患者申出療養一覧と制度の仕組みを医療従事者向けに解説

患者申出療養の一覧や申請手順、先進医療との違いを医療従事者向けに詳しく解説します。制度の全体像を正確に把握できていますか?

患者申出療養の一覧と制度の全体像

承認件数が30件を超えた今も、実際に実施できる医療機関は全国で10施設未満の療養が多数あります。


この記事の3つのポイント
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患者申出療養とは何か

患者自らが申し出て未承認薬・未承認医療技術を保険診療と併用できる制度。先進医療とは異なる独自の仕組みを持ちます。

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一覧で確認できる承認療養の現状

厚生労働省が公開する告示一覧に基づき、承認済み療養の種類・対象疾患・実施医療機関を整理して解説します。

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医療従事者が知るべき申請・運用上の注意点

申請フロー、倫理審査、費用負担のルールなど、現場で直面しやすい実務的な疑問点をまとめました。


患者申出療養とは何か:制度の目的と背景



患者申出療養は、2016年(平成28年)4月に施行された制度です。それ以前は、未承認薬や未承認の医療技術を保険診療と組み合わせる「混合診療」は原則として禁止されており、保険外の治療を受けると、本来保険でカバーされる部分まで全額自己負担になる「保険外し」のリスクがありました。


この制度が生まれた背景には、難治性疾患や希少疾患を抱える患者から「標準治療では限界がある。新しい治療を試したいが費用が払えない」という切実な声が積み重なった経緯があります。患者起点で動く制度という点が、先進医療や医師主導治験とは決定的に異なります。


制度の正式名称は「患者申出療養に係る費用の額の算定方法」に基づく療養であり、法的根拠は健康保険法第63条第2項第4号に置かれています。つまり混合診療の例外として、法律上明確に位置づけられた制度です。


患者または家族が「この治療を受けたい」と医療機関に相談し、医療機関が臨床研究中核病院(後述)を通じて申請を行う流れが基本です。患者が「申し出る」という名称のとおり、起点は常に患者側にあります。これが原則です。


費用の考え方も独特です。未承認部分(薬剤費・技術料など)は全額自己負担となりますが、入院基本料や検査費など保険適用可能な部分は通常の保険診療として給付されます。患者の金銭的負担を最小化しながら、新しい医療へのアクセスを広げることが狙いです。いいことですね。


患者申出療養の一覧:承認療養の種類と対象疾患

厚生労働省は、承認された患者申出療養の一覧を告示として公開しています。2025年8月時点の情報をもとに整理すると、承認件数は累計で30件超に達しており、対象疾患は固形がん・血液がん・神経疾患・希少免疫疾患など多岐にわたります。


一覧の主な内容を以下に示します。




























通し番号 療養の名称(概要) 主な対象疾患・条件 実施可能な医療機関の種別
患−1 ニボルマブ(オプジーボ)の特定条件下での使用 標準治療不応の固形がん(一部) 臨床研究中核病院およびその連携医療機関
患−2以降 各種未承認薬・未承認適応への拡大使用 希少がん、神経変性疾患など 告示に個別指定された施設
(新規追加分) 既承認薬の適応外使用、新規医療技術 都度告示で追加 申請医療機関+連携施設


一覧の最新情報は厚生労働省の「患者申出療養に係る告示・通知等」ページで随時更新されています。告示番号・療養名・対象患者の条件・算定額・実施医療機関名がセットで掲載されており、医療従事者が実務で参照すべき一次情報です。


厚生労働省|患者申出療養の告示・通知等(一覧)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000114800.html


注目すべき点は、同じ「ニボルマブ投与」でも、対象疾患・投与レジメン・患者の前治療歴によって告示上の番号が異なることです。一覧を「薬剤名」だけで検索すると、適用条件の違いを見落とすリスクがあります。一覧を引くときは疾患名と治療ライン(一次・二次など)を必ず併記して確認することが条件です。


また、承認された療養であっても、実施できる医療機関は告示に列挙された施設のみに限られます。「承認済みだから自院でも実施できる」という思い込みは危険です。厳しいところですね。


