フェルデンクライス身体訓練法の効果と実践法

フェルデンクライス身体訓練法は神経系を活性化し、動きの質を向上させる身体教育法です。医療従事者が臨床で活用する際のポイントとは何でしょうか?

フェルデンクライス身体訓練法の基礎

フェルデンクライス身体訓練法の3つの特徴
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神経可塑性を活用

脳の運動学習機能に直接働きかけ、新たな神経回路を形成する身体教育法

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最小限の努力で効果

筋力強化ではなく、ゆっくりとした小さな動きで身体の気づきを促進

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治療ではなく学習

問題を修正するのではなく、より効率的な動きのパターンを学ぶプロセス

フェルデンクライス身体訓練法の歴史と創始者

 

 

 

フェルデンクライス身体訓練法は、イスラエルの物理学者モーシェ・フェルデンクライス博士(1904-1984)によって1940年代に開発された身体教育法です。モーシェはウクライナ出身のユダヤ人で、パリのソルボンヌ大学で物理学の博士号を取得し、ノーベル物理学者ジュリオ・キュリーの共同研究者として活躍していました。

 

参考)フェルデンクライスの誕生と歴史

彼は若い頃から柔術や柔道を学び、1936年にはヨーロッパ人として初めて柔道の黒帯を取得しました。第2次世界大戦中に潜水艦の上で転んでひざに重傷を負い、医師からは手術しても歩ける可能性は50%という診断を受けました。しかし、彼は手術を拒否し、神経学、解剖学、生体力学などを猛勉強し、脳と神経の学習システムを利用して自力で歩くことを再教育することに成功しました。

 

参考)What is the Feldenkrais Method…

この経験から、モーシェは脳の運動学習中枢にアクセスする数百種類の動きのレッスンを開発し、フェルデンクライスメソッドとして体系化しました。現在では欧米を中心に世界中で実践され、医療関係者、理学療法士、作業療法士などがリハビリテーション分野で応用しています。

 

参考)フェルデンクライス・メソッド® - thera-move ペ…

フェルデンクライス身体訓練法における神経可塑性の原理

フェルデンクライス身体訓練法は、脳の神経可塑性を基盤とした画期的なアプローチです。神経可塑性とは、脳が新たな神経回路を形成し、環境や経験に応じて変化する能力のことを指します。モーシェ・フェルデンクライス博士は、1940年代にすでに「心地よい体の動きが脳を刺激し活性化させる」ことを発見しており、世界で最初の神経可塑性療法家とも言われています。

 

参考)https://www.mdpi.com/2076-3425/11/12/1599/pdf

このメソッドの核心的な原理は以下の通りです。

 

参考)「神経可塑性(シナプス可塑性)」|カウンセリングしらいし

神経可塑性に基づく主要原理

  • 脳は新たな神経回路を形成できる
  • 脳は運動機能なくして思考できない
  • 気づきは運動を改善する鍵になる
  • 差異化は脳マップを形成する
  • 差異化は刺激が小さいほど容易にされる
  • ゆっくりとした動きは気づきの鍵になる
  • 出来るだけ無理な努力を減らす

フェルデンクライス身体訓練法では、ゆっくりとした簡単な動きで脳の運動中枢を刺激し、脳と筋肉の間の新たな情報の流れを築き上げます。これにより、従来の筋力強化や関節の可動域改善に偏重したアプローチとは異なり、神経系に直接働きかけることで身体機能の向上を目指します。

 

参考)フェルデンクライスとは

欧米の理学療法士や作業療法士は、この神経可塑性を活用したアプローチをリハビリテーション分野で積極的に導入し、様々な実績を残しています。

 

参考)継続するフェルデンクライスの会 for セラピスト|PT-O…

フェルデンクライス身体訓練法の2つのレッスン形式

フェルデンクライス身体訓練法には、クライアントのニーズに合わせた2つの異なるレッスン形式があります。どちらの方法も神経可塑性をベースに、より有効性の高い知的な行動に向かって自己を再組織化するプロセスを助けるためのものです。

 

参考)レッスンプログラム

ATM(Awareness Through Movement):動きを通しての気づき
ATMはグループレッスンの形式で、プラクティショナーは主に言葉のみで生徒の動きと気づきをガイドします。動きを示す手本はなく、生徒は指導者の言葉を聞いて自分で動きます。1回のレッスン時間は30~40分から60~90分程度です。プラクティショナーは「背骨と頭の動きに注意を払う」「動きと呼吸のつながりに気付くようになるまで続ける」といった指示を出し、クライアント自身が自分の身体の動きに意識を集中します。

 

参考)自分の身体の動きに気付いていますか?〜フェルデンクライス身体…

FI(Functional Integration):機能の統合
FIは個人レッスンの形式で、プラクティショナーによるマンツーマンのレッスンです。多くの場合、生徒は横たわった状態で、プラクティショナーが直接体に触れて動きを導いていきます。基本的に言葉は使わず、ソフトタッチで他動的に頭部・体幹・四肢を動かしながら動きによる身体感覚の変化を気づかせます。1回のレッスンの時間は通常45~50分です。

 

