ドライアイ治療と眼科での最新診断・薬選択の全知識

ドライアイ治療は「涙を補う」だけでは不十分な時代に突入しています。眼科での正確な診断基準から、TFOT・IPL・2025年承認の新薬アバレプトまで、医療従事者が知るべき最新知識を網羅。あなたの職場での患者対応は本当に最新エビデンスに追いついていますか?

ドライアイ治療を眼科で正しく進めるための最新ガイド

ドライアイ患者の8割は、涙の量ではなく「質」に問題がある。


この記事の3つのポイント
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ドライアイの分類と診断基準を整理

蒸発亢進型が全体の約8割を占め、BUT5秒以下+自覚症状があれば確定診断となる2016年改訂基準を押さえておくことが、適切な治療選択の第一歩です。

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TFOT理論と点眼薬の使い分け

「どの涙液層が崩れているか」を見極めるTFOT(涙液層指向型治療)に基づき、ヒアレイン・ジクアス・ムコスタ・ステロイドを適切に組み合わせる最新の処方戦略を解説します。

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IPL・涙点プラグ・新薬アバレプトの最前線

2025年12月に世界初のTRPV1拮抗薬アバレプトが承認。IPL治療・涙点プラグと並ぶ3大選択肢の適応基準と臨床での活用ポイントを医療従事者向けに詳説します。


ドライアイ治療の前提:2200万人患者と「完治しない」という現実


日本のドライアイ患者数は現在、推計2,200万人に上るとされており、これは国民の約6人に1人に相当する規模です。東京ドームの収容人数が約5万5千人なので、単純換算で約400個分の東京ドームを満員にしても足りない数字です。これほどの「国民病」でありながら、医療の現場では「ちょっと目が乾くだけ」と患者自身が過小評価しているケースが後を絶ちません。


慢性疾患であるということが基本です。日本眼科医会も「治療を続ける必要がなくなる『完治』が得られる病気ではない」と明言しており、点眼等の継続治療によってQOLを維持することが治療目標となります。医療従事者がこの点を患者に正確に伝えられているかどうかが、治療アドヒアランスに直接影響します。


オフィスワーカーを対象とした研究では、全体の60%以上がドライアイもしくはその疑いがあるという結果が出ています。医療現場でも例外ではなく、電子カルテの普及でモニター注視時間が増えた医師・看護師・薬剤師においても、職業性ドライアイのリスクは高まっています。患者に説明する前に、まず自分自身の目の状態も振り返る必要があるかもしれません。


長時間のモニター作業では瞬目(まばたき)回数が通常の毎分15回前後から5回前後まで減少することが知られており、これだけで涙液層の安定性が急激に低下します。ドライアイは「病気というより体質」という誤解を解くことが、眼科受診促進の第一歩です。




参考:ドライアイの有病率・患者数に関する最新情報(日本眼科医会)
ドライアイに悩む方へ—生活の注意と治療の目安|公益社団法人 日本眼科医会


ドライアイ治療の眼科的診断基準:BUTとシルマー試験の使い分け

2016年に改訂された日本のドライアイ診断基準では、①自覚症状の存在、②涙液層不安定化(BUT 5秒以下)の2点を満たした場合に「ドライアイ確定」と判定されます。これが非常に重要なポイントで、シルマーテスト(5分間で5mm以下が異常)は正常であっても、BUTが5秒未満であれば確定診断となる点が旧基準から大きく変わりました。


つまりこういうことですね。「涙の量が十分でも、ドライアイである」という状況が起こり得ます。


シルマーテストは涙液分泌量の絶対値を測る検査で、分泌減少型のドライアイ(シェーグレン症候群等)の評価や鑑別診断に有用です。一方、BUTはフルオレセイン染色下で裂隙灯顕微鏡を用い、瞬目後から涙液層が最初に破壊されるまでの時間を計測します。これが5秒以下の場合、涙液層の安定性が著しく低下していると判断されます。


蒸発亢進型と涙液減少型のどちらが多いかは临床上重要な問題です。最近の研究では「涙液減少型によるものは約2割で、残り約8割は涙の量が減っていない蒸発亢進型」という報告が複数あります。すなわち、大多数のドライアイ患者では、涙そのものが足りないのではなく、マイボーム腺機能不全(MGD)などによって「涙がすぐ蒸発してしまう」ことが主因です。


診断時にはフルオレセイン染色によるBUT測定に加えて、ローズベンガル染色やリサミングリーン染色で角結膜上皮障害の有無と程度を評価することが推奨されています。これらを組み合わせることで、どのタイプのドライアイかを判別し、次の治療ステップへつなぐことができます。




