モノクローナル抗体の種類と一覧から医薬品まで

モノクローナル抗体の種類と構造的特徴、製造方法から臨床応用まで網羅的に解説します。医薬品として承認されている抗体の一覧や最新の研究動向も紹介していますが、あなたの研究や臨床にどのように活かせるでしょうか?

モノクローナル抗体の種類と一覧

モノクローナル抗体の基礎知識
🧪
特異的な結合力

モノクローナル抗体は単一の抗原決定基に対して高い特異性を持ち、標的を正確に認識します

🔬
均一な品質

単一クローンから産生されるため、均一性が高く再現性のある結果が得られます

💊
医療応用の広さ

がん治療、自己免疫疾患、感染症など幅広い疾患に対する治療薬として活用されています

モノクローナル抗体とポリクローナル抗体の違いと特徴

モノクローナル抗体は、単一の抗体産生細胞に由来するクローンから作製された抗体です。この特性により、単一の抗原決定基(エピトープ)を認識するという重要な特徴を持っています。これは医薬品開発において極めて重要な性質です。

 

一方、ポリクローナル抗体は複数の異なる抗体産生細胞から作られた抗体の混合物です。自然状態で生体内に誘導される抗体は通常ポリクローナルであり、抗原の複数の部位(抗原決定基)を認識します。

 

両者の主な違いを以下の表にまとめました。

特性 モノクローナル抗体 ポリクローナル抗体
由来 単一の抗体産生細胞 複数の抗体産生細胞
特異性 単一のエピトープを認識 複数のエピトープを認識
均一性 高い(均一な分子種) 低い(混合物)
生産の再現性 高い 低い(バッチ間で変動)
製造コスト 高い 比較的低い
医薬品応用 広く使用されている 限定的

モノクローナル抗体の均一性と高い特異性は、医薬品として用いる場合に一定の効果を示すという点で非常に重要です。また、単一のエピトープを標的とするため、副作用のリスクを低減できる可能性があります。

 

近年の研究では、単一のモノクローナル抗体を改変して二重特異性モノクローナル抗体を設計し、2つのエピトープを同時に標的とする手法も開発されています。これにより、より効果的な治療アプローチが可能になっています。

 

モノクローナル抗体の4種類の分類と構造の特徴

現在、医薬品として承認されているモノクローナル抗体は、その遺伝子の由来に基づいて主に4種類に分類されます。それぞれの種類には独自の特徴と用途があります。

 

  1. マウス抗体

    マウス抗体はマウスの抗体産生細胞から作製された抗体です。名称の末尾に「-omab」が付きます。しかし、人体にとっては異物となるため、アレルギー反応や免疫原性の問題があります。また、人体内では反応性が低下する傾向があるため、医薬品としての有効性に制限があります。

     

  2. キメラ抗体

    マウス抗体の問題点を克服するために開発されたのがキメラ抗体です。名称の末尾に「-ximab」が付きます。遺伝子工学技術を用いて、マウス抗体の可変領域(抗原結合部位)を残し、残りの部分をヒト抗体で置換した構造を持ちます。マウス由来の部分は約30%程度で、免疫原性が低減されています。代表例としてリツキシマブがあります。

     

  3. ヒト化抗体

    キメラ抗体をさらに進化させたものがヒト化抗体で、名称の末尾に「-zumab」が付きます。1998年に英国のWinter医師によって開発されました。相補性決定領域(CDR)のみがマウス由来で、フレームワーク領域(FR)を含む他の部分はすべてヒト抗体に置換されています。マウス由来の部分は約10%と非常に少なく、ヒト免疫グロブリンとして認識されるため、アレルギー反応のリスクが大幅に低減されています。トラスツズマブやベバシズマブがこのタイプに分類されます。

     

  4. ヒト抗体(完全ヒト抗体)

    名称の末尾に「-umab」が付き、マウス由来の部分を全く含まないモノクローナル抗体です。人体との親和性が非常に高いのが特徴です。製造方法としては、以下のような方法があります。

  • トランスジェニックマウス(ヒト抗体遺伝子を導入したマウス)の利用
  • ファージディスプレイ法
  • シングルセル法(ヒトのB細胞から直接遺伝子を増幅)

代表的な例としては、アダリムマブゴリムマブなどがあります。

 

これらの抗体の構造を視覚的に表すと、マウス由来の部分(赤色)とヒト由来の部分(青色)の割合が徐々に変化していきます。

マウス抗体:   [赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤]

キメラ抗体: [赤赤赤青青青青青青青]
ヒト化抗体: [赤青青青青青青青青青]
ヒト抗体: [青青青青青青青青青青]

これらの抗体タイプの進化は、医薬品としての有効性と安全性を高めるための重要な進歩となっています。

 

モノクローナル抗体医薬品の製造方法と最新技術

モノクローナル抗体の製造は複雑なプロセスであり、技術の進歩とともに進化してきました。基本的な製造方法から最新技術まで解説します。

 

