評価する必要があります。
2024年4月に日本で発売されたダニコパン(ボイデヤ)は、C5阻害薬と併用する世界初の経口補体D因子阻害薬です。本剤は単独使用ではなく、必ずエクリズマブまたはラブリズマブとの併用が前提となっており、単独投与は禁忌とされています。
💊 ダニコパンの特殊な禁忌・注意事項
ダニコパンの適応は「C5阻害薬による適切な治療を行っても十分な効果が得られない場合」に限定されており、PNH患者の約10~20%に認められる臨床的に問題となる血管外溶血に対する治療薬として位置づけられています。
PNH患者は補体阻害薬の投与により感染症、特に莢膜細菌による感染症のリスクが増大します。感染症治療時の薬剤選択では、以下の点を考慮する必要があります。
🦠 感染症治療時の考慮事項
感染症が溶血発作の誘因となった場合、副腎皮質ステロイドの使用は感染症を増悪させる可能性があるため、充分な抗感染症治療を行った後に検討する必要があります。また、発熱や炎症反応の出現時は、感染症と溶血発作の鑑別診断が重要となります。
PNH治療では複数の薬剤を併用することが多く、薬剤相互作用への理解が重要です。特に造血幹細胞移植を検討する場合や、再生不良性貧血との合併例では、免疫抑制剤との相互作用に注意が必要です。
🔄 主な薬剤相互作用
また、PNH患者では溶血により鉄欠乏が生じることがありますが、急性溶血期の鉄剤投与は溶血を増悪させる可能性があるため、溶血の安定化後に開始することが推奨されます。葉酸製剤は造血支援として有用ですが、ビタミンB12欠乏の鑑別も重要です。
中華医学会血液学分会が制定した2024年版の中国ガイドラインでは、PNHの診断と治療における最新のエビデンスが整理されており、薬剤選択の参考となる重要な情報が含まれています。