高カリウム血症は透析患者において生命に関わる重要な合併症であり、適切なカリウム吸着薬の選択が治療成功の鍵となります。現在日本で使用可能なカリウム吸着薬は大きく4種類に分類され、それぞれ異なる作用機序を持っています。
ポリマー系カリウム吸着薬は、ポリスチレンスルホン酸を基本骨格とする陽イオン交換樹脂で、主に結腸付近でカリウムイオンを他の陽イオンと交換することで効果を発揮します。一方、非ポリマー系薬剤は全消化管でカリウム吸着を行い、より迅速な効果が期待できる特徴があります。
カリメート(ポリスチレンスルホン酸カルシウム)は、体内のカルシウムをカリウムと交換して便中に排泄する作用機序を持つ、従来から広く使用されているカリウム吸着薬です。1日15~30gを2~3回に分けて服用し、水30~50mLに懸濁して投与します。
アーガメイトゼリーは、カリメートと同じ有効成分をゼリー状に製剤化した画期的な薬剤で、従来の散剤の服用困難性を大幅に改善しました。口に入れた瞬間の熱感と砂のようなザラツキ感が軽減され、高齢者の嗜好性が高く、服用時の飲水量も低減されるため、水分制限のある透析患者に特に有用です。
注意すべき副作用として便秘があり、重篤な場合には腸管穿孔、腸閉塞、大腸潰瘍を引き起こす可能性があります。過量投与を防ぐため、規則的に血清カリウム値及び血清カルシウム値を測定しながら投与することが重要です。
ケイキサレート(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム)は、体内のナトリウムとカリウムを交換して便中に排泄する薬剤で、カリメートとの主な違いは交換するイオンの種類にあります。ナトリウムを放出し、浸透圧により便に水分を含ませるため、他のカリウム吸着薬と比較して便秘を起こしにくいという特徴があります。
しかし、ケイキサレートは消化器関連の副作用が多いことでも知られており、過去には腸出血、腸管裂孔、腸閉塞などの重篤な合併症の報告があります。特に高齢患者や長期透析患者では、消化管の状態を慎重に観察しながら使用する必要があります。
災害時には食糧不足や透析不足により高カリウム血症のリスクが高まるため、非常持ち出し袋に常時入れておくことが推奨されています。薬剤費を抑えたい場合の第一選択薬としても位置づけられます。
ロケルマ(ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物)は、2020年にアストラゼネカから発売された、45年ぶりの新規カリウム吸着薬です。不溶性かつ非吸収性のジルコニウムナトリウム環状ケイ酸化合物で、選択性の高いカリウム吸着剤として作用します。
ロケルマの最大の特徴は、消化管内のカリウムイオンと水素イオン・ナトリウムイオンを選択的に交換することです。微細孔構造の孔径がカリウムイオンの直径(2.98Å)に近い平均約3Åであるため、1価の陽イオンを選択的に捕捉し、2価の陽イオン(Mg²⁺、Ca²⁺)への影響を与えません。
上部から下部消化管までの全消化管でカリウム捕捉が行われるため、従来のポリマー性陽イオン交換樹脂より迅速なカリウム低下作用が期待できます。無味無臭で室温保存が可能な経口投与製剤として設計されており、患者の服薬コンプライアンス向上に寄与します。
適応となる患者像。
ビルタサ(パチロマーソルビテクスカルシウム)は、2024年9月に承認された最新のカリウム吸着薬で、ナトリウムを含まない非吸収性の陽イオン吸着ポリマーです。機序的にはカリメートと同じくカルシウム含有のポリマー製剤ですが、より少量の水(1包あたり約40~80mL)で服用可能な1日1回投与の製剤として開発されました。
従来のカリウム吸着薬と比較して、ビルタサは服薬回数の削減により患者の負担軽減と服薬コンプライアンス向上が期待できます。水に懸濁させて服用する点は他の薬剤と同様ですが、調製時の利便性が向上しています。
適応患者の選択基準。
副作用プロファイルや長期安全性については、今後の臨床データの蓄積が重要となります。特に透析患者における長期使用時の有効性と安全性の検証が待たれます。
臨床現場でのカリウム吸着薬選択は、患者の病態、併存疾患、生活環境を総合的に考慮して決定する必要があります。各薬剤の特性を理解し、個々の患者に最適な治療選択を行うことが重要です。
心不全患者では、ナトリウム負荷を避けるためカリメートやビルタサが第一選択となります。水分制限が必要な患者では、アーガメイトゼリーや高用量投与時のロケルマ・ビルタサが有用です。薬剤費を抑制したい場合は、従来からあるカリメートやケイキサレートが選択されます。
服薬コンプライアンスに問題がある患者では、1日1回投与のロケルマやビルタサが推奨されます。ただし、ビルタサは冷所保管が必要な点を考慮する必要があります。腸閉塞の既往がある患者では、全消化管で作用するロケルマが安全性の観点から有利とされています。
災害時の備蓄という観点では、室温保存可能なカリメート、ケイキサレート、ロケルマが適しており、特に携行性を考慮するとアーガメイトゼリーが実用的です。
透析医療の質向上において、カリウム吸着薬の適切な選択と使用法の習得は必須のスキルです。各薬剤の特性を十分に理解し、患者背景に応じた個別化医療を実践することで、より良い治療成果が期待できます。