強直性脊椎炎(Ankylosing Spondylitis:AS)は、主に脊椎や仙腸関節に炎症を引き起こす慢性の自己免疫疾患です。この疾患の名前の「強直性」とは、病気が進行すると関節が硬直し動かなくなることを意味しています。日本では指定難病(指定難病271)に指定されており、比較的希少な疾患とされています。
特筆すべきは、強直性脊椎炎が主に若い世代、特に10〜20代の男性に好発することです。欧米に比べて日本での有病率は低いものの、見過ごされがちな疾患であるため、実際の患者数は統計よりも多い可能性があります。多くの場合、発症は45歳未満で起こり、明確な誘因なく腰や背中、殿部に痛みが現れます。
強直性脊椎炎の発症には遺伝的要因が大きく関与しており、特にHLA-B27という特定の遺伝子との関連性が強いことが研究で明らかになっています。ただし、HLA-B27を持つすべての人が発症するわけではなく、環境要因や他の遺伝的素因も複合的に関係していると考えられています。
疾患の進行過程では、通常、仙腸関節から炎症が始まり、徐々に脊椎全体に広がっていきます。進行すると、椎体に付着する靭帯や骨膜が骨化し、脊椎が一本の棒のように固まっていく「竹様脊柱(bamboo spine)」と呼ばれる特徴的な状態を呈することがあります。X線写真では、四角い椎体が竹節状に並ぶ典型的な所見が確認できます。
関節リウマチとは異なり、強直性脊椎炎は主に体の中心部(脊椎や骨盤)に影響を与え、進行もより緩やかであることが多いという特徴があります。また、病態メカニズムや治療反応性も異なるため、正確な診断と専門的な治療が求められます。
強直性脊椎炎の症状は多岐にわたりますが、中でも最も特徴的なのは「痛みのパターン」です。一般的な腰痛と異なり、強直性脊椎炎による痛みは以下の独特なパターンを示します。
🔹 安静時悪化・運動時改善:安静にしていると痛みが強くなり、逆に体を動かすことで痛みが軽減するという特異的なパターンが見られます。これは一般的な腰痛とは正反対の性質です。
🔹 朝のこわばり:朝起床時や長時間同じ姿勢を続けた後に強い関節のこわばりを感じることが多く、動き始めてしばらくすると改善する傾向があります。
🔹 夜間痛:夜間に痛みで目が覚めることも特徴的で、起き上がって体を動かすことで症状が和らぐことがあります。
🔹 炎症性腰痛:3ヶ月以上続く慢性的な腰痛や殿部痛で、特に45歳未満で発症する場合は本疾患を疑う重要なサインです。
典型的な症状の進行としては、初期段階では腰部や殿部の痛みが主訴となり、次第に背部全体に痛みが広がっていきます。進行に伴い、以下のような症状も現れることがあります。
関節症状。
脊椎外症状。
病気の進行度は個人によって大きく異なり、軽度の症状のみで経過する場合もあれば、重度の脊椎強直に至る場合もあります。発症した全員の脊椎が完全に強直するわけではなく、高齢になるまでに全脊椎が強直する割合は約1/3とされています。
特に若年患者の場合、これらの症状が単なる「成長痛」や「疲労」と誤認されることがあるため、特徴的な痛みのパターンを理解し、早期発見につなげることが重要です。
強直性脊椎炎の診断は、症状の特徴、画像検査、血液検査などを総合的に評価して行われます。特に早期診断が重要となるため、以下の診断プロセスと早期発見のポイントについて理解しておくことが必要です。
診断のための検査
🔍 画像診断。
🩸 血液検査。
早期発見のポイント
強直性脊椎炎は早期発見が難しい疾患ですが、以下の特徴的なサインに注目することで早期診断の可能性が高まります。
医療機関を受診する際には、腰痛の特徴(いつ痛みが強くなるか、何をすると楽になるかなど)を詳細に伝えることが重要です。また、眼の異常や皮膚症状なども関連症状として伝えるべきです。
早期診断・早期治療によって病気の進行を抑制し、患者のQOL(生活の質)を維持することが可能です。特に若年者の慢性腰痛を診る際には、強直性脊椎炎の可能性を常に念頭に置くことが、見逃しを防ぐ上で重要といえます。
強直性脊椎炎の治療目標は、痛みや炎症の軽減、機能障害の予防、そして患者のQOL向上です。現時点で根治療法は確立されていませんが、適切な治療により症状のコントロールが可能です。以下に主な治療アプローチを解説します。
薬物療法
📋 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)。
📋 従来型疾患修飾性抗リウマチ薬(cDMARDs)。
📋 生物学的製剤(bDMARDs)。
📋 グルココルチコイド(ステロイド)。
非薬物療法
🏊 運動療法・理学療法。
外科的治療