生検には患者の状態や病変部位に応じて複数の種類があり、それぞれ異なる手技と適応があります。[1][2][3]
**針生検(経皮的針生検)**は、超音波やCTガイダンスの下で専用の針を病変部に挿入し、組織サンプルを採取する方法です。肝生検や肺生検、乳房生検などで広く使用され、比較的低侵襲でありながら確実な組織採取が可能です。局所麻酔下で実施され、針を刺している間は約20秒間の息止めが必要となります。
参考)https://kompas.hosp.keio.ac.jp/exam/000439/
内視鏡生検は、内視鏡を通じて生検用器具を挿入し、直視下で組織を採取する手法です。胃内視鏡生検、大腸内視鏡生検、喉頭内視鏡生検などに応用され、治療方針決定のために病変の一部をつまみ採る際に実施されます。生検鉗子を使用して組織学的・病理学的診断用の標本を採取し、確実な診断につなげることができます。
参考)https://milky--blog.com/nursing-assistance-basic-knowledge-of-endoscopy-sample-collection-biopsy-forceps/
皮膚生検には、パンチ生検、部分生検(切除生検)、全切除生検の3つの方法があります。パンチ生検は直径2-5mm程度の円形メスで組織をくり抜く方法で、傷が小さく済むメリットがあります。部分生検は手術用メスで組織を紡錘形に切り取り、より深部まで採取可能ですが縫合が必要となります。
参考)https://urawa-hifuka.com/skin-biopsy/
手術生検は外科手術を伴う生検方法で、大きな腫瘍や深い組織の生検に使用されます。全身麻酔下で実施され、外科医が直接異常部位にアクセスして組織サンプルを採取するため、より多くの組織情報を得ることができます。
参考)https://maj.emergency.co.jp/cancer_exam/cat7/1043
生検の主な適応は病変の確定診断、治療方針の決定、予後の推定です。検尿異常(蛋白尿、血尿)、ネフローゼ症候群、急性腎不全などの腎疾患では腎生検が適応となります。特に尿蛋白2+以上または蛋白尿と血尿の両方が1+以上陽性の場合は腎生検適応となる可能性があります。[9][10][11][12]
がんの診断においては、CTやMRIなどの画像検査だけでは確定診断できない病変に対して組織学的診断を行います。胃や大腸など内視鏡で到達できる部位、皮膚や乳房など針を刺すことで病変に到達できる部位では、手術前に生検を行って病理診断を実施します。
参考)https://www.tmhp.jp/komagome/section/chuo/byouri/shinryou.html
病理診断は最終診断として重要な役割を果たし、患者の体から採取された組織や細胞から顕微鏡用標本を作製し、病理医が顕微鏡で観察して診断を行います。この診断結果は主治医に報告され、適切な治療選択に活用されます。
生検の手続きは、検査部位の決定、局所麻酔、組織採取、組織固定の順序で進行します。複数の病変がある場合は、確定診断に最も適した部位を慎重に選択します。[2]
局所麻酔では、部位やアレルギーの有無に応じて適切な麻酔薬を選択し、痛みを軽減・消失させます。病変が皮膚に近い場合は皮膚にも麻酔を行い、筋肉に近い場合は針先が筋肉に達しないよう筋肉上に麻酔薬を注入します。
参考)https://chugai-pharm.jp/contents/zf/004/06/01/02/
組織採取後は、採取した組織を速やかにホルマリン液に投入して固定を行います。これにより組織の状態が良好に保たれ、病理診断に必要な品質が確保されます。
病理診断では、光学顕微鏡診断に加えて免疫組織検査(免疫蛍光抗体法)や電子顕微鏡診断を実施し、最終的な確定診断を行います。診断結果が出るまでには通常1週間程度を要し、この間に組織の詳細な解析が実施されます。
参考)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.15106/J00974.2014246658
生検には絶対的禁忌と相対的禁忌があり、患者の安全を確保するため慎重な適応判断が必要です。[10][15][9]
絶対的禁忌には、管理困難な出血傾向、血管病変(血管腫など)の疑い、重度の低フィブリノーゲン血症があります。腎生検の場合、機能的片腎、多発性嚢胞腎、水腎症、腎実質内感染症、末期腎(高度の萎縮腎)も禁忌となります。手技中に患者が静止できない場合や短い呼気を維持できない場合も禁忌です。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/02-%E8%82%9D%E8%83%86%E9%81%93%E7%96%BE%E6%82%A3/%E8%82%9D%E8%83%86%E9%81%93%E7%96%BE%E6%82%A3%E3%81%AE%E6%A4%9C%E6%9F%BB/%E8%82%9D%E7%94%9F%E6%A4%9C
相対的禁忌としては、著明な貧血、腹膜炎、腹水、高度の胆道閉塞、管理困難な全身合併症(重症高血圧症、敗血症)があります。これらの場合は個別に危険性と必要性を検討し、適応を決定します。
参考)https://jsn.or.jp/journal/document/47_2/073-075.pdf
主な合併症には出血、感染、疼痛があります。軽度の出血は100人あたり2-3人程度発生し、輸血や外科的処置が必要な重篤な出血は1,000人に2人程度の頻度です。前立腺生検では血尿が約1-3週間持続することがあり、感染症として急性前立腺炎を1%以下の頻度で合併する可能性があります。
参考)https://www.sasaki-urology.com/column/seiken_higaeri.html
発熱は重要な合併症の徴候であり、38度以上の発熱時は必ず医療機関に連絡し、場合によっては入院加療が必要となります。感染を放置すると敗血症に進行する危険性があるため、迅速な対応が求められます。
近年、生検技術は従来の診断目的を超えて、個別化医療や治療効果判定への応用が注目されています。
液体生検(リキッドバイオプシー)は、血液中の循環腫瘍DNA(ctDNA)を解析する新しい生検法で、侵襲性を大幅に軽減しながら腫瘍の遺伝子情報を取得できます。進行消化器腫瘍では循環腫瘍DNA解析に基づく標的療法の選択が可能となり、従来の組織生検と組み合わせることで、より精密な治療戦略を立案できます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11750700/
AI技術の導入により、病理診断の精度向上と診断時間の短縮が期待されています。画像解析技術と組み合わせることで、生検部位の最適化や採取組織の品質向上が可能となり、診断確度の向上につながります。
遺伝子診断技術の進歩により、生検組織から得られる情報量が飛躍的に増加しています。がん組織の遺伝子変異解析、薬剤感受性試験、免疫プロファイリングなど、多角的な解析により患者個々に最適化された治療選択が可能となります。
センチネルリンパ節生検のような低侵襲技術の発展により、従来であれば大きな手術が必要だった診断が、より小さな負担で実施できるようになっています。この技術革新により、患者のQOLを維持しながら確実な診断と治療が両立できる時代が到来しています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/9063a38d2d99bf4799895a8300ec824f54ffddad