治療効果判定PDを正しく理解し臨床で活かす判断基準

治療効果判定におけるPD(Progressive Disease)は、単純に「悪化=治療失敗」と判断してよいのでしょうか?正確な評価基準と臨床現場での注意点を解説します。

治療効果判定PDの基準と臨床現場での正しい判断

PDと診断されても、すぐに治療を変更しないほうが患者の生存期間が延びるケースが約20〜30%存在します。


🔍 この記事の3つのポイント
📏
PDの定義は「20%以上の増大」

RECISTv1.1では標的病変の径和が最小値から20%以上増大、かつ絶対値で5mm以上増加した場合にPDと判定します。

⚠️
偽進行(Pseudo-progression)に注意

免疫チェックポイント阻害薬では、実際には効いているのに画像上PDに見える偽進行が起こりうるため、判定には慎重な臨床的総合判断が必要です。

💡
PDでも継続判断が必要な場面がある

臨床症状の安定や腫瘍マーカーの動向を合わせて評価することで、画像所見のみに依存しない総合的な判断が求められます。


治療効果判定PDの定義:RECISTv1.1における基準を理解する

がん薬物療法における治療効果判定は、患者の今後の治療方針を左右する非常に重要なプロセスです。国際的な標準基準として広く用いられているのが、RECISTv1.1(Response Evaluation Criteria in Solid Tumors version 1.1)です。


RECISTv1.1では、治療効果を以下の4つのカテゴリで分類します。


  • CR(Complete Response):全標的病変の消失
  • PR(Partial Response):標的病変の径和が30%以上減少
  • ⚠️ SD(Stable Disease):PRにもCRにも該当しない安定状態
  • PD(Progressive Disease):標的病変の径和が最小値から20%以上増大、かつ絶対値で5mm以上増加


PDの判定条件は「20%以上の増大」と「5mm以上の絶対増加」の両方を同時に満たす必要があります。これが原則です。


たとえば、標的病変の径和が治療中の最小値(ナジール値)10mmだったとします。その後20%増大すると12mmになりますが、絶対増加量は2mmです。この場合、20%という割合は超えていますが、絶対増加量5mmを満たしていないためPDとは判定されません。数字だけではなく、両条件を確認することが基本です。


また、新病変の出現は径の大きさに関係なくPDと判定されます。これは見落としやすいポイントです。


日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)によるRECISTv1.1日本語訳PDFはこちら


治療効果判定PDと偽進行(Pseudo-progression)の見分け方

免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が広く使われるようになった現在、臨床現場で最も混乱を招きやすいのが「偽進行(Pseudo-progression)」です。


偽進行とは、免疫細胞が腫瘍組織に浸潤・活性化することで、一時的に腫瘍が画像上で増大して見える現象です。実際にはがんが縮小方向に向かっているにもかかわらず、RECISTの基準ではPDと判定されてしまうことがあります。意外ですね。


偽進行の頻度は薬剤・がん腫によって異なりますが、黒色腫(メラノーマ)では約10〜15%の症例で報告されており、肺がんや腎細胞がんでも数%〜10%程度に見られます。この数値は臨床判断に直結する重要な情報です。


見分けるためのポイントは以下の通りです。


  • 🔬 画像上でPDでも、全身状態(PS:Performance Status)が維持されているかを確認する
  • 📊 腫瘍マーカーの推移が安定または改善傾向にないかを確認する
  • 🗓️ 次の画像評価(4〜6週後)まで治療継続を検討する(confirm PD)
  • 💬 患者の自覚症状の変化を丁寧に問診する


確認が条件です。画像1枚で即座にPD判断を下さず、臨床総合評価を行うことが偽進行を見逃さないための鉄則です。


なお、iRECIST(免疫療法用のRECIST改訂版)では「unconfirmed PD(uPD)」として、一度のPD判定では治療変更せず、次回評価での確認を求める概念が組み込まれています。


