累積投与量が5gを超えると、腎機能が回復しない永続的な損傷になる可能性があります。
アムホテリシンB(AMPH-B)はポリエンマクロライド系の抗真菌性抗生物質です。 その作用の出発点は、真菌細胞膜の主要構成成分である「エルゴステロール」への強力な結合にあります。oogaki.or+1
ヒトの細胞膜にはエルゴステロールが存在せず、代わりにコレステロールが使われています。固体NMR解析によると、AMPH-BとエルゴステロールのAMB-Erg間の分子間距離は、AMPH-Bとコレステロールの距離よりも約10%近接しており、この親和性の差が選択毒性の基盤です。
つまり「真菌だけを狙い撃ちにする」が基本です。
エルゴステロールに結合したAMPH-B分子は複数が集まり、細胞膜上にイオンチャネル(小さな穴)を形成します。 この穴をカリウムイオンやナトリウムイオンが透過することで細胞のイオンバランスが崩れ、真菌を死滅させます。jst.go+1
イオンチャネルの構造は長年不明でしたが、大阪大学と岡山大学の共同研究(2022年、Science Advances誌掲載)により初めて明らかになりました。 50年来の難問が解かれたということです。
参考)抗生物質が効く仕組みを解明—アムホテリシンBが真菌細胞膜に形…
作用は静菌的ではなく殺菌的です。 カンジダ、アスペルギルス、クリプトコッカスなど幅広い病原真菌に対してこの殺菌作用を示します。
参考)アムホテリシンB リポソーム製剤 (Amphotericin…
アムホテリシンBのイオンチャネル形成機序に関する最新研究(大阪大学・岡山大学、Science Advances 2022)
岡山大学プレスリリース:アムホテリシンBが真菌細胞膜でイオンチャネルを形成する仕組みの解明
腎毒性はAMPH-B最大の臨床的問題です。これは意外ですね。
投与を受けたほぼすべての患者で、何らかの程度の腎機能異常が生じるとされています。 具体的には急性腎不全、尿細管性アシドーシス、腎石灰沈着、BUN上昇、クレアチニン上昇などが起こり得ます。japic+1
累積投与量が5gを超えると不可逆的な腎毒性が問題になります。 つまり「投与終了後も腎機能が元に戻らない」ケースが出てくるということです。
腎毒性の発現機序は遠位尿細管への直接障害です。 PMDAの承認情報でも「遠位尿細管障害による腎毒性であり、治療を受けた患者の多くに腎障害が見られ、この障害はしばしば不可逆的」と明記されています。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2006/P200600024/40009300_21800AMY10095_G100_2.pdf
腎毒性リスクを少しでも下げるために、投与前の補液とナトリウム補給が有効です。 投与前に生理食塩液による前処置を行うことで腎毒性の発現を低下させることがあるとされており、これは臨床上の重要な実践ポイントです。
参考)https://www.japic.or.jp/mail_s/pdf/23-02-1-03.pdf
定期的な腎機能モニタリング(尿検査、BUN、クレアチニン)が条件です。
腎毒性を増強する薬剤(利尿薬との併用など)は避けることが原則です。 ヒドロクロロチアジドなどのチアジド系利尿薬との併用は特に注意が必要で、腎障害を発現・悪化させるリスクがあります。kobe-kishida-clinic+1
アムホテリシンBの腎毒性・副作用に関する添付文書情報(日本薬局方)
JAPIC:アムホテリシンB 添付文書(腎毒性・相互作用の詳細記載)
腎毒性以外にも見落とせない副作用が複数あります。
点滴投与中に起こる「投与時関連反応」は頻度が高い副作用の一つです。 発熱・悪寒・悪心・嘔吐などが生じ、投与した患者の43.6%に発熱、54.4%に悪寒が起きたとするデータもあります。 患者さんへの事前説明と投与中の観察が必須です。
参考)https://www.jsmm.org/common/jjmm46-4_229.pdf
低カリウム血症も見逃しにくい副作用です。 イオンチャネルによってカリウムイオンが細胞外に流出する機序から説明でき、投与中は電解質の定期チェックが欠かせません。
参考)https://www.antibiotics.or.jp/wp-content/uploads/63-5_347-364.pdf
