ステージ1の乳がんは腫瘍が2cm以下でリンパ節への転移がない早期の段階であり、再発率は約5~10%以下と比較的低く、予後が良好な段階です。10年生存率は90%以上で、5年生存率は98%以上と非常に高い数値となっています。ステージが進行するほど再発率は上昇し、ステージ2では10~20%、ステージ3では30~50%と高くなる傾向があります。
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早期発見により適切な治療を行うことで、ステージ1の乳がんは完全な回復や生存率向上が期待できます。しかし残りの約10%の患者では再発や転移によって予後が影響を受けることがあるため、定期的なフォローアップが重要です。
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乳がんの再発は治療後数年以内に起こることが多いものの、10年を過ぎても再発する可能性があるため、長期的な経過観察が必要とされています。特にホルモン受容体陽性の乳がんでは、5年以降も再発リスクが維持される傾向があります。
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乳がんはサブタイプによって再発のしやすさや時期が大きく異なります。サブタイプは主にホルモン受容体(エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体)とHER2タンパクの発現状態により、ルミナルA型、ルミナルB型、HER2陽性型、トリプルネガティブ型の4つに分類されます。
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ルミナル型(ホルモン受容体陽性)の特徴
ルミナルA型は5年無再発率が97.2%と最も高く、5年生存率が99.4%、10年生存率が98.0%と優れた予後を示します。ルミナルB型もルミナルA型に次いで良好な予後を示しますが、増殖速度がやや速いため注意が必要です。ホルモン受容体陽性の乳がんは増殖スピードが遅いため、治療から5年以降も再発する可能性があり、長期的なフォローアップが推奨されます。
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HER2陽性型とトリプルネガティブ型の特徴
HER2陽性型とトリプルネガティブ型は治療から約2年間が再発する可能性が高い期間とされています。HER2陽性の場合、早期のステージであっても再発率は30%程度あるという報告もありますが、抗HER2療法(トラスツズマブやペルツズマブ)を適切に行うことで再発率を半分程度に減らすことができます。トリプルネガティブ型は5年無再発率が79.3%、5年生存率が81.6%と他のサブタイプよりも低く、特に術後3年以内に再発しやすい特徴があります。
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サブタイプの判定は針生検などで採取した組織を免疫染色し、ホルモン受容体やHER2の発現状態を調べることで行われます。
ステージ1乳がんの治療は手術、放射線療法、薬物療法を組み合わせて行われ、個別化されたアプローチが取られます。手術は乳房温存手術または乳房全切除術が選択され、温存手術を行った場合は術後に放射線療法を組み合わせるのが標準治療です。
参考)乳がん 治療:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般…
手術と放射線療法
乳房温存手術後に放射線療法を行うことで、10年目の局所再発率は放射線療法を行った群で10%、行わなかった群で29%となり、放射線療法が再発予防に有効であることが示されています。放射線療法は通常、月曜から金曜まで毎日通院し、1回2.0グレイで総線量50グレイ程度を約5週間かけて治療する方法が一般的です。ただし70歳以上のステージ1でホルモン療法が効く場合は、放射線照射を省略しても再発の危険が比較的低いため省くこともあります。
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術後薬物療法(ホルモン療法と化学療法)
ホルモン受容体陽性の乳がんに対してホルモン療法を行うと、再発を約半分に減らす効果があります。タモキシフェンを5年間服用したグループでは、ある1年間に再発するはずであった患者の割合を約50%減らせることが示されています。ホルモン療法は術後5~10年間継続して行われ、閉経状態に合わせて抗エストロゲン薬、アロマターゼ阻害薬、生理を止める注射薬などが選択されます。
参考)https://bctube.org/contents/contents-384/
HER2陽性の場合は、トラスツズマブとペルツズマブによる抗HER2療法を1年間行うことが標準治療で、これにより再発率を大幅に低減できます。リンパ節転移がある場合やトリプルネガティブ型では化学療法が検討されます。
