感染性心内膜炎は心内膜の感染症であり、通常は細菌または真菌によって引き起こされる重篤な疾患です。診断が困難なことも多く、不明熱の代表的疾患として知られています。
主要症状として以下が挙げられます。
塞栓症状の詳細は以下の通りです。
塞栓部位 | 主な症状 |
---|---|
脳 | 片麻痺、意識障害、けいれん発作 |
脾臓 | 左上腹部痛 |
腎臓 | 血尿、側腹部痛 |
肺 | 胸痛、呼吸困難 |
末梢血管病変として特徴的な所見もあります。
診断には修正Duke診断基準が用いられ、血液培養と心エコー検査が中心となります。経胸壁心エコー検査で描出困難な場合は、経食道心エコー検査が有用です。
感染性心内膜炎の治療は長期間の抗菌薬療法が基本となります。疣贅や弁組織は血流が乏しく、病原微生物を死滅させるには高用量の抗菌薬を長期投与する必要があります。
投与期間。
起炎菌別の治療薬選択。
原因菌 | 第一選択薬 | 代替薬 |
---|---|---|
レンサ球菌属 | ペニシリンG、アンピシリン | バンコマイシン、セフトリアキソン |
ブドウ球菌属(MSSA) | セファゾリン、ナフシリン | バンコマイシン |
ブドウ球菌属(MRSA) | バンコマイシン | ダプトマイシン、リネゾリド |
経験的治療(起炎菌不明時)。
MRSAリスクがある場合。
MRSAリスクが低い場合。
抗菌薬は一般的に静注で投与され、2-8週間の投与が必要なため、在宅静注療法が行われることもあります。治療中断は再発リスクを高めるため、持続静注採用時は点滴の長時間中断を避ける必要があります。
感染性心内膜炎は多彩で重篤な合併症を引き起こす可能性があります。主要な合併症とその対応について解説します。
心血管系合併症。
塞栓症合併症。
塞栓症は治療開始2週間以内に発生することが多く、以下の臓器障害を引き起こします。
感染コントロール困難例。
抗菌薬治療にもかかわらず以下の状況では、真菌性心内膜炎の可能性も考慮する必要があります。
脳塞栓症を併発した患者では、出血リスクを考慮して抗凝固療法は控えるべきです。また、カテーテルやその他の器具に付着したバイオフィルムに覆われた微生物は抗菌薬療法に反応せず、治療失敗や再発の原因となるため、感染した器具の抜去が重要です。
抗菌薬治療のみでは対応困難な場合、外科的治療が必要となります。手術適応の判断は心臓血管外科との連携が不可欠です。
手術適応。
予防投与の適応。
感染性心内膜炎のハイリスク群では、特定の侵襲的処置前に予防投与が推奨されます。
ハイリスク群。
予防投与が推奨される処置。
近年、薬剤耐性菌による感染性心内膜炎の増加が問題となっており、治療戦略の見直しが求められています。
薬剤耐性の課題。
MRSA(メチシリン耐性ブドウ球菌)による感染性心内膜炎では、バンコマイシンが第一選択薬となりますが、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)やバンコマイシン中等度耐性ブドウ球菌(VISA)の出現により、治療選択肢が限られる場合があります。
新しい治療選択肢。
バイオフィルム対策。
感染した医療器具やカテーテルに形成されるバイオフィルムは、抗菌薬の浸透を阻害し治療抵抗性の原因となります。このため、感染源となる器具の早期除去と適切な抗菌薬選択が重要です。
個別化治療の重要性。
患者の腎機能、年齢、基礎疾患を考慮した個別化治療が求められます。特に高齢者では腎機能低下により薬物動態が変化するため、血中濃度モニタリングを活用した治療調整が必要です。
長期治療における課題。
2-8週間の長期静注療法では、血管アクセスの確保、薬剤による副作用(腎毒性、聴器毒性など)、院内感染のリスクを考慮する必要があります。在宅静注療法の適応や、経口薬への切り替えタイミングの判断も重要な課題です。
感染性心内膜炎の治療成功には、早期診断、適切な抗菌薬選択、十分な治療期間の確保、合併症への迅速な対応、そして多職種チームによる包括的な管理が不可欠です。薬剤耐性菌の増加という新たな課題に対しても、最新のエビデンスに基づいた治療戦略の構築が求められています。
参考資料として以下のリンクも確認されることをお勧めします。
日本心臓病学会のガイドラインには最新の診断・治療指針が掲載されています
MSDマニュアル感染性心内膜炎
鹿児島大学病院感染制御部による抗菌薬使用指針
鹿児島大学病院 感染性心内膜炎治療指針