グルタチオンは体内で最も豊富な抗酸化物質のひとつで、グルタミン酸、システイン、グリシンという3つのアミノ酸から構成されるトリペプチドです。紫外線、ストレス、喫煙、大気汚染などによって発生する活性酸素は、DNA、タンパク質、脂質を酸化させ、シミ、シワ、たるみの原因となります。グルタチオンは直接これらの活性酸素を還元するほか、ビタミンCやEを再生させて抗酸化ネットワークを強化することで、肌の酸化ダメージを減らし老化のスピードを遅らせる作用が期待できます。
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細胞内でグルタチオンが十分に存在することで、酸化ストレスから表皮ケラチノサイトを保護し、皮膚バリア機能の維持に重要な役割を果たします。グルタチオン欠乏マウスを用いた研究では、ケラチノサイトの生存率が著しく低下し、創傷治癒が遅延することが報告されており、グルタチオンが皮膚の健全性維持に不可欠であることが示されています。また、グルタチオンは線維芽細胞の機能維持にも関与し、コラーゲン合成を間接的にサポートする環境を整えます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4726503/
臨床的には、20代をピークにグルタチオンは加齢とともに減少し、アルコール摂取、喫煙、ストレス、紫外線曝露などで急速に消費され枯渇しやすい特徴があります。このため、外部からの補給が肌の抗酸化能力の維持に有効と考えられています。
参考)白玉点滴(グルタチオン点滴)
グルタチオンの美白効果は、メラニン生成経路における複数のポイントでの作用によって実現されます。肌の色を決めるメラニンは、メラノサイト内のチロシナーゼという酵素がチロシンを酸化することで生成されますが、グルタチオンはこのチロシナーゼ活性を直接阻害する作用があります。
参考)グルタチオンにはどんな効果がある?おすすめの取り入れ方も解説
日本薬学会の研究では、グルタチオンがメラニン合成を濃度依存的に抑制し、0.8mM以上の濃度でメラニン合成が完全に抑制されることが実証されています。
参考)https://yakushi.pharm.or.jp/FULL_TEXT/128_8/pdf/1203.pdf
さらに注目すべきは、グルタチオンがメラニンの種類そのものに影響を与える点です。メラニンにはユーメラニン(黒〜褐色)とフェオメラニン(黄〜赤色)があり、グルタチオンは生成経路を「ユーメラニン→フェオメラニン」にシフトさせることで、肌をより明るく見せる働きが報告されています。これは単なるシミの予防だけでなく、肌全体のトーンアップにつながる重要なメカニズムです。
参考)院長コラム2022年10月号「メラニン生成に対するグルタチオ…
複数のランダム化比較試験(RCT)では、経口投与や静脈内投与によるグルタチオン補給が、メラニンレベルの有意な低下と肌の明るさの改善をもたらすことが確認されています。特に経口投与では投与量の10%未満しか血中に到達しないものの、継続摂取により美白効果が得られることが示されています。一方、口腔粘膜からの吸収では投与量の80%以上が全身循環に到達するため、より高い効果が期待できます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9473545/
グルタチオンの肌への効果を最大化するには、適切な摂取方法の選択が重要です。経口摂取の場合、グルタチオンは水溶性ペプチドであるため、胃腸で消化酵素によって速やかに分解され、吸収率は10〜30%程度と報告されています。従来の経口製剤では投与量の10%未満しか血中に到達しないため、生物学的利用能が限定的という課題があります。
参考)https://www.scienceopen.com/document_file/14d7a0b9-5765-455a-8b05-a843972452aa/ScienceOpen/amm20220005.pdf
しかし、近年の製剤技術の進歩により、吸収率を改善する方法が開発されています。リポソーム化グルタチオンは、経口投与でも体内のグルタチオンレベルを効果的に上昇させることが臨床試験で確認されており、500〜1000mg/日の投与で全血、赤血球、血漿中のグルタチオンレベルが有意に増加します。また、γ-グルタミルシステインのような前駆体を用いることで、投与後90分以内に細胞内グルタチオンレベルが基底値の2〜3倍に上昇することも報告されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6389332/
