遺伝的素因がある人ほど、生活習慣を改善すると発症リスクが下がりやすい。

「遺伝的素因」の読み方は 「いでんてきそいん」 です。 英語では genetic predisposition と表記し、「疾患を発生させるリスクの遺伝的増加」と定義されます。 「genetic susceptibility(遺伝的感受性)」とほぼ同義で使われることも多く、医療文献では両方の表記を見かけます。 weblio(https://www.weblio.jp/content/%E9%81%BA%E4%BC%9D%E7%9A%84%E7%B4%A0%E5%9B%A0)
「素因(そいん)」という語は、「ある物事が起こりやすい、生まれつきの下地や体質」を意味します。つまり遺伝的素因とは、親から受け継いだ遺伝子の組み合わせによって形成される、特定の疾患への「なりやすさ」のことです。 「なりやすさ」が遺伝するのであって、「必ずかかる」という意味ではない点が重要です。 kotobank(https://kotobank.jp/word/%E9%81%BA%E4%BC%9D%E7%9A%84%E7%B4%A0%E5%9B%A0-761793)
一般向けの書き方では「遺伝的体質」と呼ばれることもあります。 例えば糖尿病になりやすい遺伝的体質のことを「糖尿病の遺伝的素因」と呼ぶ、と京都大学医学部附属病院でも説明されています。 これが基本です。 diabendonutri.kuhp.kyoto-u.ac(https://diabendonutri.kuhp.kyoto-u.ac.jp/diabetes-class/%E9%81%BA%E4%BC%9D%E7%9A%84%E4%BD%93%E8%B3%AA%E3%81%A8%E7%B3%96%E5%B0%BF%E7%97%85/)
医療従事者向けに参考リンクを示します。
がん用語として「遺伝的素因(genetic predisposition)」の定義が確認できます。
遺伝的素因とは?わかりやすく解説 – Weblio辞書
遺伝的素因だけで発症が決まると思われがちですが、実際には「遺伝要因」と「環境・生活習慣要因」の複合で発症が決まります。 例えば気管支喘息では、遺伝的要因がリスクに寄与する割合は 25〜80% と大きく幅があり、これは環境差によるものです。 amed.go(https://www.amed.go.jp/news/release_20171223.html)
多因子遺伝病(高血圧・糖尿病・心臓病など)は、遺伝的要因だけでは発症しません。 生活習慣の影響を強く受けるため、同じ遺伝的素因を持っていても発症するかどうかが変わります。 特に注目したいのが「浸透率(penetrance)」という概念で、遺伝子型を持つ人のうち実際に表現型が出る割合を示します。 ueharazaidan(https://www.ueharazaidan.com/hereditary_disease.html)
ハンチントン病やデュシェンヌ型筋ジストロフィーのように浸透率がほぼ100%の疾患は稀で、多くの遺伝性疾患では浸透率は100%より低くなります。 浸透率が低い疾患では、遺伝子変異を持っていても発症しない人が一定数います。 つまり「遺伝的素因がある=必ず発症する」ではないということですね。 ueharazaidan(https://www.ueharazaidan.com/hereditary_disease.html)
| 疾患の種類 | 浸透率の目安 | 環境因子の影響 |
|---|---|---|
| ハンチントン病 | ほぼ100% | 低い |
| 2型糖尿病 | 一卵性双生児で約80% | 高い(肥満・運動不足) |
| 気管支喘息 | 25〜80%(推定) | 非常に高い |
遺伝と環境の相互作用についての詳細は、上原記念生命科学財団のまとめが参考になります。
疾患の発症には「遺伝」と「環境」の二つの要因が関与 – 上原記念生命科学財団
「遺伝的素因があるなら生活習慣を改善しても無駄」と考える患者は少なくありません。しかしこれは誤解です。 日本のバイオバンクジャパン(BBJ)のデータでは、冠動脈疾患の遺伝的リスクが高いほど、喫煙をやめることによる予防効果も高くなるという正の相関が確認されています。 2型糖尿病でも、遺伝的リスクが高い人ほど肥満改善による発症予防効果が大きいことが示されました。 biobankjp(https://biobankjp.org/11439)
