カスポファンギンは薬価がMCFGの約4倍なのに、MCFGより安全とは言い切れません。
カスポファンギン(CPFG・商品名カンサイダス)とミカファンギン(MCFG・商品名ファンガード)は、ともにエキノキャンディン系抗真菌薬です。 両薬ともβ-(1,3)-Dグルカン合成酵素を阻害することで、真菌細胞壁の主成分であるβ-グルカンの生合成を妨げます。 哺乳類細胞には細胞壁がないため、選択毒性が高く、腎毒性の強いアムホテリシンBと比べて安全性プロファイルが優れる点が大きな特徴です。jsmm+1
抗真菌スペクトラムは、両薬でほぼ同等です。 カンジダ属に対しては殺菌的に、アスペルギルス属に対しては静菌的に作用します。つまりアスペルギルス症の単剤治療には原則不向きで、ボリコナゾール(VRCZ)との併用を検討するのが基本です。kameda+1
一方、カバーできない真菌も両薬で共通しています。β-(1,6)-Dグルカンが主体のムーコル・フサリウム・トリコスポロン・クリプトコックス、また酵母相の二相性真菌に対しては効果が乏しいです。 つまり「エキノキャンディン系を使っていれば安心」は誤りです。
スペクトラムが被っているとはいえ、感受性検査上の注意点があります。CPFGは一部の菌株に対して感受性検査上で偽耐性を示してしまうことがあるという問題点が報告されています。 MCFGにはこの偽耐性の問題は少なく、感受性検査の信頼性という面ではMCFGが有利です。
中枢神経系・眼内への移行性は両薬ともに不良です。 眼内炎や真菌性髄膜炎が疑われる場面では、フルコナゾールやボリコナゾール、リポソーム化アムホテリシンBへの変更を検討する必要があります。これが基本です。
カスポファンギンは、ローディングドーズが必須です。 ローディングを行わないと、トラフ濃度が治療域に達するのが投与開始から3日目以降になってしまいます。 真菌血症の患者において治療開始が1〜2日遅延することは予後に直結するリスクであり、この差は臨床的に見逃せません。
参考)https://w.atwiki.jp/kusuri_siyouhou/pages/15.html
具体的な投与例は以下の通りです。
注意点として、CPFGはブドウ糖を含む希釈液中では不安定になります。 溶媒は生理食塩液または乳酸リンゲル液のみが推奨されており、5%ブドウ糖液との混合は避けなければなりません。これは実務上よく見落とされるポイントです。
一方ミカファンギンはローディング不要です。 成人への通常投与量は1日1回50〜150mgを60分以上かけて静注するシンプルな方法で、溶媒の種類の制限もCPFGほど厳格ではありません。 投与管理の煩雑さという点ではMCFGに軍配が上がります。kobe-kishida-clinic+1
肝障害時の減量ルールも両薬で異なります。 MCFGは肝障害での用量調整規定がないのに対し、CPFGは肝硬変Child-Pugh Bで50mg→35mgへの減量が求められます。ただし、ICU患者のように非肝硬変性低アルブミン血症によるChild-Pughスコア低下の場合に35mgへ減量すると、有効曝露量が不十分になる可能性が指摘されています。 腎障害では両薬とも用量調整の規定はありません。
薬物相互作用の数と深刻さが、CPFGとMCFGの最大の実務差の一つです。 MCFGはシロリムス(ラパマイシン)との相互作用が報告されている程度ですが、CPFGにはより多くの相互作用があります。
CPFGに特有の主な相互作用は以下です。wikipedia+1
CPFGはCYP450に直接は影響されにくいものの、肝取り込みトランスポーターOATP1B1の低親和性基質であり、OATP1B1阻害薬であるシクロスポリンやリファンピシンとの相互作用が問題になります。 相互作用のメカニズムを知っておくと、複雑な多剤投与患者での対応が迅速になります。
MCFGとワルファリンの併用時は、ワルファリンの抗凝固作用が増強する可能性があります。 PT-INRの定期的なモニタリングが必要です。また、免疫抑制剤(シクロスポリン、タクロリムス)との併用でも血中濃度上昇のリスクがあり、頻回なTDMが重要です。 相互作用への対応は必須です。