参考:2016年改訂版ドライアイ診断基準の詳細と解説
ドライアイの定義と診断基準|NPO法人ドライアイ研究会


眼科でのドライアイ治療:TFOT理論と点眼薬の使い分け

現在の日本のドライアイ治療において主流となっているのは、TFOT(Tear Film Oriented Therapy:涙液層指向型治療)という考え方です。TFOTとは一言でいうと「涙液層の3つの層(油層・水層・ムチン層)のどこが崩れているかを診断し、その部位を標的に治療する」という戦略です。これにより、従来の「とりあえずヒアルロン酸で水分補充」というアプローチから、より精緻な治療選択が可能になりました。


点眼薬の選択は原因に合わせることが原則です。涙液の量が絶対的に不足している場合はヒアレイン(ヒアルロン酸ナトリウム)や人工涙液が第一選択となります。しかし、注意が必要な点があります。ヒアレイン0.3%は処方せん医薬品ですが、2024年からヒアレイン0.1%の市販版がドラッグストアでも購入可能になったため、「眼科でドライアイと診断された患者がOTC版を誤使用する」リスクが生じています。眼科での診断を受けた患者には、OTC版の使用には注意が必要であることを明確に伝える必要があります。


ジクアホソルナトリウム(ジクアス点眼液3%・ジクアスLX点眼液3%)は、世界初のP2Y2受容体作動点眼薬です。目の表面の細胞に直接働きかけ、自発的に水分とムチンの分泌を促すため、「外から補う」のではなく「自分で作らせる」という新しいアプローチです。ヒアルロン酸との併用で相乗効果が報告されており、半年程度の継続使用で効果が安定してくることが多いです。


レバミピドムコスタ点眼液UD2%)は、もともと胃潰瘍治療薬として知られる成分ですが、点眼薬ではムチン産生促進と杯細胞増加という独自の作用を持ちます。これは意外ですね。ジクアスが「涙の量・水分成分の増加」に強みを持つのに対し、ムコスタは「ムチン層の質的改善」に特化しており、両薬の作用機序が異なるため、重症例では2剤を併用することで相補的な効果が得られます。


炎症が強いケースでは、フルオロメトロン(フルメトロン)などの低濃度ステロイド点眼を短期間使用して「悪循環サイクル」を断ち切るアプローチが有効です。ただし長期使用は眼圧上昇(ステロイド緑内障)のリスクがあるため、使用期間中は定期的な眼圧チェックが必須です。




参考:ドライアイ診療ガイドライン(TFOT・重症度別治療指針)
ドライアイ診療ガイドライン(2019年)|公益社団法人 日本眼科学会


ドライアイ治療の眼科的選択肢:IPL・涙点プラグの適応と実際

点眼薬だけでは改善しない症例に対して、眼科では複数の手技的治療が選択されます。その代表が涙点プラグとIPL(Intense Pulsed Light)治療です。


涙点プラグは、涙の排出口である涙点(上下まぶたそれぞれに1か所ずつ、計4か所)にシリコン製またはコラーゲン製の微小なプラグを挿入し、涙が鼻涙管へ流出するのを抑制して目の表面に涙を貯留させる治療法です。日本眼科学会のガイドラインでは、従来の点眼治療(人工涙液・ヒアルロン酸)と比較して自覚症状・涙液安定性・上皮障害を有意に改善するとして「実施する」ことを推奨しています。保険適用(3割負担で4涙点挿入時は約12,500円)で外来処置として実施可能で、コラーゲン製は2〜3か月で自然吸収されるため可逆的な試行にも適しています。


一方、IPL治療は蒸発亢進型ドライアイ、特にMGD(マイボーム腺機能不全)が主因の症例に有効な最新治療です。500〜1,200nmの特殊な光を下眼瞼・鼻翼周囲に照射することで、マイボーム腺周囲の異常血管を凝固し、腺の詰まりを解消、炎症を抑制し、涙液油層を正常化します。FDA(米国食品医薬品局)および一部の国内承認も得た機器(Lumenis M22等)による施術は安全性が確立されています。


IPL治療は根治的なアプローチになり得ます。3〜4週間おきに4回の治療が推奨されており、点眼治療のように毎日継続する必要がないため、アドヒアランスが維持しやすいのも特徴です。ただし保険適用外(自由診療)となるため費用は施設によって異なり、通常1回あたり2〜5万円程度かかります。医療費控除の対象にはなるため、患者への情報提供時に触れておくとよいでしょう。


🔵 涙点プラグとIPL治療の比較


| 項目 | 涙点プラグ | IPL治療 |
|---|---|---|
| 対象 | 涙液減少型ドライアイ | 蒸発亢進型・MGD |
| 保険 | 保険適用あり(約12,500円/3割) | 保険適用なし(自由診療) |
| 持続効果 | シリコン:長期継続、コラーゲン:2〜3か月 | 4回コース後は数か月〜数年 |
| 侵襲性 | 外来処置、ほぼ無痛 | 外来処置、日焼け後様の軽い発赤 |