これは意外ですね。逆転の発想として、遺伝的素因が高い患者こそ積極的に生活習慣指導を行うことで、最大の予防効果が期待できます。 ポリジェニックリスクスコア(PRS)を用いて遺伝的リスクを数値化し、生活習慣指導の優先順位付けに使う取り組みも近年広がっています。 biobankjp(https://biobankjp.org/11439)
「遺伝があるから諦める」ではなく、「遺伝的リスクが高いから、介入効果も高い」という説明ができると、患者の行動変容を引き出しやすくなります。これは使えそうです。
生活習慣病と遺伝的リスク・改善効果の関係を論じた研究成果です。
生活習慣病の遺伝的リスクと生活習慣改善による予防効果の関係 – バイオバンクジャパン
遺伝性疾患には大きく「単一遺伝子疾患」と「多因子遺伝疾患」の2種類があります。 単一遺伝子疾患は1つの遺伝子変異が主因で、浸透率が高く、メンデルの法則に従う遺伝様式をとります。 一方、多因子遺伝疾患は複数の遺伝子と環境要因が組み合わさって発症します。 generio(https://www.generio.jp/shop/information/2025_1015_01)
多因子遺伝疾患における遺伝的素因は、複数の遺伝子座(SNP:単一ヌクレオチド多型)がリスクを少しずつ上げ下げする「加法的効果モデル」で理解されています。 例えば、リスクアレルを多く持つ人が悪化因子となる環境に置かれると、発症確率が閾値を超えます。 さらに、ある遺伝子変異が単独ではリスクを示さなくても、別の変異と組み合わさると発症閾値を超える「エピスタシス(遺伝子間相互作用)」も存在します。 generio(https://www.generio.jp/shop/information/2025_1015_01)
2型糖尿病を例にとると、2万数千種類の遺伝子のうちいくつかの遺伝子変異が積み重なって「遺伝的素因」を形成します。 はっきりと異常が特定できる例は稀で、軽い異常が多数積み重なって体質を形成していると考えられています。 結論は「複数の遺伝子の積み重ね」です。 diabendonutri.kuhp.kyoto-u.ac(https://diabendonutri.kuhp.kyoto-u.ac.jp/diabetes-class/%E9%81%BA%E4%BC%9D%E7%9A%84%E4%BD%93%E8%B3%AA%E3%81%A8%E7%B3%96%E5%B0%BF%E7%97%85/)
単一遺伝子疾患と多因子疾患の概要については以下が参考になります。
遺伝子と病気 – 東海大学医学部付属病院 遺伝子診療科
短命に関わる遺伝的素因を持つ患者に対して、「遺伝があるから仕方ない」と説明していませんか。カリフォルニア大学の研究では、短命の遺伝的素因を持つ人でも、運動習慣によって死亡リスクを下げられることが示されています。 ウォーキング・ランニング・水泳・テニスなどを余暇時間に行っている高齢者は、遺伝的素因にかかわらず死亡リスクが下がることが大規模調査で確認されました。 himan(https://himan.jp/news/2022/000639.html)
逆に、座ったままの時間が長いほど死亡リスクが高まることも明らかになっています。 「長生きする可能性が低いとみられる人でも、運動を習慣として行い、座っている時間を減らすなど生活スタイルを前向きに改善することで寿命を延ばせる」と研究者も述べています。 遺伝的素因は変えられませんが、生活習慣は変えられます。 himan(https://himan.jp/news/2022/000639.html)
具体的な運動指導の場面では、「遺伝があるから運動しても意味がない」という患者の思い込みを崩す根拠として、この研究を活用できます。厚生労働省が推進する健康日本21(第三次)でも、2型糖尿病の発症には遺伝的素因と生活習慣の両方が関与すると明示されており、生活習慣改善の重要性が強調されています。 遺伝的素因の有無にかかわらず、運動指導は全患者に有効です。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001158816.pdf)
運動と遺伝的素因の関係についての詳細研究レポートです。
短命の遺伝的素因をもつ人も運動で寿命を延ばせる – 肥満研究の世界権威が警鐘