患者申出療養の申請フローと臨床研究中核病院の役割

申請の起点は患者ですが、実際の手続きを主導するのは医療機関、とりわけ「臨床研究中核病院(ARO)」です。現在、国が臨床研究中核病院として承認している施設は全国に15施設(2025年時点)あり、東京大学医学部附属病院・国立がん研究センター中央病院・京都大学医学部附属病院などが代表的な施設です。


申請フローを整理すると、以下の順序で手続きが進みます。



  1. 患者が担当医師に「患者申出療養として受けたい治療」を相談する

  2. 担当医師が臨床研究中核病院に協議・相談(未承認療養の場合は6週間、既承認療養の拡大実施は2週間が標準審査期間)

  3. 臨床研究中核病院の特定認定再生医療等委員会(または倫理審査委員会)が科学的妥当性・安全性を審査

  4. 審査通過後、厚生労働省に申請書類を提出

  5. 患者申出療養評価会議(有識者会議)での審議・承認

  6. 告示への掲載・実施開始


ここで重要なのが「6週間」と「2週間」の区別です。まったく新しい未承認療養の申請には原則6週間の審査期間が設定されています。一方、すでに告示に掲載されている承認済み療養を新たな医療機関が「連携医療機関」として実施しようとする場合は、2週間の短縮審査が適用されます。これが条件です。


患者から「いつから治療を受けられますか?」と聞かれたとき、この期間の違いを把握していないと、大きな説明誤差が生じます。6週間と2週間では、患者の体感として大きな差です。意外ですね。


倫理審査の内容も先進医療とは一部異なります。患者申出療養では、患者本人が「申し出た」という事実と、インフォームド・コンセントの質が特に重視されます。患者が制度の仕組みを正確に理解した上で同意しているかどうかが審査の焦点になるため、同意説明文書の内容と説明プロセスの記録が重要な書類になります。


患者申出療養評価会議の議事録・資料(厚生労働省)は公開されており、過去の審査でどのような論点が議論されたかを確認できます。申請準備中の医療機関にとって参考になる情報源です。


厚生労働省|患者申出療養評価会議 議事録・資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/128507.html


患者申出療養と先進医療との違い:医療従事者が混同しやすい3つのポイント

医療従事者の間でも「先進医療と患者申出療養は似たようなもの」という認識が根強くあります。しかし制度の本質は大きく異なります。混同すると患者への説明ミスや、実施要件の見落としにつながるため、3点に絞って整理します。


① 申請の起点が異なる


先進医療は医療機関(または製薬企業)が自ら申請する制度です。一方、患者申出療養は患者が「この治療を受けたい」と申し出ることが出発点になります。起点が患者か医療機関かという違いは、インフォームド・コンセントの位置づけにも影響します。


② 実施可能な医療機関の広がり方が異なる


先進医療は届出制のため、基準を満たす医療機関であれば比較的広く実施できます。患者申出療養は、最初に申請を行った臨床研究中核病院と、その後に追加申請した「連携医療機関」に限定されます。全国どこでも受けられるわけではありません。これが基本です。


③ 保険外費用の扱いと費用徴収のルールが異なる


先進医療では技術料のみが保険外となり、通知された金額の範囲内で自由に設定できます。患者申出療養では、告示に規定された「算定基準額」が上限として設定されており、それを超えた請求はできません。保険外費用の上限が法的に縛られている点で、先進医療よりも規制が厳格です。


































比較項目 先進医療 患者申出療養
申請の起点 医療機関・企業 患者本人
実施施設 届出施設(比較的広範) 告示に列挙された施設のみ
審査期間(新規) 約3か月 約6週間
保険外費用の上限 自由設定(通知範囲内) 告示で上限額を規定
倫理審査 各施設の倫理委員会 臨床研究中核病院の特定認定委員会


「先進医療より患者申出療養のほうが審査が速い」という事実も、現場ではあまり知られていません。新規承認までにかかる標準的な期間は、先進医療の約3か月に対して患者申出療養は約6週間です。緊急性の高い難治性疾患を持つ患者にとって、この差は治療の機会そのものに直結します。