MGDに特有のアイケアとして、温罨法(ホットアイマスク:40〜42℃で10分間)とリッドハイジーン(まぶた清拭)の組み合わせがセルフケアの基本です。これにより固化したマイボーム腺分泌物を軟化・排出させ、油層の質を改善させることができます。医療機関での指導として、患者への具体的な手技説明を行うことが重要です。




参考:IPL治療とMGDの詳細(MGDガイドライン)
マイボーム腺機能不全診療ガイドライン(2023年)|公益社団法人 日本眼科学会


2025年承認の新薬アバレプト(TRPV1拮抗薬)がドライアイ治療を変える

2025年12月22日、千寿製薬と持田製薬が共同開発したドライアイ治療薬・モツギバトレプ(商品名:アバレプト懸濁性点眼液0.3%)が厚生労働省の製造販売承認を取得しました。これは世界初のTRPV1(Transient Receptor Potential Vanilloid 1)拮抗薬によるドライアイ治療薬であり、従来薬とは根本的に異なるアプローチを持ちます。


TRPV1は辛味成分カプサイシンや熱に反応する侵害受容体として知られており、角膜上皮細胞・三叉神経節細胞・T細胞にも発現しています。ドライアイ状態ではこのTRPV1が過剰活性化し、「ゴロゴロ感」「ヒリヒリ感」「異物感」などの自覚症状を引き起こします。アバレプトはこのTRPV1を選択的に阻害することで、「涙の量・質を変える」のではなく「症状を感じるセンサー自体を抑制する」という画期的なメカニズムで働きます。


これは使えそうです。既存のジクアス・ムコスタ・ヒアレインでは改善しきれなかった「痛み・不快感が残る難治性ドライアイ」の患者に対し、アバレプトの追加または切り替えという新たな選択肢が生まれます。用法・用量は1回1滴・1日4回点眼で、既存の点眼薬との併用も可能です(点眼間隔は5分以上)。


注意すべき点として、眼部冷感(1〜5%未満)・霧視・眼部刺激感などの副作用が報告されています。眼部冷感はTRPV1が熱センサーでもあるため、これを遮断することで生じる避けがたい副作用ですが、臨床試験では重篤な副作用は認められていません。また懸濁性点眼液のため、使用前に十分に振盪する必要があります。


2026年3月現在、薬価収載・市場発売に向けて準備が進んでいます。処方を開始する前に、添付文書の確認と患者への丁寧な説明(副作用・使い方・既存薬との関係)を行うことが求められます。




参考:アバレプト承認情報と作用機序の詳細
ドライアイの自覚症状を改善する新機序の点眼薬|日経メディカル(2026年1月)


医療従事者が実践すべきドライアイ治療の患者指導ポイント

医療現場でドライアイ患者を支援する際に、最も重要なのは「患者が自分のタイプを理解した上でセルフケアを継続できるようにすること」です。ドライアイは慢性疾患であり、患者自身による日常管理が治療成果を大きく左右します。


点眼薬の使い方に関しては、複数薬を処方されている患者の多くが順番や間隔を守れていません。基本ルールは以下の通りです。


  • 📋 点眼間隔は5分以上:直前に点眼した薬が洗い流される前に次を点せば、効果が半減します。
  • 📋 懸濁液(ムコスタ・アバレプト)は最後に点眼:懸濁液は均一に広がるのに時間がかかるため、後回しにするのが基本です。
  • 📋 防腐剤(BAK)含有薬の過剰使用に注意:市販の目薬を含めて1日6回超の使用は角膜上皮障害を引き起こすリスクがあります。
  • 📋 コンタクトレンズ着用中は点眼タイミングに注意:防腐剤入りの点眼はコンタクトを外した後に使用するのが原則です。


生活環境の整備も治療と並行して行う必要があります。加湿器の使用(室内湿度50〜60%の維持)、PC・スマートフォン使用時の20-20-20ルール(20分作業したら20フィート=約6m先を20秒眺める)、長時間のモニター作業中に意識的に瞬目回数を増やすよう指導することが有効です。


患者に「完治しない病気」と伝える際は、ネガティブな表現を避け、「上手に管理すれば快適な生活が送れる病気」という言い方に変えることをお勧めします。ドライアイ患者の約49%に何らかの全身疾患(うつ病・不眠症との合併など)が見られるという研究報告もあり、眼症状だけでなく全身状態を含めた包括的な支援が求められます。


治療アドヒアランスの向上には、患者が「なぜこの点眼薬を使うのか」を理解していることが不可欠です。「あなたは涙の油が少ない蒸発型なので、まずはMGDのケアと油層を安定させる治療から始めます」という具体的な説明が、患者の納得感と継続意欲を高めます。




参考:ドライアイ患者の全身疾患との関連調査データ




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