房室ブロックは重症度により3つの段階に分類されます。**1度房室ブロック**では心房から心室への電気信号の伝導時間が延長(0.2秒以上)しているものの、途切れることはありません 。この段階では多くの場合自覚症状がなく、特に運動習慣のある方や若年者では健康な状態でも認められることがあります 。[1][2]
2度房室ブロックでは、心房の電気信号が時々心室に伝わらなくなる状態です 。この段階になると脈が飛んだり、めまいや息切れなどの症状を自覚する可能性があります 。さらに重篤な完全房室ブロック(3度房室ブロック)では、心房と心室がそれぞれ独立して収縮するようになり、通常は徐脈を生じます 。この状態では脳血流量が低下し、めまい、ふらつき、時には意識消失発作を引き起こし、息切れや疲労感などの心不全症状も出現することがあります 。
参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E6%88%BF%E5%AE%A4%E3%83%96%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF
房室ブロックの最も一般的な原因は、**伝導系に生じる特発性の線維化および硬化**で約50%の患者を占めています 。次に多いのは虚血性心疾患で約40%を占め、その他の原因として薬剤性(β遮断薬、カルシウム拮抗薬、ジゴキシン、アミオダロンなど)、迷走神経緊張の亢進、弁膜症、先天性心疾患などがあります 。[4]
急性に発症する房室ブロックの原因には、心筋梗塞、異型狭心症、心筋炎などの心臓病、高カリウム血症、過度の迷走神経亢進状態があります 。慢性または再発性の房室ブロックでは、冠動脈疾患、心筋症、心サルコイドーシス、膠原病、先天性ブロックなどが原因として知られています 。
参考)https://www.yomiuri.co.jp/yomidr/iryo-taizen/archive-taizen/OYTED677/
障害部位による分類では、房室結節でのブロック(A-Hブロック)、His束内ブロック(BHブロック)、His束より下位でのブロック(HVブロック)に分けられ、それぞれ治療方針や予後が異なります 。
参考)https://med.toaeiyo.co.jp/contents/cardio-terms/disease/3-57.html
房室ブロックの診断は主に**心電図検査**により行われます 。心電図では、1度房室ブロックでは**PR間隔の延長**(0.2秒以上)が特徴的で、QRS波の脱落は見られません 。2度房室ブロックではMobitzI型(Wenchebach型)とMobitzII型に分類され、前者では徐々にPR間隔が延長した後にQRS波の脱落が見られ、後者では一定のPR間隔でQRS波の脱落が起こります 。[4][1]
完全房室ブロックでは、P波とQRS波が完全に独立して出現し、心房波とは関係なく補充調律が記録されます 。この状態では一般的に心房波とは独立した補充調律が記録され、慢性の完全房室ブロックでは伝導系細胞の脱落・線維化による完全な途絶を示します 。
参考)https://showa.repo.nii.ac.jp/record/3814/files/81_59.pdf
心筋梗塞との関連では、特に下壁心筋梗塞で房室ブロックが合併しやすく、これは房室結節周辺に血液を供給している血管が右冠動脈から発生しているためです 。右冠動脈に閉塞や狭窄を生じると房室結節の機能が障害され、房室ブロックを引き起こします 。
参考)https://www.cardiac.jp/view.php?lang=jaamp;target=grade1_avb.xml
房室ブロックの治療は症状の有無と重症度により決定されます。**1度房室ブロック**では一般的に治療は不要で、定期的な経過観察のみ行います 。無症状のウェンケバッハ型2度房室ブロックも治療は不要とされています 。[9][5]
有症状の高度房室ブロックに対してはペースメーカー植え込みが第1選択の治療となります 。特に3度房室ブロックでは極端に脈が遅くなり、失神・めまいなどの症状が出現し、場合によっては生命に危険が及ぶためペースメーカー植え込みが必要です 。
参考)https://yokohamah.johas.go.jp/department/news/20180821_06.html
緊急時や一時的な治療として、一時的ペーシングや薬物治療が行われることもあります 。薬物治療では硫酸アトロピンやプロタノール、交感神経作動薬(イソプロテレノール、アドレナリン、ドパミン)、シロスタゾールなどが使用されます 。ただし、これらの薬剤は主に緊急時やペースメーカー植え込みまでの一時的な対応として用いられます 。
参考)https://www.edogawa.or.jp/%E8%A8%BA%E7%99%82%E7%A7%91%E3%83%BB%E9%83%A8%E9%96%80/%E5%BE%AA%E7%92%B0%E5%99%A8%E5%86%85%E7%A7%91/%E4%B8%BB%E3%81%AA%E7%96%BE%E6%82%A3%E3%81%A8%E6%B2%BB%E7%99%82%E6%96%B9%E6%B3%95/%E6%88%BF%E5%AE%A4%E3%83%96%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF
房室ブロックの予防において最も重要なのは、**基礎疾患の管理**です。虚血性心疾患が主要な原因の一つであるため、冠動脈疾患の危険因子である高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙の管理が重要です 。定期的な心電図検査により早期発見・早期治療につなげることも大切です。[4]
薬剤性房室ブロックを避けるため、β遮断薬、カルシウム拮抗薬、ジゴキシン、アミオダロンなどの薬剤使用時は定期的な心電図モニタリングが必要です 。これらの薬剤を服用中の患者では、めまい、ふらつき、息切れなどの症状が出現した場合、速やかに医療機関を受診することが重要です 。
参考)https://osaka-heart.jp/patient/cardiovascular-disease/arrhythmia/av-block/
日常生活では過度な迷走神経刺激を避けることも大切で、急激な体位変換や長時間の臥位からの起立は避けるべきです。また、電解質異常(特に高カリウム血症)も房室ブロックの原因となるため、腎機能障害のある患者では定期的な血液検査による電解質の管理が必要です 。
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済生会による房室ブロックの分かりやすい解説