鎮痛薬の種類と一覧:医療従事者のための実践ガイド

鎮痛薬の分類から投与経路、副作用管理まで医療従事者が知るべき基礎知識を網羅的に解説。患者の状態に応じた適切な選択ができていますか?

鎮痛薬の種類と一覧

鎮痛薬の主要分類
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非オピオイド系

アセトアミノフェン、NSAIDsが中心で軽度から中等度疼痛に使用

オピオイド系

強オピオイドと弱オピオイドに分類、中等度から強度疼痛に対応

🎯
神経障害性疼痛薬

三環系抗うつ薬、抗てんかん薬、SNRIなど特殊な疼痛に使用

鎮痛薬の基本分類と作用機序

鎮痛薬は作用機序に基づいて分類され、疼痛の強さと種類によって適切な選択が求められます。基本的な分類として、非オピオイド系、オピオイド系、そして神経障害性疼痛に特化した薬剤の3つに大別されます。

 

非オピオイド系鎮痛薬は主に以下のように分類されます。

アセトアミノフェンは弱い鎮痛薬に分類されますが、推奨用量では安全性が高く、軽度から中等度の痛みに広く使用されています。効果は2〜4時間持続し、経口、直腸、静脈内投与が可能です。

 

神経障害性疼痛に対しては、従来の鎮痛薬では効果が限定的なため、三環系抗うつ薬抗てんかん薬が代替として考慮されます。デュロキセチンなどのSNRI(セロトニンノルアドレナリン再取り込み阻害薬)も鎮痛薬として用いられており、慢性疼痛管理において重要な役割を果たしています。

鎮痛薬のオピオイド系と非オピオイド系の特徴

オピオイド系鎮痛薬は強度によって弱オピオイドと強オピオイドに分類され、2018年のWHO方式がん疼痛治療法改訂以降、患者の状態によっては診断時や治療中でも病期にかかわらず強オピオイドが使用されるようになっています。

 

弱オピオイドの代表例。

  • トラマドール:経口投与が基本で、速放性(トラマール)と徐放性(ワントラム)製剤があります
  • アセトアミノフェンとの配合剤(トラムセット)も利用可能

強オピオイドの主要薬剤。

  • モルヒネ:徐放性(MSコンチン、モルペス)と速放性(オプソ)製剤、注射薬、坐剤と多様な剤形
  • オキシコドン:徐放性(オキシコンチン)と速放性(オキノーム)、注射薬(オキファスト)
  • ヒドロモルフォン:1日1回服用の徐放性(ナルサス)、速放性(ナルラピド)、注射薬(ナルベイン)
  • フェンタニル:経皮パッチ(デュロテップ、ワンデュロ)、口腔粘膜投与(アブストラル、イーフェン)、注射薬

各オピオイドの特徴的な副作用として、モルヒネ、オキシコドン、ヒドロモルフォンでは悪心・嘔吐、便秘、眠気が主な副作用ですが、フェンタニルでは便秘や眠気が比較的少ないという利点があります。

 

鎮痛薬の投与経路別特徴と選択基準

オピオイド鎮痛薬は経口投与が基本とされていますが、患者の状態に応じて多様な投与経路が選択可能です。投与経路の選択は患者の嚥下機能、意識レベル、消化管の状態、疼痛の急性度などを総合的に判断して決定されます。

 

経口投与

  • 最も生理的で患者負担が少ない
  • 徐放性製剤:持続的疼痛管理に適している
  • 速放性製剤:突出痛(レスキュー薬)として使用

経皮投与

  • フェンタニルパッチが代表的
  • 72時間作用型(デュロテップ)と24時間作用型(ワンデュロ)
  • 嚥下困難患者や経口投与が困難な場合に有効
  • 皮膚状態の確認と定期的な貼付部位の変更が必要