従来の製造方法(ハイブリドーマ法)
モノクローナル抗体の伝統的な製造方法は、1975年にKöhlerとMilsteinによって開発されたハイブリドーマ技術です。この方法の基本的なステップは以下の通りです。

  1. 動物(主にマウス)に目的の抗原を注射して免疫応答を誘導
  2. ELISAなどの方法で抗体産生を確認
  3. 脾臓から抗体産生B細胞を摘出
  4. B細胞とミエローマ細胞(がん化した形質細胞)を融合してハイブリドーマを作製
  5. HAT培地でのスクリーニングにより目的の抗体を産生する細胞を選別
  6. 選別された細胞をクローニングして大量培養

この方法の大きな利点は、不死化されたハイブリドーマ細胞が理論上は無限に増殖でき、同一の抗体を継続的に産生できる点です。しかし、マウス由来の抗体はヒトに投与すると異物と認識され、免疫反応を引き起こす問題がありました。

 

最新の製造技術

  1. 遺伝子工学技術を用いた抗体の改変

現代では、遺伝子工学の発展により、より安全で効果的なモノクローナル抗体が製造可能になっています。具体的には。

  • キメラ抗体:マウス抗体の可変領域をヒト抗体の定常領域と結合
  • ヒト化抗体:マウス抗体のCDR(相補性決定領域)のみを残し、他の部分をヒト抗体で置換
  • 完全ヒト抗体:マウス由来の部分を全く含まないヒト抗体
  1. トランスジェニック動物の利用

ヒト抗体遺伝子を導入したトランスジェニックマウスが開発され、これらを免疫することでヒト抗体を産生させることが可能になりました。日本では20年以上前に東京薬科大学の冨塚一磨教授が世界で初めて染色体導入ヒト抗体産生マウスを開発しています。

 

  1. ファージディスプレイ法

バクテリオファージの表面にヒト抗体の可変領域を発現させ、目的の抗原に結合する抗体を選別する技術です。この方法では動物を使用せずに抗体を取得できるという利点があります。

 

  1. シングルセル法

ヒトのB細胞から直接抗体遺伝子を単離・増幅し、抗体を作製する技術です。この方法により、自然免疫応答で産生された高親和性抗体を取得することが可能になっています。

 

  1. バイオリアクターを用いた大量培養

工業的な抗体生産には、CHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞)などの培養細胞に抗体遺伝子を導入し、大型のバイオリアクターで培養する方法が用いられます。この方法により、高純度で大量の抗体を製造することが可能になっています。

 

  1. 抗体工学による機能強化

近年では単に抗体を作製するだけでなく、その機能を強化する技術も発展しています。

  • 二重特異性抗体:2つの異なる抗原を同時に認識できる抗体
  • 抗体-薬物複合体(ADC):抗体に強力な抗がん剤を結合させ、標的細胞に選択的に薬剤を送達
  • Fc領域の改変:エフェクター機能の強化や半減期の延長

これらの最新技術により、モノクローナル抗体医薬品の効果と安全性は飛躍的に向上しています。

 

モノクローナル抗体の臨床応用と承認医薬品一覧

モノクローナル抗体は、その高い特異性と効果から様々な疾患の治療に応用されています。日本で承認されている主なモノクローナル抗体医薬品とその適応症について解説します。

 

がん治療用モノクローナル抗体
がん治療は、モノクローナル抗体の主要な適応分野の一つです。がん細胞特異的な抗原を標的とし、免疫系を活性化させることでがん細胞を攻撃します。

 

  • トラスツズマブ(商品名:ハーセプチン):HER2陽性乳がんや胃がんの治療に使用される代表的なヒト化モノクローナル抗体です。HER2タンパク質を標的とし、がん細胞の増殖を抑制します。
  • ベバシズマブ(商品名:アバスチン):血管内皮増殖因子(VEGF)を標的とするヒト化モノクローナル抗体です。がんの血管新生を抑制することで、腫瘍の成長を阻害します。大腸がん、肺がん、乳がん、卵巣がんなどの治療に使用されています。
  • リツキシマブ(商品名:リツキサン):CD20陽性のB細胞性非ホジキンリンパ腫の治療に使用されるキメラ型モノクローナル抗体です。B細胞表面のCD20抗原を標的とし、B細胞を減少させます。

自己免疫疾患治療用モノクローナル抗体
自己免疫疾患の治療では、免疫システムを調節するモノクローナル抗体が使用されています。

 

  • インフリキシマブ(商品名:レミケード):腫瘍壊死因子α(TNF-α)を標的とするキメラ型モノクローナル抗体です。関節リウマチクローン病潰瘍性大腸炎、乾癬などの治療に使用されています。
  • トシリズマブ(商品名:アクテムラ):インターロイキン6受容体(IL-6R)を標的とするヒト化モノクローナル抗体です。関節リウマチや若年性特発性関節炎の治療に効果を示します。
  • アダリムマブ(商品名:ヒュミラ):TNF-αを標的とする完全ヒトモノクローナル抗体です。関節リウマチ、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎などの治療に広く使用されています。
  • ゴリムマブ(商品名:シンポニー):TNF-αを標的とする完全ヒトモノクローナル抗体で、関節リウマチなどの治療に使用されています。

