コルチゾールは副腎皮質から分泌される糖質コルチコイドの代表的なホルモンで、生体にとって必須の機能を担っています 。その分泌は視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA軸)によって精密に制御されており、ストレスを感じると視床下部からコルチコトロピン放出ホルモン(CRH)が分泌され、下垂体に作用して副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の放出を促します 。
参考)https://wsc-clinic.com/blog/acne/cortisol/
ACTHは血流を通じて副腎皮質に到達し、コルチゾールの分泌を刺激する仕組みになっています。また、コルチゾールには負のフィードバック機構があり、血中濃度が高くなると脳のネガティブフィードバック機構によって自身の分泌が抑制され、濃度を低く保つように調節されています 。
参考)https://institute.yakult.co.jp/dictionary/word_3807.php
視交叉上核にある体内時計が、コルチゾールの日内リズムをコントロールしており、通常は起床2時間前にピークを迎え、就寝時間に近づくにつれて徐々に減少していきます 。このリズムが乱れると、寝る時間になってもコルチゾール量が減らず、寝付けなくなったり睡眠の質が下がったりします 。
参考)https://www.aska-pharma.co.jp/media_men/column/cortisol-reduce/
コルチゾールの主な生理的機能には、糖新生の促進、抗ストレス作用、抗炎症・免疫抑制作用が含まれます 。糖新生において、筋肉中のタンパク質をアミノ酸に分解し、肝臓でブドウ糖に合成する過程を促進します。早朝など血糖値が低下しているときに、この働きによって血糖値を上昇させる重要な役割を果たしています 。
参考)https://kentei.healthcare/column/2202/
抗ストレス作用では、ストレスを感じると交感神経を刺激し、体の緊張状態を保ちます。脈拍や血圧を上昇させて脳を覚醒させ、危険な状況に対処できるよう身体を準備状態にします 。
さらに、コルチゾールは脂肪分解作用も持ち、糖新生が起こっている状況で脳以外の場所でもエネルギー不足にならないよう脂肪を分解してエネルギー供給を促します 。急性ストレスで分泌されるコルチゾールは、脂質分解作用(リポリーシス)を有し、糖質、脂質、アミノ酸のミトコンドリア利用を亢進させる異化作用を示します 。
参考)https://www.ryudai2nai.com/doc/Lipid201201_01.pdf
慢性的なストレスによってコルチゾールが過剰に分泌されると、様々な健康問題が生じます。まず、コルチゾールは肝臓で糖新生を促し血糖を上昇させるため、慢性的なストレス状態は空腹時血糖やHbA1cの上昇につながります 。
参考)https://www.kamata-yamada-cl.com/%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%9E%E3%83%8D%E3%82%B8%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88%EF%BC%9A%E3%82%B3%E3%83%AB%E3%83%81%E3%82%BE%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%81%A8%E4%BB%A3%E8%AC%9D%E3%81%AE%E9%96%A2/
長期間のコルチゾール分泌亢進は、免疫抑制作用により免疫力が低下し、感染症やがんなどの発症リスクの増加をもたらします 。また、脳の海馬を委縮させることが分かっており、これがうつ病、不眠症などの精神疾患、生活習慣病などのストレス関連疾患の一因となります 。
コルチゾールの過剰分泌は皮膚にも影響を与え、皮脂分泌の増加や肌のバリア機能低下を引き起こし、肌荒れやニキビなどの肌トラブルの原因となります 。さらに、筋肉でのタンパク質合成抑制と分解促進により筋力低下をもたらし、骨粗鬆症のリスクも高まります 。
参考)https://www.genken.nagasaki-u.ac.jp/genetech/genkenbunshi/pdf/H23.12.14.pdf
副腎疲労症候群は、長期にわたるストレスにより副腎が疲れて必要なタイミングでコルチゾールが分泌できなくなる状態です 。症状には慢性的な疲労感、うつ症状、不安・怒り、朝起きられない、不眠といった睡眠障害、頭にもやがかかる(ブレインフォグ)、関節痛、月経困難、めまい・立ちくらみなどがあります 。
参考)https://www.miyamotocl.com/blog_nutrition/adrenal-fatigue/
副腎疲労の診断には唾液中コルチゾール検査が用いられ、1日4回(もしくは6回)唾液を採取し、唾液中のコルチゾール量を測定します 。この検査により、コルチゾールの日内変動パターンを評価し、副腎疲労のステージを判断できます。副腎疲労抵抗期では元気でバリバリ動けている一方、疲弊期になると朝起きられず、午前中はぐったりして夕方になってやっと元気が出るという状態が多く見られます 。
採血に比べて体への負担も少なく、自宅で簡単に検体を採取できる利点があり、必要に応じてコルチゾール以外にDHEA(副腎から分泌される別のホルモン)も測定されます 。
参考)https://th-clinic.com/fukujinmatome/
コルチゾールレベルを適正に保つためには、まず運動習慣の確立が重要です。汗ばむくらいの軽めの有酸素運動(ウォーキング、軽いジョギング、サイクリング、ダンスなど)を生活に取り入れることで、ストレスを軽減し、コルチゾールの分泌をコントロールできます 。ただし、運動を嫌々やるのはかえってストレスになるため、つらいと感じない程度の運動を習慣化することが大切です 。
参考)https://wafflegym.com/2024/09/15/%E3%82%B3%E3%83%AB%E3%83%81%E3%82%BE%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%81%A8%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%81%AE%E9%96%A2%E4%BF%82%E6%80%A7%E3%82%92%E7%90%86%E8%A7%A3%E3%81%97%E3%80%81%E5%8A%B9%E6%9E%9C/
食事面では、コルチゾールを抑える栄養素の摂取が効果的です。ビタミンC、オメガ3脂肪酸、マグネシウムなどがコルチゾールの分泌を抑えるのに役立ちます 。オレンジやパプリカなどのビタミンCを豊富に含む食品、サーモンやチアシードなどのオメガ3を含む食品、ほうれん草やナッツ類からマグネシウムを摂取することが推奨されます 。
サプリメントとしては、アシュワガンダ、オメガ3脂肪酸、マグネシウム、L-テアニンなどが効果的とされています 。アシュワガンダは伝統的なアーユルヴェーダ医学で使用され、現代の研究でもストレスを和らげ、コルチゾールレベルを正常化する効果が示されています 。
参考)https://benedlife.com/ja-hk/blogs/news/supplements-to-reduce-cortisol
睡眠リズムを整えることも重要で、コルチゾールは睡眠リズムに合わせて分泌されるため、規則正しい睡眠が不可欠です 。さらに、趣味を楽しむ時間やリラックスする時間を意識的に作り、慢性的なストレスから離れる機会を持つことが副腎疲労の改善に役立ちます 。