これは使えそうな知識です。
頭部放射線療法との併用は特に要注意です。 血液脳関門の変化によりAMPH-Bの神経毒性が発現するリスクがあるため、放射線治療歴のある患者では慎重な判断が求められます。
参考)アムビゾーム点滴静注用50mgの効能・副作用|ケアネット医療…
フルシトシンとの併用でも注意が必要です。 AMPH-Bがフルシトシンの細胞内取り込みを促進するとともに腎排泄を障害するため、フルシトシンの骨髄抑制毒性が増強されることがあります。
| 副作用 | 頻度の目安 | 対処の方向性 |
|---|---|---|
| 腎機能障害(BUN・Cr上昇) | ほぼすべての患者で何らかの異常 | 投与前補液・電解質補給、定期モニタリング |
| 発熱・悪寒(投与時反応) | 約43%に発熱、54%に悪寒 | リポソーム製剤への変更を検討 |
| 低カリウム血症 | 頻度高い | 電解質定期チェック |
| 神経毒性(頭部放射線併用時) | 頻度不明 | 放射線治療歴の確認 |
「抗真菌薬なのに腎毒性が出るのはなぜか」という疑問は、選択毒性が完全ではないことで説明できます。
AMPH-Bはエルゴステロールに高い親和性を示しますが、ヒト細胞膜のコレステロールとも反応します。 分子間距離の測定では、AMPH-BはエルゴステロールとのREDOR減衰が約40%であるのに対し、コレステロールでは約30%であり、差はあるものの完全な区別はできません。
選択毒性は完全ではないということです。
この「完全でない選択毒性」が腎尿細管障害を生む根本原因です。腎臓の尿細管細胞にもコレステロールが存在するため、AMPH-Bが一部作用してしまいます。
参考)アムホテリシンB(AMPH-B)(ファンギゾン) &#821…
この問題を克服するために開発されたのがリポソーム化製剤です。 リポソームに包まれたAMPH-Bは、血中ではフリーの状態でほとんど放出されず、感染組織に選択的に運ばれるため、正常組織への毒性を大幅に軽減できます。
アゾール系が無効なアスペルギルス症では、選択毒性が不完全であっても現在もAMPH-Bが第一選択になる場面があります。 深在性真菌症への適応が広く、代替薬がない状況では必須の選択肢です。
参考)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1402905856
選択毒性の分子メカニズム(J-STAGE掲載・大阪大学)
L-AMB(アムビゾーム®)は同じ有効成分をリポソームに封入した製剤であり、抗真菌活性は母剤と同等を維持しながら副作用を大幅に軽減しています。
参考)https://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/06104/061040347.pdf
実際のデータが示す差は明確です。腎機能悪化の発現率は通常製剤の33.7%に対してL-AMBでは18.7%に低下し、投与時発熱は43.6%→16.9%、悪寒は54.4%→18.4%と、いずれも有意に少ない結果が報告されています。
数字で見ると、腎毒性リスクがほぼ半減するということです。
なぜこれほど副作用が減るのかというと、リポソーム構造が血中でAMPH-Bを覆い、正常組織の血管からの漏出を制限しながら、感染部位では血管透過性の亢進によりリポソームが集積する仕組みによるものです。 また、TLR(Toll様受容体)とAMPH-Bが直接接触する機会が減るため、投与時反応も抑えられます。jstage.jst.go+1
通常製剤では累積投与量5g超で不可逆的腎毒性が懸念されますが、L-AMBでは総投与量を大幅に増やすことが可能です。 長期・大量投与が必要な重症例での選択肢として価値があります。
リポソーマルアムホテリシンBの薬理特性・臨床エビデンス(日本医真菌学会誌)
日本医真菌学会:リポソーマルアムホテリシンBの薬理作用と臨床成績(査読論文)
PMDAアムビゾーム添付文書(腎毒性・薬物動態のエビデンス源)
PMDA:アムビゾーム点滴静注用50mg 添付文書

感染と抗菌薬 Vol.20 Suppl.1 2017: アムホテリシンBリポソーム製剤を選ぶ時・使う時―適正な治療を目指して