眼科疾患治療用モノクローナル抗体

  • ラニビズマブ(商品名:ルセンティス):VEGFを標的とするヒト化モノクローナル抗体のFab断片です。加齢黄斑変性症や糖尿病性黄斑浮腫の治療に使用されます。

その他の疾患治療用モノクローナル抗体

  • オマリズマブ(商品名:ゾレア):IgEを標的とするヒト化モノクローナル抗体で、重症喘息の治療に使用されます。
  • エクリズマブ(商品名:ソリリス):補体C5を標的とするヒト化モノクローナル抗体で、発作性夜間ヘモグロビン尿症や非典型溶血性尿毒症症候群の治療に使用されます。

COVID-19治療用モノクローナル抗体
パンデミックへの対応として、SARS-CoV-2に対するモノクローナル抗体も開発されています。

 

  • カシリビマブ/イムデビマブ(商品名:ロナプリーブ):SARS-CoV-2のスパイクタンパク質を標的とするモノクローナル抗体カクテルです。

モノクローナル抗体医薬品の市場は急速に拡大しており、新たな標的や適応症に対する抗体が継続的に開発されています。臨床現場での使用経験の蓄積とともに、より効果的で安全な治療法の確立が進んでいます。

 

モノクローナル抗体の動物種別の特性と選択基準

モノクローナル抗体の作製には様々な動物種が利用されており、それぞれに特性と利点があります。適切な動物種の選択は、目的に合った抗体を効率的に取得するために重要です。

 

マウス
マウスは伝統的にモノクローナル抗体作製の主要な動物種です。ハイブリドーマ技術が最初に確立された動物であり、作製方法が標準化されているという利点があります。

 

しかし、以下のような課題も存在します。

  • 取得できる抗体の多様性が限定的
  • 親和性・特異性に制限がある場合がある
  • マウス疾患モデルでの免疫染色に問題が生じることがある(二次抗体の交差反応)

ウサギ
ウサギを用いたモノクローナル抗体は、以下のような特徴があります。

  • マウスより多様な抗体レパートリーを持つ
  • 小さなハプテンや修飾タンパク質に対して強い免疫応答を示す
  • マウスでは免疫原性が低い抗原に対しても反応する

これらの特性から、ウサギモノクローナル抗体は以下のような目的に適しています。

  • 微細な構造変化の検出が必要な場合
  • ポストトランスレーション修飾の検出
  • 高感度な検出が必要な診断用途

ニワトリ
哺乳類とは進化的に離れているニワトリは、以下のような特徴を持ちます。

  • 哺乳類では免疫原性が低い保存タンパク質に対して強い免疫応答を示す
  • 独自の抗体構造(IgY)を持ち、哺乳類のFc受容体と交差反応しない
  • 卵から抗体を回収できるため、動物への負担が少ない

これらの特性は、以下のような目的に適しています。

  • 哺乳類間で高度に保存されたタンパク質に対する抗体作製
  • 哺乳類の内因性抗体との交差反応を避けたい場合
  • 動物福祉に配慮した抗体生産

ラクダ科動物(ラクダ、アルパカなど)
ラクダ科動物は重鎖のみからなるユニークな抗体(VHH抗体、ナノボディ)を産生します。その特徴は。

  • 小さなサイズ(約15kDa、通常抗体の約1/10)
  • 安定性が高い
  • 従来の抗体では到達困難な抗原エピトープにアクセス可能

これらの特性から、以下のような応用に適しています。

  • 立体障害のある部位の標的化
  • 組織浸透性が重要な用途
  • 安定性が求められる診断キットや治療用途

ヒト
ヒト由来のモノクローナル抗体は、治療用途に最適です。

  • ヒト体内での免疫原性が極めて低い
  • 自然な親和性成熟プロセスを経た高親和性抗体が得られる
  • 倫理的な問題や技術的ハードルはあるが、シングルセル法など技術の進歩により可能になっている

動物種選択の基準
モノクローナル抗体作製のための動物種選択は、以下の要素を考慮して行われます。

  1. 抗原の特性:保存性の高いタンパク質ならニワトリ、小さな分子ならウサギなど
  2. 抗体の用途:研究用途、診断用途、治療用途で最適な動物種が異なる
  3. 必要な特性:親和性、特異性、安定性など
  4. 技術的制約:施設の能力、経験、コストなど
  5. 倫理的配慮:動物福祉の観点からの検討

モノクローナル抗体の開発において、これらの動物種の特性を理解し、目的に応じた選択をすることが重要です。それぞれの利点を活かしたアプローチにより、より効果的で特異的な抗体の作製が可能となります。

 

最近では、異なる動物種の長所を組み合わせたハイブリッドアプローチや、完全に動物を使用しないin vitro技術の開発も進んでおり、モノクローナル抗体作製の分野は今後も進化し続けるでしょう。