国立がん研究センター:臨床試験グループによるiRECIST関連情報


治療効果判定PDでも継続を検討すべき臨床シナリオ

「PDが出たら即座に次のラインへ」という判断が必ずしも正しいわけではありません。これは現場で見落とされがちな視点です。


特に以下のような状況では、PDと判定されても現行治療の継続または慎重な経過観察が優先されることがあります。


  • 🩺 混合奏効(Mixed Response):一部の病変は縮小しているのに、別の病変が増大している場合。全体的な腫瘍量が増加しているかどうかの評価が重要になります。
  • 💊 分子標的薬の獲得耐性と継続効果:EGFRやALK阻害薬などでは、耐性変異が出た後も主要病変のコントロールが続いていることがあります。
  • 🧬 骨転移の評価困難:骨病変は治療効果の評価が難しく、造骨性変化が「一見増悪」に見えることがあります。


混合奏効の場合は特に注意が必要です。RECISTはあくまで「標的病変の径和の変化」を見るため、一部病変の著明な縮小が数字に反映されにくい構造上の弱点があります。


つまり「PDは必ず治療変更」ではなく、PS・症状・マーカー・病変部位の質的変化を統合した判断が求められるということです。主治医と放射線科、腫瘍内科が緊密に連携する体制が実際の臨床ではきわめて重要になります。


治療効果判定PDにおける評価タイミングと測定誤差の問題

PDの判定精度は、評価のタイミングと測定方法に大きく左右されます。これは見過ごされやすい落とし穴です。


RECISTv1.1では、測定可能病変の最長径を測定し、その合計(径和)を追跡します。しかし実臨床では以下のような誤差要因が存在します。


誤差の種類 内容 影響
測定者間誤差 放射線科医によって測定値が異なる 最大±20%程度の差が出ることがある
測定タイミングのずれ 画像取得と評価のタイミングのずれ 食事・浮腫の影響で数値が変動
画像モダリティの違い CTとMRIで病変径が異なる場合 比較評価が困難になる
部分容積効果 スライス厚が厚いとサイズが過大評価される 小病変では特に影響大


測定者間誤差は「最大±20%」というのは、PDの判定基準そのものと同じ幅です。これは使えそうな視点です。20%の変化がPDの閾値であるにもかかわらず、測定の誤差でそれと同等の幅が生じうるという事実は、単純なPD判断の限界を示しています。


このような誤差を最小化するためには、同一施設・同一モダリティ・可能な限り同一の放射線科医による継続評価が推奨されます。特に試験中の患者では、プロトコルに則った画像取得条件の統一が重要です。


治療効果判定PDを臨床現場で活かす独自の視点:患者との共有と意思決定

医療従事者として見落としがちなのが、PD判定を「患者にどう伝えるか」という側面です。


PDという判定結果は、患者にとって「治療が効いていない」という大きな心理的打撃になりえます。しかし前述のとおり、PDと判定されても継続検討が必要なケースや偽進行の可能性があるケースが存在します。その文脈を伝えずに「進行しました」とだけ告げることは、患者の不安を不必要に高め、共同意思決定(SDM:Shared Decision Making)の妨げになりかねません。


厳しいところですね。しかし、医療者の言葉の選び方が患者の治療継続意欲や生活の質(QOL)に直接影響することは多くの研究で示されています。


実際の説明では、以下の順序で情報を整理すると患者の理解が深まりやすいです。


  • 📋 ①「今回の画像では、基準上PDという判定になりました」と事実を伝える
  • 🔍 ②「ただし、症状の変化・全身状態・マーカーを合わせると、現時点で治療を変える必要があるかどうか確認が必要です」と文脈を添える
  • 🗓️ ③「次のステップとして〇〇週後に再評価を行います」と具体的な行動を示す


SDMのプロセスをサポートするツールとして、国立がん研究センターが提供する「患者向けがん情報サービス」や各学会の患者向けガイドブックは、説明の補助資料として活用できます。


国立がん研究センター「がん情報サービス」:患者・家族向けの正確な情報提供サイト


PDの判定が、治療の終わりを意味しないケースもあります。その視点を持ちながら、患者と共に次の一手を考えることが、臨床家としての本質的な役割といえるでしょう。