ビスホスホネートだけ処方しても、重症GIOPでは骨折リスクが6倍になります。
グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症(Glucocorticoid-Induced Osteoporosis:GIOP)は、副腎皮質ステロイドの長期使用によって生じる二次性骨粗鬆症の中でも、最も頻度の高い薬剤誘発性骨粗鬆症です。長期ステロイド治療を受けている患者の約30〜50%に脆弱性骨折が生じるとの報告があり、その重大性は以前から認識されていました。
2023年8月、日本骨代謝学会から「グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン2023」が発刊されました。2014年版から実に9年ぶりの改訂です。旧称「ステロイド性骨粗鬆症」から「グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症(GIOP)」へと名称が変更されたことも特徴的です。これは、「ステロイド性」という表現にエストロゲン由来の病態も含まれてしまうという曖昧さを解消し、合成グルココルチコイド服用によって引き起こされる骨粗鬆症であることを明確にするためです。
GIOPの病態は多因子的です。ステロイドの直接作用として骨芽細胞・骨細胞のアポトーシス誘導や骨形成抑制・骨吸収の亢進があります。間接作用としては、性腺機能低下(性ホルモン低下)、成長ホルモン軸抑制、腸管カルシウム吸収低下と尿中カルシウム排泄増加による負のカルシウムバランス、ステロイド筋障害・白内障による転倒リスク増大などが骨折リスクに寄与します。ステロイド開始後1年以内に腰椎骨密度が6〜12%低下するとの報告もあり、急速な骨量減少が臨床上の大きな課題です。
ガイドライン2023が重要な理由はもう一つあります。椎体骨折だけでなく「胸椎」への影響が高頻度であることが明記された点です。ガイドライン委員長の田中良哉氏(産業医科大学)は「原疾患の治療でレントゲン撮影をする際に、ぜひ骨にも目を向けてほしい」と強調しています。GIOPは腰椎と同時に胸椎にも影響しやすく、見逃されやすいという実態があります。
ケアネット:ステロイド処方医は知っておきたい、グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン2023(ガイドライン委員長・田中良哉氏へのインタビュー記事)
GIOPの治療介入はスコアリングで判断します。これが基本です。
ガイドライン2023では、18歳以上のステロイド内服患者を対象に、以下の4要素を点数化してリスクを評価します。
| リスク因子 | 内容 | 点数 |
|---|---|---|
| 既存骨折 | 脆弱性骨折あり | 7点 |
| 年齢 | 65歳以上 | 4点 |
| 50〜64歳 | 2点 | |
| ステロイド投与量 (プレドニゾロン換算) |
7.5mg/日以上 | 4点 |
| 5〜7.5mg/日未満 | 1点 | |
| 腰椎骨密度(%YAM) | 70%未満 | 4点 |
| 70〜80%未満 | 2点 |
合計スコアが3点以上で薬物療法の開始が推奨されます。
例えば、「65歳・プレドニゾロン5mg/日・骨密度%YAM 75%」の患者ではスコアが4+1+2=7点となり、迷わず治療対象です。一方で「45歳・プレドニゾロン5mg/日・骨密度正常・骨折なし」ではスコアが1点にとどまり、生活習慣改善と経過観察が選択されます。
重要な見直しポイントは、ガイドライン開始時から胸腰椎X線検査が必須とされたことです。ステロイドを開始する際には骨密度検査に加えて、胸腰椎X線検査も忘れてはいけません。GCによる脆弱性骨折は椎体が最も好発部位であるため、初期評価として必須の検査とされています。その後も6ヶ月〜1年に1回の骨密度測定(DEXA)と胸腰椎X線の定期フォローが推奨されています。
知られていない深刻な問題があります。調査によると、本ガイドラインを準拠している内科医は10%にも満たないとされています。ステロイドを処方している診療科は膠原病内科だけでなく、腎臓内科・呼吸器内科・消化器内科・皮膚科・眼科など多岐にわたります。骨粗鬆症が専門外の医師が多いことから、適切なスコアリングと治療介入が行われていないケースが相当数存在するのが現状です。