参考)脳卒中片麻痺患者に対してフェルデンクライス・メソッドを用いた…

両方のレッスンに共通するのは、「正しい動き」や「上手な動き」を求めるのではなく、自分にとって「快適な動き」を探すプロセスに意味があるという点です。激しい動きや無理にストレッチするような動きはなく、最小限の力で効率的に動く方法を学びます。

 

参考)フェルデンクライスの考え方とメソッド

フェルデンクライス身体訓練法の医療従事者向け臨床応用

フェルデンクライス身体訓練法は、医療従事者の間で患者と施術者ともに実践されており、特に理学療法士、作業療法士、看護師などによって臨床応用されています。ただし、このメソッドは治療ではなく教育と位置づけられており、患者が自ら学ぶプロセスを重視します。

 

参考)https://osaka.jcho.go.jp/wp-content/uploads/2014/07/tuna120128.pdf

臨床での具体的な応用例としては、脳卒中片麻痺患者へのアプローチがあります。ソフトタッチで他動的に頭部・体幹・四肢を動かしながら、動きによる身体感覚の変化を気づかせるよう実施することで、患者の機能改善につながった報告があります。また、慢性的な痛みや違和感の改善にも効果が期待されています。不適切な運動プログラムや動きの癖によって引き起こされる痛みに対して、効率的な動きを獲得することで関節の負担が減り、筋肉の緊張が緩和されます。

 

参考)【体の痛みや不調を改善!】フェルデンクライスの特徴と具体的な…

さらに、乳幼児の発達支援においても活用されています。理学療法士の医学的知識と経験を組み合わせて、先天疾患や身体障がいをお持ちのお子さま、医療的ケアを要するお子さまにも安心してレッスンを提供できます。パフォーマーやアスリートのみならず、医療関係者が患者と施術者ともに実践することで、より効果的なリハビリテーションが可能となります。

 

参考)赤ちゃん発達サポート。特徴と手法|り:はーと(東京)

フェルデンクライス身体訓練法による身体の気づきと学習プロセス

フェルデンクライス身体訓練法の最も特徴的な点は、「自分の身体に気付く」ということを重要視することです。多くの運動や体操では動くことを目的としがちですが、このメソッドでは重力や身体の反射を用いて必要最小限の努力で生じる運動を行い、そのときに生じる感覚に気付くことが中心となります。

 

参考)フェルデンクライス埼玉 イケコからだスタジオ

具体的なワークの例として、立ったまま風にゆれる樹のように身体を軽く左右にゆらせ、背骨と頭の動きに注意を払います。10~15回くらい小さく静かな動きを繰り返して、動きと呼吸のつながりに気付くようになるまで続けます。このように非常にゆっくりとした、努力を要さない動きの中で身体の動きに意識を集中していきます。​
私たちの日常生活動作には人によって動きの癖があり、癖によってトラブルが起こる可能性もあります。フェルデンクライス身体訓練法では、「動いた結果どうだったか?」「左右の違いや楽な動きはあったか?」など自分の動きに注意を向けることで、脳の運動学習を利用して癖によるトラブルや身体の不調を改善する効果が期待できます。​
このレッスンの主な目的は、動きの機能がどのように組織化されるか学ぶことです。行動の最も基本的な要素である動きを詳細に経験することで、自分自身の全体に注意を向けられるようになり、無駄な力を使うことなく意図を行動に結びつける方法を学んでいきます。​
参考リンク:フェルデンクライス・ジャパンの公式サイトでは、メソッドの基礎知識と実践方法について詳細な情報が掲載されています。

 

https://j-felden.org/feldenkrais-method/

フェルデンクライス身体訓練法がもたらす具体的な効果

フェルデンクライス身体訓練法では、足、脚、股関節、骨盤、背骨、肋骨、胸骨、肩甲骨、肩、腕、目、口、舌、呼吸などの様々な各部分の動きや身体全体(骨格や筋肉)の動きの連携を詳細に体験することで、神経系を通して脳を活性化し動きの質を高めます。その結果、心と体の双方の無駄な緊張を開放し、持てる能力を充分に発揮できるようになります。​
個人差がありますが、レッスンによって以下のような効果が多数報告されています。​
心身の健康面での効果

  • リラックスすることで、ストレスや不安の軽減・解消による情緒面の安定
  • 肩こり、腰痛、頭痛の緩和
  • 関節の痛みの改善
  • 慢性的な痛みや違和感の緩和

身体機能面での効果

  • 姿勢の改善
  • スムーズな動きの習得
  • バランス能力の向上
  • 柔軟性の向上

認知・精神面での効果

  • 集中力の向上と持続
  • 精神の安定によるうつ予防
  • 自己イメージの変化

特に高齢者においては、バランス能力の改善や筋肉のリラックス効果が確認されており、加齢や病気の影響で心身に不調を抱える方に効果的とされています。また、音楽家、芸術家、トップアスリートなどがパフォーマンスの向上のために実践しており、有名な芸術大学のカリキュラムに組まれていることもあります。

 

参考)https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyg.2018.02023/pdf

参考リンク:フェルデンクライスメソッドの臨床効果に関する系統的レビューとメタアナリシスの研究論文では、様々な疾患や症状に対する効果が科学的に検証されています。

 

https://www.mdpi.com/1660-4601/19/21/13734

フェルデンクライス身体訓練法 : からだからこころをひらく