参考)ミカファンギンナトリウム(ファンガード) – 呼…
薬価の差は臨床選択に直結します。2024年現在、後発品(ジェネリック)が存在するMCFGに対し、CPFGには後発品がありません。 MCFGの先発品(ファンガード)と比較しても、CPFGは約4倍以上高額という状況です。
| CPFG(カンサイダス) | MCFG(ファンガード等) | |
|---|---|---|
| 薬価の目安 | 50mg:約16,000円、70mg:約23,000円 | 50mg:約1,500円、100mg:約3,000円、150mg:約4,500円 |
| 後発品の有無 | なし(2024年現在) | あり |
| ローディング | 初日70mg必須 | 不要 |
| 肝障害での減量 | Child-Pugh B:35mgに減量 | 規定なし |
| 腎障害での減量 | 不要 | 不要 |
| 主な薬物相互作用 | Tac濃度↓、CsAでCPFG↑、CYP誘導薬で70mg推奨 | シロリムス濃度↑、比較的少ない |
| 感受性検査上の偽耐性 | 一部の菌株で偽耐性あり | 少ない |
使い分けの原則として、「MCFGが使えない理由があればCPFGを選ぶ」という考え方がシンプルです。 MCFGが予防量(50mg)から治療量(100〜150mg)に増量する際、施設によっては保険上の手続きが煩雑になることがあり、この点はあらかじめ確認が必要です。
カンジダ血症に対するエビデンスでは、MCFG 100mgはCPFGとの比較でわずかに高い有効率(治療差4.1%)が報告されており、非劣性が確認されています。 現時点では「どちらでも同等」という整理が一般的ですが、薬価・管理のしやすさ・相互作用リスクを考慮するとMCFGを選ぶ理由が多いです。
エキノキャンディン系の弱点を知ることが、失敗しない抗真菌治療の前提です。両薬ともに眼内・中枢神経系への移行が不良であることは繰り返し強調すべき点です。 カンジダ血症の患者に対し、眼底検査を省略してエキノキャンディン系単剤で管理し続けた結果、眼内炎を見逃すケースは臨床上のリスクになります。
C. parapsilosisはエキノキャンディン系に対して感受性が他のカンジダ菌種より低い傾向があります。 C. albicansのMICがミカファンギン≦0.003μg/mLであるのに対し、C. parapsilosisのMIC90は2.0μg/mLと大幅に高くなります。 C. parapsilosisの血流感染が疑われる場面では、フルコナゾールへのスイッチも選択肢に入ります。
また、FKS遺伝子変異によるエキノキャンディン耐性菌の出現も無視できません。 特にC. glabrataでの耐性化が問題視されており、in vitroでの感受性試験でMCFGはCPFGよりMICが低い(より有効)とされる一方、in vivoでは両薬の差は有意ではないという報告もあります。 MCFGで効果不十分な場合に、薬物動態が若干異なるCPFGへのスイッチを検討することは合理的な戦略です。
ICUでの高度侵襲患者では、タンパク結合率の違いも見逃せないポイントです。CPFGのタンパク結合率が96〜97%であるのに対し、MCFGは99.8%と高い。 この差が遊離型薬物濃度で約10倍の差を生じさせることがあり、重症患者での血漿アルブミン低下時は特にMCFGの遊離濃度が変動しやすい点に注意が必要です。
エキノキャンディン系の治療中にブレークスルー真菌感染が生じた場合は、耐性カンジダ・トリコスポロン・クリプトコックスの可能性を考えます。 漫然と同系統薬を継続せず、血液培養結果や画像所見を再評価するのが原則です。
カスポファンギンの特徴と投与方法(med-journey.com)
カスポファンギンとミカファンギンの投与量・薬価・スペクトラム・相互作用の比較表を含む、臨床現場向けの詳細解説記事。
抗真菌薬overview(亀田総合病院感染症内科)
エキノキャンディン系を含む抗真菌薬全体のスペクトラムと位置付けをコンパクトに解説した権威ある参考ページ。

化学療法の領域 2012年6月号 問題となる食中毒のup-to-date 深在性真菌症の新規治療薬 ―カスポファンギン―