デエビゴ(一般名レンボレキサント)は、覚醒維持に関与するオレキシン受容体を遮断して「起きていられる力」を弱め、入眠・睡眠維持を助けるタイプの睡眠薬です。
この系統(dual orexin receptor antagonist; DORA)は、睡眠の中でも夢の想起が起きやすいレム睡眠の量や出現パターンに影響し得るため、「夢が増えた」「夢が鮮明」「怖い夢だった」といった訴えにつながりやすい、という説明が臨床的には理解しやすいポイントです。
ただし重要なのは、「悪夢=必ずレム睡眠が増えた」ではなく、患者が“夢を覚えている”状況(途中覚醒、浅い覚醒、睡眠の断片化)になれば、同じ夢でも不快な体験として記憶に残りやすい点です。
たとえば不眠が強い患者ほど、日中の不安や緊張が睡眠へ持ち越されやすく、睡眠導入後の夢の内容(情動の偏り)や覚醒タイミング(夢の記銘)に影響して、悪夢として「体験」されることがあります。
医療者向けの説明としては、患者が感じる悪夢の背景を「①薬による睡眠段階への影響」「②中途覚醒と夢の記憶」「③日中ストレス・精神症状・トラウマなど夢内容の素材」の3レイヤーに分けると、問診と対応が整理できます。
レンボレキサントの第3相試験(SUNRISE-2/ SUNRISE-1の解析)では、悪夢または異常夢は“多い副作用”ではなく、一定割合で報告される事象として扱われています。
具体的には、12か月試験の最初の6か月(Study 303 Period 1)では、悪夢/異常夢の有害事象報告は28/947(3.0%)で、内訳として悪夢はプラセボ1、5mg 4、10mg 7、異常夢はプラセボ6、5mg 7、10mg 4でした。
1か月試験(Study 304)では、悪夢/異常夢の有害事象報告は12/1006(1.2%)で、悪夢はプラセボ1、ゾルピデム徐放0、5mg 2、10mg 1、異常夢はプラセボ1、ゾルピデム徐放3、5mg 0、10mg 4という内訳でした。
また同解析では、悪夢/異常夢が報告された人の80%が女性であったこと、そしてレンボレキサント群で悪夢/異常夢が出たケースのうち、約4割が開始3日以内に報告していることが示されています。
この「開始早期に出うる」という点は、外来導入時の服薬指導(初回〜数日)でのフォロー設計に直結します。
用量差については、同報告の結論として「10mgでやや高い(slightly higher)」という位置づけで、明確な“用量依存で頻発”とまでは言いにくいトーンです。
臨床現場では、悪夢の苦痛が強い・患者が服薬継続を拒む・日中不安が増悪する、といった場合に、まずは10mg→5mgへの減量や投与中止・他剤検討を現実的な選択肢として提示できるよう、事前に説明しておくとトラブルが減ります。
悪夢を訴えたときの初動は、「危険サインの除外」と「薬剤性の可能性評価」を同時に走らせるのが安全です。
特に“悪夢そのもの”よりも、悪夢をきっかけに睡眠回避が起きて不眠が悪化する、夜間せん妄様になる、抑うつや希死念慮が増す、といった二次的問題が臨床上のリスクになります(外来でも入院でも同様です)。
実務的に使いやすいチェック項目を、入れ子にせずに並べます。
対処の選択肢は、患者の訴えの強さと治療目的(不眠の主訴が入眠か中途覚醒か)で分岐します。
一般的な流れは「①環境・生活で悪夢を増幅していないか整える → ②用量とタイミングを見直す → ③薬剤変更を含め再設計」です。
具体的な“患者に渡せる説明”としては、次が実装しやすいです。
そして医療者側のポイントは、「悪夢が出た=本人が“薬が合わない”と確信してしまう」前に、選択肢(減量・休薬・変更)があることを見通しとして示すことです。
この見通しがあると、患者は自己中断やネット情報による過度な恐怖に走りにくくなります。
検索上位の記事は「レム睡眠が増えるから」「夢が鮮明になるから」という説明に寄りがちですが、現場では“薬とは別の因子”が悪夢を長引かせることが少なくありません。
ここを押さえると、医療従事者向け記事として独自性が出ます。
落とし穴の例を、臨床の解像度で挙げます。
この視点を持つと、処方調整だけでなく「患者行動の調整」で改善するケースを拾えます。
つまり、“薬を変える前に勝てる領域”がある、というのが医療者にとっての実益です。
参考:悪夢・異常夢の発現率や開始早期発現、用量別内訳など(臨床試験データ)
https://academic.oup.com/sleepadvances/article/2/Supplement_1/A52/6383375