医療従事者が現場で直面しやすい費用負担と説明上の注意点

患者申出療養の費用構造は「保険部分+全額自己負担部分」の組み合わせです。この構造を患者に正確に説明できているかどうかが、後々のトラブルを防ぐカギになります。


保険が適用される部分としては、入院基本料・検査費・処置料・放射線治療料などが含まれます。一方、申出療養に該当する未承認薬の薬剤費・未承認技術料は全額自己負担です。告示には「算定基準額」が明示されており、この金額が患者の自己負担上限の目安になります。


実際の金額感として、抗がん剤の適応外使用が含まれる場合、薬剤費だけで月に数十万円に達するケースがあります。月50万円規模の自己負担が生じる療養も複数告示されており、患者に「保険が一部使える=安い」という誤解を与えないことが重要です。痛いですね。


高額療養費制度との関係も確認が必要です。患者申出療養における自己負担部分は、原則として高額療養費の合算対象にはなりません(保険外費用のため)。ただし保険適用部分については通常の高額療養費計算が適用されます。この「合算されない」という点を見落とすと、患者が実際に支払う総額を大幅に低く見積もる説明ミスが起きます。これだけは例外です。


費用に関する相談を患者から受けた場合、医療ソーシャルワーカー(MSW)への連携が有効です。MSWは公的支援制度・民間の医療費支援財団・クラウドファンディングの活用など、患者申出療養の費用負担に対応した多様な資源を把握しています。制度の情報提供と同時に、費用相談窓口へのナビゲートをセットで行うことが、患者支援の質を高める実践的な対応です。


日本医療社会福祉協会(MSW連携の参考情報)
https://www.jaswhs.or.jp/


説明記録の保管も忘れてはなりません。患者申出療養では、患者本人が申し出たという事実の記録・同意説明の日時・説明者の氏名・患者の反応を診療録に残す習慣をつけることが、将来的な監査や紛争予防につながります。記録が条件です。


患者申出療養の一覧に載っていない段階での対応:連携医療機関としての活用戦略

これは他のサイトではほとんど触れられていない視点ですが、すでに告示に掲載されている承認済み療養を「自院でも実施したい」と考える医療機関にとって、連携医療機関登録という選択肢は非常に現実的なルートです。


連携医療機関になるためには、告示に記載された臨床研究中核病院に連絡を取り、協議を開始することが第一歩です。審査期間は前述のとおり2週間と短く、自院で一から新規申請するより大幅に早く実施開始できます。これは使えそうです。


連携医療機関として登録される条件は、施設ごとに異なりますが、共通する要件として以下が求められます。



  • 🏥 当該療養を実施するのに十分な診療科・設備が整っていること(例:抗がん剤治療なら化学療法室・無菌室などの基準)

  • 📋 倫理審査委員会が設置されており、審査対応が可能であること

  • 👩‍⚕️ 担当医師が当該領域の専門的な経験・資格を有していること

  • 📝 患者へのインフォームド・コンセントを適切に行う体制が整っていること


地方の中規模病院が「うちでは無理」と最初から諦めているケースが見受けられますが、実際には連携医療機関として登録された施設の中には、400床未満の病院も含まれています。まず臨床研究中核病院に相談してみることが現実的な第一歩です。


国立がん研究センターをはじめとする臨床研究中核病院は、連携医療機関からの相談窓口を設けており、具体的な要件確認や書類準備のサポートを受けられます。患者申出療養の一覧に掲載された療養が自院のターゲット患者層と合致する場合、連携申請を検討する価値は十分あります。


国立がん研究センター中央病院|患者申出療養に関する情報
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/clinic/patient_care/index.html


また、連携医療機関として実績を積むことは、将来的に自施設が独自に新規申請を行う際の「実績証明」としても機能します。連携実施→症例集積→新規申請というステップアップ戦略が、患者申出療養を活用したい医療機関にとって現実的な道筋です。つまり段階的なアプローチが有効です。






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