ホジキンリンパ腫の最も特徴的な初期症状は、痛みを伴わないリンパ節の腫れです。約75%の患者が頸部や鎖骨上窩(鎖骨の上のくぼみ)のリンパ節腫脹で発見されます。腫れたリンパ節はゴムのような弾力性のある硬さで、圧迫しても通常は痛みがありません。
参考)ホジキンリンパ腫:[国立がん研究センター がん情報サービス …
リンパ節腫脹の特徴として、発熱や感染症による反応性のリンパ節腫大とは異なり、数週間以上持続することが挙げられます。また、まれではありますが、アルコール飲料を摂取した直後に病変部位に疼痛が生じることがあり、これは早期診断の手がかりとなることがあります。
参考)【血液専門医解説】悪性リンパ腫の初期症状と早期発見の重要性
表在リンパ節以外にも、結節硬化型ホジキンリンパ腫では約60%の症例で縦隔病変を認めます。縦隔リンパ節が腫大すると、気道の圧迫や刺激により咳、胸部不快感、息切れ、呼吸困難などの呼吸器症状が出現します。
参考)ホジキンリンパ腫 - 13. 血液の病気 - MSDマニュア…
国立がん研究センター がん情報サービス - ホジキンリンパ腫の症状と診断に関する患者向け情報
B症状は、ホジキンリンパ腫に特徴的な全身症状の総称で、以下の3つの症状を指します:
参考)ホジキンリンパ腫 - 11. 血液学および腫瘍学 - MSD…
📌 B症状の3つの要素
B症状は限局期(ステージ1, 2)患者の約20%、進行期(ステージ3, 4)患者の約50%に認められます。B症状の存在は、深部リンパ節(縦隔または後腹膜)、内臓(肝臓)、骨髄への浸潤を示唆する可能性があるため、予後推定および病期診断上重要な所見です。
一部の患者では、数日間の高熱が数日から数週間の平熱または平熱以下の期間を挟んで規則的に繰り返す「ペル-エブスタイン熱」と呼ばれる特徴的な発熱パターンを示すことがあります。この周期性発熱は診断の手がかりとなる重要な臨床所見です。
B症状以外にも、ホジキンリンパ腫では様々な症状が出現します。全身の皮膚に発疹や発赤がなくても激しいかゆみを感じることがあり、これはリンパ腫細胞と戦う免疫系が放出する化学物質が皮膚の神経を刺激するために起こります。難治性の激しいそう痒は、通常の治療でも早期に生じることがあります。
極度の倦怠感や疲労感も頻繁に認められる症状です。十分な休息を取っても改善しない疲労感は、リンパ節の腫大により免疫機能が正常に働かないことから生じます。
参考)ホジキンリンパ腫の初期症状にはどのようなものがありますか? …
腹部のリンパ節や脾臓が腫大した場合は、腹部の不快感や膨満感を感じることがあります。また、悪性リンパ腫により異常なB細胞が増殖すると、赤血球や血小板の産生が妨げられ、軽微な打撲でもあざができやすくなったり、鼻血や歯茎からの出血が増加することがあります。
結節硬化型ホジキンリンパ腫では、縦隔病変により嚥下困難、嗄声、上大静脈症候群、胸水や心嚢液貯留などの重篤な症状が認められることもあります。
参考)ホジキン(Hodgkin)リンパ腫 診断の手引き - 小児慢…
MSDマニュアル - ホジキンリンパ腫の症状と徴候に関する詳細な医学情報
ホジキンリンパ腫の確定診断には、リンパ節生検による病理組織学的検査が必須です。生検では、腫大しているリンパ節や組織の一部を全身麻酔または局所麻酔下で手術により採取し、細胞を顕微鏡で観察します。ホジキンリンパ腫においては、特徴的な「リード・シュテルンベルク細胞」あるいは「ホジキン細胞」の存在が診断の決め手となります。
参考)ホジキンリンパ腫:どんな病気?検査や治療は?完治できるの? …
