骨密度測定をYAM80%未満で全員に治療介入しているなら、骨折リスクを見落としている可能性があります。
DXA(Dual-energy X-ray Absorptiometry)法は、エネルギーの異なる2種類のX線ビームを照射し、骨と軟部組織による吸収差から骨塩量(BMC:g)と骨密度(BMD:g/cm²)を算出する方法です。被曝線量は胸部X線の約1/10以下(1~5μSv程度)と非常に低く、短時間で測定できるため、外来での繰り返し測定にも適しています。
測定部位の標準は腰椎(L1〜L4)と大腿骨近位部(頸部・全体)です。日本骨粗鬆症学会のガイドラインでは、この2部位のいずれかで診断することが推奨されています。
部位ごとに特性が異なる点は重要です。
| 測定部位 | 特徴 | 注意点 |
|---|---|---|
| 腰椎(L1〜L4) | 骨梁骨が多く変化を捉えやすい。治療効果の評価に適する | 骨棘・椎体骨折・大動脈石灰化で過大評価されやすい |
| 大腿骨頸部 | 海綿骨と皮質骨の混在。骨折リスク予測に優れる | 体位・回転角度のズレで±5%程度の誤差が生じる |
| 前腕骨(橈骨遠位1/3) | 皮質骨が主。副甲状腺機能亢進症の評価に有用 | 利き手でない側を測定することが原則 |
つまり、部位選択が診断精度を左右します。
高齢者では腰椎に変形性変化が重なりやすく、腰椎BMDが実際より高く算出される「偽高値」が問題になります。75歳以上の患者では大腿骨頸部の値を優先して参照することが、多くの施設で推奨されています。
DXA法の測定結果は主にYAM(Young Adult Mean:若年成人平均値)とTスコアで表示されます。日本では主にYAMを使用し、国際的にはTスコアが標準です。これは同じ概念を別の表現で示したものです。
日本骨粗鬆症学会の診断基準(2011年改訂)では以下のように定められています。
YAM80%という数字は一見わかりやすいですが、注意が必要です。
たとえば、YAMが82%でも既存の脆弱性骨折(軽微な外力による骨折)があれば、骨粗鬆症と診断されます。また、YAM75%程度でも骨代謝マーカーが高値で骨折リスクが高い患者と、骨代謝マーカーが安定していて骨折リスクが低い患者を同列に扱うことは臨床上望ましくありません。骨密度の数値だけで治療方針を決定しないことが原則です。
Tスコアの解釈でもう一点注意すべきは、Zスコアとの混同です。ZスコアはTスコアと異なり、同年代・同性別の平均値との比較です。若年者や続発性骨粗鬆症が疑われる患者ではZスコアも参照することで、年齢を超えた骨密度低下の有無を評価できます。
DXA法は精度が高い検査ですが、臨床現場では様々な要因で測定誤差が生じます。これは見落とされがちです。
代表的な誤差要因を整理します。
「前回と数値が改善した」という結果を安易に信頼しないことが条件です。
測定精度管理のために、各施設でのCV(変動係数)の把握と、ファントムを用いた定期的なQC(品質管理)が必要です。CVが1.5%以下であれば、臨床的に意味のある変化(LSC:最小有意変化)は腰椎で約4%、大腿骨全体で約5%程度となります。
骨粗鬆症性骨折の約半数は、DXAで「骨量減少」または「正常」と診断された患者に発生するというデータがあります。意外ですね。
これは骨折リスクが「骨密度」だけでなく「骨質」と「転倒リスク」によっても規定されるためです。骨質とは、骨の微細構造・コラーゲン架橋・骨代謝回転などを指し、DXAでは評価できません。
そこで活用されるのがFRAX®(骨折リスク評価ツール)です。
FRAX®はWHOが開発した骨折リスク計算ツールで、大腿骨頸部BMDに加え以下の臨床リスク因子を組み合わせて10年以内の骨折確率を算出します。
日本骨粗鬆症学会の2015年版ガイドラインでは、大腿骨近位部骨折の10年確率が15%以上、または主要骨粗鬆症性骨折が25%以上の場合を薬物療法の介入基準の目安の一つとしています。
FRAX®と骨代謝マーカーの組み合わせが実践的です。
骨代謝マーカー(NTX・CTX:骨吸収マーカー、P1NP:骨形成マーカー)を組み合わせることで、骨密度が同程度でも骨代謝回転が亢進している患者を特定し、より積極的な介入の優先順位付けが可能になります。
参考:日本骨粗鬆症学会 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版(骨粗鬆症学会公式サイト)
日本骨粗鬆症学会「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」(PDF):FRAX®活用基準・診断フローの詳細を確認できます
治療効果をDXAで評価する場合、測定間隔の設定が重要です。短すぎる間隔では「LSC(最小有意変化)」を超えた変化が検出できず、誤った評価につながります。
推奨される再測定間隔の目安は以下の通りです。
1年以内の再測定では変化が測定誤差の範囲内に収まることが多いです。
ビスホスホネートを長期使用(5〜10年以上)している患者では、「非定型大腿骨骨折(AFF)」のリスク評価も必要です。このリスクは累積使用期間とともに上昇し、10年以上の使用で100,000人年あたり約100件以上とされています。大腿骨の単純X線での皮質肥厚・ビーキング所見確認と、疼痛の問診を定期的に行うことが推奨されます。これは知っておくべき知識です。
治療薬の効果を骨密度で判断するだけでなく、骨代謝マーカーによる早期評価も並行して行うと、治療開始3〜6ヶ月時点で治療反応性をある程度予測できます。たとえばビスホスホネート投与後にCTX(骨吸収マーカー)が基準値上限を下回るレベルまで低下しているか確認することが、治療反応の早期指標として有用です。
参考:国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター「骨粗鬆症・骨折予防の実践的情報」