口腔粘膜投与

  • 舌下錠(アブストラル)とバッカル錠(イーフェン)
  • 突出痛に対する迅速な効果発現
  • 経口摂取困難でも使用可能

注射投与

  • 皮下投与、静脈内投与、硬膜外投与、くも膜下投与
  • 迅速な効果発現と確実な薬物送達
  • 重篤な疼痛や経口投与不可能な場合

投与経路変更時には簡易換算表を参考にしますが、モルヒネ経口30mgを基準とした場合、トラマドールでは5倍の150mg、ヒドロモルフォンでは5分の1の6mgに換算されます。ただし、これらの換算値はあくまで目安であり、実際の投与量は患者の状態に合わせて慎重に調整する必要があります。

 

鎮痛薬の腎機能障害患者への適用注意点

腎機能障害患者における鎮痛薬選択は、薬物の代謝と排泄経路を十分に理解した上で行う必要があります。特にオピオイド鎮痛薬では、腎機能障害の程度によって使用できる薬剤に制限があることを理解しておくことが重要です。

 

モルヒネの注意点

  • 腎機能障害がある場合、使用しない方が望ましい
  • 有害な代謝物質(M6GおよびM3G)が体内に蓄積
  • せん妄や意識障害などの中枢神経系副作用のリスク増大
  • クレアチニンクリアランス30mL/min以下では特に注意が必要

腎機能障害患者に比較的安全な選択肢

  • フェンタニル:腎機能障害がある場合にも使用可能
  • 肝代謝が主体で、腎排泄への依存度が低い
  • 経皮パッチ製剤では血中濃度の変動が少ない

オキシコドンとヒドロモルフォン

  • 腎機能障害がある場合、注意が必要
  • 軽度から中等度の腎機能低下では減量して使用可能
  • 定期的な腎機能モニタリングが必要

NSAIDsの腎機能への影響

  • プロスタグランジン合成阻害により腎血流量減少
  • 既存の腎機能障害を悪化させる可能性
  • 高齢者や脱水状態の患者では特に注意

腎機能障害患者では、薬物動態の変化により予期しない副作用が出現する可能性があるため、開始時は低用量から開始し、効果と副作用を慎重にモニタリングしながら調整することが求められます。

 

鎮痛薬の副作用管理と疼痛アセスメントの実践

鎮痛薬使用患者の看護において最も重要なのは、適切な疼痛マネジメントの支援と副作用の早期発見・対処です。患者が疼痛を我慢せず、適切な疼痛管理を行うためには、医療従事者の継続的なサポートが不可欠です。

 

疼痛アセスメントツール

  • フェイススケール:表情を用いた直感的な評価方法
  • NRS(Numerical Rating Scale):0〜10の数値で疼痛強度を評価
  • 「全く痛くないときを0、これ以上耐えられない痛みを10」として定義
  • 安静時痛と動作時痛の両方を評価

オピオイド鎮痛薬の主要副作用と対策

  • 便秘:最も頻度の高い副作用で、耐性形成されにくい
  • 予防的下剤投与の検討
  • 水分摂取量の確保
  • 可能な範囲での活動量増加
  • 悪心・嘔吐:使用開始初期に多い
  • 制吐薬の併用
  • 食事のタイミング調整
  • 徐々に耐性が形成される場合が多い
  • 眠気・意識レベル低下
  • 安全な環境整備
  • 転倒・転落リスクの評価
  • 家族への説明と協力依頼

レスキュー薬の自己管理システム
一部の医療機関では、以下の条件を満たした患者に対してレスキュー薬1回分の自己管理を実施しています。

  • 意識レベルが清明
  • 医師が承諾した患者
  • 看護師が入院中のルールを守れていると判断した患者
  • 使用済み薬袋と新しいレスキュー薬の交換システム

この取り組みにより、突出痛に対する迅速な対応が可能となり、患者のQOL向上につながっています。

 

疼痛管理における多職種連携
効果的な疼痛管理には、医師、看護師、薬剤師、理学療法士などの多職種連携が重要です。定期的な疼痛評価結果の共有、副作用モニタリング、薬物療法以外のアプローチの検討など、包括的なケアプランの立案と実施が求められます。

 

患者教育においては、鎮痛薬に対する誤解や不安を解消し、適切な使用方法を指導することで、治療アドヒアランスの向上を図ることができます。疼痛は患者の主観的体験であることを理解し、患者の訴えを真摯に受け止める姿勢が重要です。