肝障害のある重症患者にアニデュラファンギンを使っても、用量調整なしで安全に投与できます。
アニデュラファンギンはエキノカンジン系抗真菌薬の一種で、真菌細胞壁の構成成分であるβ-D-グルカンの合成酵素(1,3-β-D-グルカン合成酵素)を阻害することで抗真菌活性を発揮します 。この作用機序は哺乳類細胞には存在しない経路を標的としているため、選択毒性が高く、腎毒性などの問題が起きにくい薬剤です。
参考)Anidulafungin-臨床的観点からの状況 - Bib…
カンジダ属に対しては殺菌的に作用します 。一方、クリプトコッカスやトリコスポロンなどに対しては殺菌活性を持たないため、菌種の確認が重要です。
同じエキノカンジン系でも、カスポファンギンは肝障害時に用量調整が必要ですが、アニデュラファンギンは用量調整が不要とされています 。これは肝代謝に依存しない化学的分解(開環・不活化)により体内から消失するためです。
つまり肝機能への依存度が最も低いエキノカンジンということです。
多剤併用患者に多い免疫抑制薬との相互作用についても、アニデュラファンギンはシクロスポリン・タクロリムス・ボリコナゾールとの併用時に用量調整が不要です 。カスポファンギンがシクロスポリン代謝に干渉し、ミカファンギンがシロリムスに干渉するのと対照的な特長です。
| 薬剤 | 肝障害時の用量調整 | 主な相互作用薬 | カンジダへの作用 |
|---|---|---|---|
| アニデュラファンギン | 不要 | なし(シクロスポリン等も不要) | 殺菌的 |
| カスポファンギン | 中等度以上で必要 | シクロスポリン(用量要注意) | 殺菌的 |
| ミカファンギン | 不要 | シロリムスと一部干渉 | 殺菌的 |
日本ではミカファンギンが2002年から使用可能ですが、アニデュラファンギンはいまだ承認されていません 。
欧米ではカンジダ血症・腹腔内膿瘍・腹膜炎・食道カンジダ症に対してFDAおよびEMAの承認を受けており、侵襲性カンジダ症の第一選択薬として位置づけられています 。日本では国内承認がなく、厚生労働省の「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」に要望書が提出されている状況です(要望番号:Ⅱ-228.1) 。mhlw.go+2
要望内容には「カンジダ属による真菌血症・呼吸器真菌症・消化管真菌症」が含まれています 。体重40 kgを超える患者への用量は侵襲性カンジダ症で100 mg/日、感染予防目的では50 mg/日とされています 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/topics/2012/03/dl/youbousyo-281.pdf
未承認薬という立場のため、国内では通常の保険診療では使用できません。これが知っておくべき重要な制約です。
日本国内で使用できるエキノカンジン系はミカファンギン(ファンガード)とカスポファンギン(カンサイダス)の2剤に限られます。臨床で侵襲性カンジダ症に対応する際は、この2剤を基本とした治療戦略が必要です。
参考:厚生労働省 未承認薬・適応外薬の開発要望(要望番号Ⅱ-228.1)
https://www.mhlw.go.jp/topics/2012/03/dl/youbousyo-281.pdf
侵襲性カンジダ症において、アニデュラファンギンはフルコナゾールに対して優位性を示した唯一のエキノカンジンです。
NEJMに掲載された無作為化二重盲検非劣性試験では、静脈内投与終了時の治療成功率がアニデュラファンギン群75.6%、フルコナゾール群60.2%と、15.4ポイントの有意な差がありました(95%CI:3.9〜27.0)。これは「非劣性」どころか「優越性」を証明した結果として注目されています。
全死因死亡率もフルコナゾール群31%に対してアニデュラファンギン群23%と、8ポイントの差がありました 。試験対象者の97%に好中球減少がなく、免疫正常患者でもこの差が出ている点は臨床的に意義が大きいです。
対象245例のうち89%がカンジダ血症のみで、62%でCandida albicansが分離されており、in vitroフルコナゾール耐性例はまれでした 。つまりフルコナゾール感受性菌に対してもアニデュラファンギンが上回る成績を示しています。
結論は「感受性があってもアニデュラファンギンが優れる可能性がある」です。
参考:NEJM日本国内版 侵襲性カンジダ症に対するアニデュラファンギンとフルコナゾールの比較
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重篤な肝障害や多臓器不全の患者は、抗真菌薬の選択肢が極めて限られます。これは厳しいところです。
肝疾患の代償不全例・多臓器不全例・高リスク肝移植患者を対象にした実臨床データの解析では、アニデュラファンギンが有効かつ忍容性が良好であることが報告されています 。これはこのような特殊な患者群を対象とした現在最大規模のリアルワールドエビデンスとされています。
副作用として最も多いのは発熱・発疹・悪心・注入部位の静脈炎で、重篤な毒性はまれです 。注入速度が速すぎるとヒスタミン様反応(紅潮・血圧低下)が起こることがあり、点滴速度の管理が実臨床での注意点になります。
アミノトランスフェラーゼやアルカリホスファターゼの上昇は報告されているものの、他の抗真菌薬(特にアムホテリシンBやアゾール系)の副作用と比較してかなり軽度です 。また、腎毒性がほぼない点もICU管理中の急性腎障害リスクのある患者に適しています。
副作用管理のポイントは「点滴速度」だけ覚えておけばOKです。
参考:Safety and Efficacy of Anidulafungin in Patients with Severe Liver Disease(PMC)
日本の臨床で見落とされがちなのが、C. parapsilosisに対するアニデュラファンギン耐性率です。
グローバルサーベイランスのデータでは、キャンディン系3剤の中でアニデュラファンギンに対するC. parapsilosisの耐性率が7.5%と報告されており、他のエキノカンジンと比較して高い傾向があります 。C. parapsilosisは新生児や留置カテーテル患者に多い菌種で、日本のICU環境でも検出されるため無視できないデータです。
参考)https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/MM1209_01.pdf
エキノカンジン耐性の機序はFKS遺伝子の変異(hot spot 1・hot spot 2)によるもので、同系統3薬剤間での交差耐性が生じます 。すなわちミカファンギンに耐性を示す株は、アニデュラファンギンにも同様に耐性となる可能性が高いということです。
一方でアゾール系やアムホテリシンBとは交差耐性がないため、エキノカンジン耐性が疑われる場合は他系統への切り替えが有効です 。国内では今後キャンディン耐性菌の疫学調査体制の強化が求められています。
耐性菌の広がりを把握するには、院内での菌種別感受性データの蓄積が条件です。
日本医真菌学会の侵襲性カンジダ症ガイドラインは、こうした耐性動向と治療アルゴリズムの最新情報を確認するうえで欠かせないリソースです。
参考:日本医真菌学会 侵襲性カンジダ症の診断・治療ガイドライン
https://www.jsmm.org/pulic_comment2-1.pdf
参考:病原カンジダ菌種の多様化とその医真菌学的インパクト(栄研化学)
https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/MM1209_01.pdf