参考)HER2乳がんの再発率について
生活習慣の改善は乳がんの再発予防に重要な役割を果たします。特に肥満、運動、食事、禁煙が再発リスクに影響を与える主要な因子です。
参考)Q57.生活習慣と乳がん再発リスクとの関連について
肥満対策と適正体重の維持
診断時の肥満が再発リスクを高めることは確実であり、乳がんとわかった後の体重増加も再発リスクを高めるため、適正体重を維持することが重要です。肥満は乳がん再発のリスク因子の1つであり、過度な肥満は再発リスクを上昇させることがほぼ確実とされています。無理なダイエットは禁物で、ゆっくりと着実に体重を落としていくことが理想的です。
参考)再発・転移を予防したい!|乳がんの再発・転移を考える|おしえ…
運動習慣の重要性
適度な運動は再発リスクを抑えることがほぼ確実であり、免疫機能を高め、ホルモンバランスを整える効果があります。週に150分の中強度の有酸素運動(少し汗ばむ程度の歩行や軽いジョギング)を毎日10~20分程度行うことが推奨されています。運動は生活の質(QOL)を上げる効果もあるため、ウォーキングや水泳など自分に合った運動を見つけて定期的に行うと良いでしょう。
参考)乳がん再発予防の基礎知識!生活習慣の改善から薬物療法まで解説…
食事と嗜好品
バランスの取れた食事が基本で、野菜や果物を多く摂り、赤身肉や加工肉を控えめにすることが推奨されます。大豆イソフラボンが再発リスクを抑える可能性がありますが、サプリメントでの摂取は安全性が確認されていないため勧められません。アルコールは過度な飲酒を避け、喫煙は乳がんだけでなく多くのがんのリスクを高めるため禁煙が必要です。
乳がんの手術後は定期的な通院とフォローアップ検査が必要です。術後の定期検診は、再発兆候の早期発見と適切な対応を目的として長期間にわたって実施されます。
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定期検診の頻度と期間
術後最初の5年間は3~6ヶ月ごと、5年以降は半年から1年ごとに検診を受けることが一般的です。再発リスクが最も高いのは治療後の最初の5年間であり、この期間中は特に慎重なフォローアップが必要です。乳がん細胞はゆっくり増殖する場合が多く、5年以上経過した後に再発するケースもあるため、安全を考慮して10年間の定期検診が推奨されています。
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検診内容と検査項目
フォロー検査では問診、視診・触診、マンモグラフィ、超音波検査、腫瘍マーカーのチェック、骨密度のチェックなどが行われます。マンモグラフィ検査は乳房温存手術後1~2年おきに行われることが多く、微小ながんを発見しやすいため重要な検査です。必要に応じて追加の画像診断(CT、MRI、PETなど)が行われることもあります。
参考)総説5 術後フォローアップ
術後10年が経過したらほぼ完治とされ、それ以降は年1回、対側乳房(手術をしていない方の乳房)のチェックを受けることが重要です。乳がんは再発に関しても研究が進んでおり、再発でも早期発見と適切な治療が重要です。
リンパ節転移の有無は乳がんの予後を左右する重要な因子です。ステージ1では基本的にリンパ節転移がない状態ですが、センチネルリンパ節生検により微小転移が発見されることもあります。
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リンパ節転移のメカニズムと転移部位
乳がんが転移する場合、乳房周辺のリンパ節に転移することがよく見られます。リンパ節はリンパ液が流れるリンパ管の途中に位置し、リンパ液に含まれる細菌やがん細胞を監視して捕らえ排除する役割をしています。乳がんでは主に腋窩リンパ節、内胸リンパ節、鎖骨上リンパ節に転移が生じ、最も転移しやすいのは腋の下に存在する腋窩リンパ節です。
参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E4%B9%B3%E3%81%8C%E3%82%93/contents/201204-002-AQ
リンパ節転移と再発リスク
腋窩リンパ節転移の個数は最大の予後因子であり、リンパ節転移が4個以上あった場合は高リスクとなります。リンパ節転移が1~3個の場合でも、補助療法を行うことで予後を改善できます。リンパ節転移がある場合、補助療法を行わなければ10年生存率は25~48%ですが、適切な補助療法により生存率を向上させることができます。
リンパ節転移の有無により再発のパターンも異なり、トリプルネガティブ型などの場合は再発するとすれば3年以内が多く、逆に10年以上経ってからの晩期再発の頻度は低くなります。一方でホルモン受容体陽性の場合は晩期再発の可能性も考慮する必要があります。
参考)リンパ節転移の有無の予後