また、「プレドニゾロン5mg/日なら安全」という認識も誤りです。人体内では内在性コルチゾールが1日2.0〜2.5mg相当分泌されており、GCの投与は1mgでも過剰投与となります。安全域は存在しないという認識が、臨床の現場ではまだ十分に浸透していないことが問題視されています。
Minds(医療情報サービス):「グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症」診療ガイドライン公開ページ(公式ガイドライン掲載情報)
2014年版と2023年版の最大の違いは「第一選択薬の明記がなくなった」ことです。意外ですね。
旧版ではアレンドロネートとリセドロネートが第一選択薬として明示されていましたが、2023年版では以下の5剤が同列で推奨されるようになりました。これは「各薬剤を直接比較した試験が存在しなかった」ことが理由です。
薬剤選択の実際的な考え方として、「まず経口ビスホスホネートから開始し、消化管障害・服薬困難であれば静注製剤(ゾレドロン酸・イバンドロネート)へ変更」という流れが現実的です。つまり消化管問題が条件です。
腎機能低下例(eGFR 35mL/min未満)ではビスホスホネートが禁忌となるため、デノスマブや活性型ビタミンD療法が選ばれます。また重症例・既存骨折例では最初からテリパラチドやデノスマブへの積極的な選択が推奨されています。これは使えそうな知識です。
なお、ロモソズマブ(抗スクレロスチン抗体)はガイドライン2023では「Future Question」に位置付けられており、現時点ではエビデンス不足で推奨が付いていません。将来のエビデンス蓄積に期待するという段階です。
腎臓内科専攻医ブログ(おちば先生):ガイドライン2023の薬剤別エビデンス・推奨度一覧まとめ(各製剤の推奨度と特徴を分かりやすく整理した実践的解説)
薬物療法の前に、非薬物療法の徹底が基盤です。
すべてのGIOPリスク患者に対して、薬物療法と並行して非薬物的介入を継続することが推奨されています。主な内容は以下のとおりです。
活性型ビタミンD製剤については、2023年版でエルデカルシトールがアルファカルシドールより骨密度増加効果が優れているとのRCTエビデンスが示されました。これは意外な変更点です。2014年版ではアルファカルシドールとカルシトリオールが同等(推奨度B)でエルデカルシトールが推奨度Cでしたが、新たなエビデンスにより順位が変わっています。カルシトリオールは天然型ビタミンD+カルシウム群との間に有意差を認めなかったとの報告もあり、三者の立ち位置が見直されています。
実際の処方では、活性型ビタミンD製剤単剤での骨折予防効果は限定的であるため、骨折リスクが中等度以上の場合はビスホスホネートなどの骨吸収抑制薬と組み合わせることが多くなります。骨密度増加効果はサロゲートマーカー、椎体・非椎体骨折予防効果はハードエンドポイントとして区別し、エビデンスの質を意識して薬剤選択を行うことが求められます。
GIOP対策が進まない背景には、医師側の認識のずれがあります。
ガイドライン委員長の田中良哉氏は、GIOPの管理が遅れている理由として「5つの誤解」を明示しています。専門外の医師がステロイドを処方する場面で特に注意すべき内容です。
特に重要なのが誤解④です。「骨折しても死なない」という感覚は誤りです。大腿骨近位部骨折後1年以内の死亡率は約20〜30%ともいわれ、骨折は直接的に生命予後に関わります。「ボーンアタック(骨折による連鎖的健康障害)」という概念でも語られるように、骨粗鬆症はサイレントに進行して突然重大な骨折を引き起こす疾患です。厳しいところですね。
GC 3ヵ月継続処方患者はDPCデータから約100〜150万人と推定されており、その多くが骨粗鬆症管理を受けていない可能性があります。骨粗鬆症専門外の医師が処方するケースも多く、ガイドライン準拠率が10%未満という現状は深刻な医療品質の課題といえます。
ステロイドを3ヵ月以上継続処方する場合には、処方科に関わらずスコアリングを行い、GIOPの予防・管理を開始することが強く求められています。スコアリングツールはシンプルで、診察室でも実施できる内容です。ガイドライン2023のフローチャートを診察室に掲示するなど、忘れない工夫が実践的な対策になります。
日本骨代謝学会(JSBMR)公式:ガイドライン一覧ページ(2014年版PDFも無料公開。スコアリングの考え方の参照に有用)