β遮断薬は受容体選択性により大きく2つに分類されます。β1非選択性β遮断薬は、β1とβ2受容体の両方を遮断するため、心血管系以外への影響も考慮する必要があります。代表的な薬剤にはプロプラノロール(インデラル®)、ピンドロール(カルビスケン®)、カルテオロール(ミケラン®)があります。
一方、β1選択性β遮断薬は主にβ1受容体を選択的に遮断し、β2受容体への影響を最小限に抑えます。この分類には、アテノロール(テノーミン®)、ビソプロロール(メインテート®)、メトプロロール(セロケン®、ロプレソール®)、ベタキソロール(ケルロング®)が含まれます。
さらに、内因性交感神経様作用(ISA)の有無も重要な分類基準です。ISAを有する薬剤は、β受容体を遮断しながらも軽度の刺激作用を示すため、安静時心拍数の低下が少ないという特徴があります。
脂溶性と水溶性の違いも臨床的に重要です。脂溶性β遮断薬(プロプラノロール、メトプロロール、カルベジロール、ベタキソロールなど)は血液脳関門を通過しやすく、中枢神経系への影響による悪夢、うつ病、インポテンツなどの精神症状が現れることがあります。
β1選択性β遮断薬は、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)を有する患者により安全に使用できます。β2受容体遮断による気管支収縮のリスクが低いためです。特にビソプロロールは、他のβ遮断薬と比較してレート抑制効果が強く、心房細動のレートコントロール療法において高い使用頻度を示しています。
心不全患者には、カルベジロール(アーチスト®)やビソプロロール(メインテート®)が第一選択となります。これらの薬剤は心保護効果や生命予後改善効果が臨床試験で確認されており、通常量の1/8量から慎重に開始されます。
虚血性心疾患では、メインテートまたはアーチストが推奨されています。これらの薬剤は抗酸化作用も報告されており、心筋保護効果が期待できます。
不整脈治療においては、頻拍発作の抑制効果とQOL維持を考慮して薬剤を選択します。朝夕2回投与が適している場合はセロケン®、頻拍発作時の頓用にはインデラル®が用いられることが多いです。
高血圧治療では、メインテートやアーチストが主流となっており、これらは1日1回投与で良好なコンプライアンスが得られます。
すべてのβ遮断薬に共通する副作用として、心機能低下、低血圧、洞機能不全、房室ブロック、消化器症状があります。特に重要なのは離脱症候群で、長期投与により受容体のアップレギュレーションが生じ、急激な中止により血圧上昇、虚血症状、不整脈の増悪が起こる可能性があります。
非β1選択性β遮断薬では、β2遮断効果による特有の副作用に注意が必要です。気管支喘息の悪化、低血糖、閉塞性動脈硬化症の増悪、末梢循環障害、トリグリセライドの上昇、HDL-コレステロールの低下などが知られています。
高齢者では老化現象によりスパイロメトリーが閉塞性パターンを示すことがあり、気管支喘息の診断が困難になる場合があります。呼吸機能検査での改善率測定による気道過敏性の評価が参考になります。
脂溶性β遮断薬特有の副作用として精神症状があります。悪夢、インポテンツ、うつ病などが報告されており、水溶性のテノーミンでも発生する可能性があるため注意が必要です。
冠痙縮の悪化については明確なエビデンスは存在しませんが、どのβ遮断薬でも起こりうると考えられています。冠スパズムの可能性がある場合は、カルシウム拮抗薬の併用が推奨されます。
心不全治療において、β遮断薬の選択には特に注意が必要です。カルベジロールは2002年10月に、ビソプロロールは2011年5月に慢性心不全への適応が追加されました。両薬剤とも大規模臨床試験でその有用性が確認されており、肺鬱血のない患者に適応されます。
心房細動のレートコントロール療法では、ビソプロロールが第一選択となることが多いです。MAIN-AF試験でその効果が立証され、2013年6月に頻拍性心房細動への適応が追加されました。カルベジロールについてもAF Carvedilol試験により効果が確認されています。
高血圧治療では、β遮断薬は第二選択薬として位置づけられています。テノーミンやメインテートなど1日1回投与が可能な薬剤がよく用いられ、患者のコンプライアンス向上に寄与しています。
労作性狭心症や頻脈性不整脈には、テノーミンやメインテートなどの1日1回投与薬が選択されることが多いです。これらの薬剤は安定した血中濃度を維持し、症状の改善に効果的です。
動悸に対する頓用としては、インデラルが広く使用されています。即効性があり、患者が症状を自覚した際に適宜服用できる利点があります。
β遮断薬の薬物相互作用で最も注意すべきは、シトクロムP450システムへの影響です。H2受容体遮断薬のシメチジンは、CYP1A2、2C9、2D6の強力な阻害作用を有し、β遮断薬の代謝に影響を与える可能性があります。これにより血中濃度が上昇し、副作用のリスクが増大することがあります。
脂溶性β遮断薬は肝代謝の影響を受けやすく、肝機能障害患者では用量調整が必要です。一方、水溶性β遮断薬は主に腎排泄されるため、腎機能障害患者での使用には注意が必要です。
糖尿病患者では、β遮断薬による低血糖症状のマスキング効果に注意が必要です。特に非選択性β遮断薬では、β2受容体遮断により低血糖からの回復が遅延する可能性があります。
麻酔時には、β遮断薬の継続投与が推奨されることが多いですが、急激な血圧変動や徐脈のリスクがあるため、麻酔科医との連携が重要です。術前の急激な中止は避け、必要に応じて静注用製剤への切り替えを検討します。
併用禁忌薬として、ベラパミルやジルチアゼムなどの非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬があります。両薬剤とも房室伝導抑制作用があり、併用により高度な徐脈や房室ブロックを引き起こす危険性があります。
妊娠・授乳期における使用では、胎児への影響を考慮する必要があります。プロプラノロールやメトプロロールは妊娠カテゴリーCに分類され、必要性を十分検討した上で使用を決定します。
日本不整脈心電学会による心房細動レートコントロール療法ガイドライン。
https://new.jhrs.or.jp/pdf/education/koredakewa15.pdf