胃粘膜は胃の内側を覆う重要な組織で、厚さは通常20代で約1.3mm、70代になると1.0mm以下まで薄くなります 。この粘膜層は胃液の分泌と胃粘液の分泌という二つの重要な機能を担っています。
参考)https://hc.kowa.co.jp/cabagin/column/know/
胃粘膜から分泌される胃粘液はゼリー状で、厚さ0.5~2.5mmのヴェール状になって胃粘膜を覆い、pH1~2の強い胃酸やペプシン(タンパク質分解酵素)から胃粘膜を保護しています 。また、胃の中の食物をスムーズに移動させる潤滑剤としても機能します。
胃粘膜には高い再生能力があり、胃酸で荒れた場合でも、粘膜の血流が正常であれば迅速に回復することができます 。この自然治癒力こそが、胃を健康に保つための重要なメカニズムです。
胃粘膜の炎症は急性胃炎と慢性胃炎に分けられ、それぞれ異なる原因と症状を示します 。急性胃炎の主な原因として、暴飲暴食(特にアルコール飲料の飲みすぎ)、非ステロイド系消炎鎮痛薬などの医薬品、化学的毒物、ストレスなどがあります 。
参考)https://www.toume-clinic.com/diagnosis2
慢性胃炎の約80%は、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染が関係していると考えられています 。ピロリ菌は胃酸という強酸の中でも生存できる細菌で、胃に感染すると持続的な炎症を引き起こし、さらに胃粘膜の萎縮を進行させ、胃がんの発生リスクを高めます 。
参考)https://www.onuki-clinic.com/gastritis/
主な症状として、急性胃炎では上腹部の痛みや不快感(心窩部痛)、胃もたれ、吐き気、嘔吐、食欲不振が急激に現れます 。慢性胃炎では空腹時や夜間の胸やけ、食欲不振、食後のむかつき、胃のもたれなどが継続的に見られますが、症状がほとんど現れないこともあります 。
参考)https://cloud-dr.jp/medical-navi/disease/1115/
胃粘膜の保護と修復には、粘膜保護薬と胃粘膜修復薬の2種類があります 。粘膜保護薬は胃の表面に薄い膜を作って、胃酸や刺激物から粘膜を守る働きがあり、代表的なものにスクラルファートやレバミピドがあります 。
参考)https://hitomiru-clinic.com/blog/post-1318/
スクラルファートは胃の中の酸性環境で粘着性のゲル状になり、傷ついた粘膜にピタリと張り付いて胃酸から保護し、傷の治りを促進します 。レバミピドは胃粘膜の血流を改善し、粘液の分泌を増やす働きがあり、慢性胃炎や胃潰瘍の治療によく使われます 。
胃粘膜修復薬として代表的なテプレノンやソファルコンは、胃粘膜の新陳代謝を活発にし、傷ついた粘膜の修復を促進します 。これらの薬は特に慢性的な胃の不調や薬物性胃炎(痛み止めなどによる胃荒れ)に効果的です 。
胃粘膜の修復には特定の栄養素が重要な役割を果たします。βカロテンは胃の粘膜を正常に保ち、炎症や潰瘍を修復してくれる作用があり、かぼちゃ、人参、モロヘイヤ、春菊、ほうれん草、小松菜などの食品に多く含まれています 。
参考)https://kops-fukuoka.jp/column/75
ビタミンU(メチルメチオニンスルホニウムクロリド)は胃酸の分泌を抑え、胃粘膜を保護・修復する効果があります 。キャベツに豊富に含まれ、水溶性のため茹でるよりも電子レンジで加熱したほうが効果的に摂取できます 。
参考)https://toyooka1.co.jp/column/01/
リンゴやブドウに含まれるポリフェノールは胃の粘膜を保護する働きがあり、リンゴにはピロリ菌の増殖を抑える効果、ブドウにはアルコールによって引き起こされる胃の不調を緩和する効果もあります 。生姜は消化を助け、胃酸の逆流を防ぐ働きがあります 。
参考)https://hiki-clinic.or.jp/column/cancer/gastric-mucosa-strengthening-diet/
胃粘膜を強化・修復するためには、1日に体重1㎏あたり1.2gのタンパク質が必要とされています 。消化の良い牛乳、卵、白身魚などは胃に負担をかけずに良質なタンパク質を供給できます 。
参考)https://www.sempos.or.jp/kk/kenshin/ibu.html
調理方法も重要で、「茹でる・煮る」調理により脂肪分が落ち、食物繊維が柔らかくなるため消化しやすくなります 。反対に「揚げる」調理は高温でタンパク質が硬くなり消化が悪くなるため、胃の調子が悪いときは避けることが推奨されます 。
生活習慣面では、暴飲暴食を避け、毎日規則正しい時間に食事を摂り、腹八分目を心がける 、適度な運動によるストレス解消と胃腸機能の向上 、禁煙(喫煙は胃粘膜への血流を低下させ、抵抗力を弱める)、十分な睡眠によるストレス軽減などが胃粘膜の健康維持に重要です。