医療機関で実施されるグルタチオン点滴(白玉点滴)は、血中に直接投与するため吸収率が最も高く、短期間で効果を実感しやすいというメリットがあります。一般的な投与量は600〜1200mgで、週1回から月2回程度の頻度で実施されますが、長期使用では体内の抗酸化システムのバランスが乱れる可能性があるため、2ヶ月経過後は月1回程度の頻度に減らすことが推奨されています。
参考)美白の弊害 グルタチオンについて
グルタチオンは体内で生成される自然な物質であり、基本的には安全性が高いとされています。厚生労働省では「還元型グルタチオン」が医療用医薬品として使用された実績があり、「専ら医薬品として使用される成分本質」として収載されており、これは安全性に高い信頼性があることを意味します。
参考)くすりのしおり : 患者向け情報
医薬品医療機器総合機構(PMDA)のタチオン注射用添付文書によると、一般的な副作用として発疹、食欲不振、悪心、嘔吐、頭痛などが報告されていますが、発生頻度は0.1%未満と極めて稀です。経口摂取の場合は胃部の不快感、腹痛、吐き気、下痢などの消化器症状、稀に皮膚の発疹やかゆみといったアレルギー症状が報告されています。
参考)グルタチオンの効果は「やばい」?副作用・安全性を徹底解説!|…
点滴投与の場合、点滴部位の痛みや赤み、頭痛、吐き気、体のだるさ、一時的な血圧低下などが生じることがありますが、多くは一時的で軽快します。投与速度や投与量を調整することで軽減されることが多く、医師の管理下で用法・用量を守って使用される限り、安全性は高く確立されています。
| 副作用の種類 | 具体例 | 発生頻度 | 対応策 |
|---|---|---|---|
| 一般的な副作用 | 発疹、食欲不振、悪心、嘔吐、頭痛 | 0.1%未満(稀) | 摂取量調整や中止で改善 |
| 消化器症状 | 胃部不快感、腹痛、下痢 | 比較的稀 | 用量調整、食後摂取 |
| 点滴関連 | 注射部位の痛み、一時的血圧低下 | 稀 | 投与速度の調整 |
| 重篤な副作用 | アナフィラキシー、呼吸困難 | 極めて稀(0.1%未満) | 直ちに医療機関受診 |
長期使用に関しては、過剰摂取により身体の自然な抗酸化システムが乱れる可能性や、高用量の長期摂取で肝臓に負担がかかる可能性が指摘されています。健診で肝機能異常を指摘されている場合は事前に医師に伝える必要があり、また妊娠中や授乳中の女性、特定の疾患を持つ患者では慎重な投与が求められます。
グルタチオンの肌への効果は、他の美容成分と組み合わせることでさらに高まることが知られています。特にビタミンA、B、Cとの併用により、美白、代謝促進、炎症抑制作用が相乗的に発揮されます。
参考)第109回 グルタチオンはしわ、たるみ、クマ、瞼の色調の変化…
グルタチオンとビタミンCの関係は特に重要です。ビタミンCは活性酸素の消去に働きますが、その過程で酸化型ビタミンCとなり活性を失います。グルタチオンは酸化したビタミンCを還元して再び活性型に戻すことで、ビタミンCの活性酸素消去能を増加させ、炎症を抑え、ニキビ、毛穴の開き、赤ら顔に効果を発揮します。この抗酸化ネットワークの強化により、単独使用よりも高い抗酸化効果が得られます。
参考)第108回 グルタチオンは毛穴を縮小してニキビを治します
グルタチオンを構成する3つのアミノ酸それぞれが、肌の健康維持に独自の役割を果たしています。
参考)白玉点滴(グルタチオン点滴)
実際の美容医療では、高濃度ビタミンC点滴とグルタチオン点滴を組み合わせた「プレミアム美白点滴」が人気を集めており、有名アーティストのビヨンセが愛用していたことでも知られています。このような組み合わせ療法により、単独使用では得られない相乗効果が期待できます。
参考)第111回 ビタミンABCとグルタチオンはストレスによる皮膚…
また、グルタチオンには毛穴縮小効果やニキビ改善効果も報告されています。美白以外に毛穴縮小、赤み低下、皮膚バリア機能増加、肌質の改善が短時間で実現し、ビタミン類と協調して多面的な肌改善効果を発揮することが臨床的に確認されています。