鼠径リンパ節は反応性腫大をきたすことがあるため、可能な限り他の部位からの生検が推奨されます。採取した組織は、染色体検査や遺伝子検査も行われ、詳細な免疫・遺伝子上の異常を調べます。検査結果には約3週間を要することもあります。
参考)どんな検査をするの?(診断の流れ、病期分類など)
必要な検査項目の一覧
| 検査の種類 | 目的 | 主な内容 |
|---|---|---|
| リンパ節生検 | 確定診断 |
リード・シュテルンベルク細胞の確認、免疫組化検査、染色体・遺伝子検査 |
| 血液検査 | 全身状態の評価 | 血球数、肝機能、腎機能、LDH、赤血球沈降速度 |
| 画像検査 | 病変の広がり評価 | 全身CT検査、PET検査、胸部X線 |
| 骨髄検査 | 骨髄浸潤の有無 | 骨髄穿刺・生検による病期診断 |
血液検査では、白血球増多、リンパ球減少、貧血、アルブミン低値などの所見が認められることがあります。病変の広がりを確認し病期を判定するため、全身CT検査やPET検査が実施されます。
参考)ホーム|造血器腫瘍診療ガイドライン 第3.1版(2024年版…
日本血液学会 - 造血器腫瘍診療ガイドライン ホジキンリンパ腫の診断と検査に関する専門的指針
ホジキンリンパ腫の病期分類は、治療方針の決定と予後予測に重要な役割を果たします。病期はI期からIV期まで分類され、横隔膜の片側のみに病変がある場合を限局期(I期・II期)、横隔膜をまたいで病変が広がっている場合を進行期(III期・IV期)と呼びます。
参考)ホジキンリンパ腫の病期分類について教えてください
📊 病期別の特徴と予後
古典的ホジキンリンパ腫の治癒率は、限局期で85~90%、進行期で75~80%と報告されています。限局期ホジキンリンパ腫の85~90%、進行期ホジキンリンパ腫の70%が5年無増悪生存(長期に病変がない状態)を達成します。
限局期は予後良好群と予後不良群に細分され、予後不良の危険因子としてbulky病変の存在、4つ以上のリンパ節部位の病変、年齢50歳以上、赤血球沈降速度の亢進などが挙げられます。進行期の危険因子には、男性、年齢45歳以上、アルブミン低値、貧血、白血球増多、リンパ球減少症などがあります。
小野薬品 がん情報サイト - ホジキンリンパ腫の病期分類の図解と詳細説明
ホジキンリンパ腫の診断において、医療従事者は他の疾患との鑑別を適切に行う必要があります。無痛性リンパ節腫脹は感染症(伝染性単核球症、結核など)、非ホジキンリンパ腫、転移性癌など多くの疾患で認められるため、詳細な病歴聴取と身体診察が重要です。
参考)ホジキンリンパ腫|血液内科|診療科紹介・部門|関西電力病院 …
特に、数週間以上持続するリンパ節腫脹、B症状の存在、若年者(20~30歳代)または高齢者(50歳以上)での発症、縦隔病変を示唆する呼吸器症状などは、ホジキンリンパ腫を疑う重要な手がかりとなります。
🔔 早期発見のための注意すべきサイン
初発症状が非特異的であることが多く、他の疾患と混同されやすいため、専科医への早期紹介が重要です。結節硬化型では縦隔病変を高頻度に認めるため、若年者の持続する咳や胸部症状では胸部画像検査を積極的に検討すべきです。
参考)悪性リンパ腫の早期発見のメリットと治療を解説します
ホジキンリンパ腫は早期発見により治癒率が大幅に向上する疾患です。限局期の5年生存率は90%以上と極めて良好であり、適切な診断と治療により多くの患者が長期生存を達成できます。医療従事者は初期症状を見逃さず、疑わしい症例では速やかに血液内科への紹介を行うことが、患者の予後改善につながります。
お医者さんオンライン - ホジキンリンパ腫の診断から治療までの医療従事者向け実践的ガイド