経口の卵胞ホルモン製剤は、主に3つの成分に分類されます。
結合型エストロゲン製剤(プレマリン錠)
プレマリン錠0.625mgは、馬尿由来の結合型エストロゲンを含有し、主にカウフマン療法で使用されます。第2度無月経の治療では、消退出血7日目から7日間投与し、その後プラノバール錠と組み合わせる方法が一般的です。プレマリンの特徴として、複数のエストロゲン成分が含まれているため、代謝産物による多彩な作用が期待できる一方、個体差による反応の予測が困難な場合があります。
17β-エストラジオール製剤(ジュリナ錠)
ジュリナ錠0.5mgは、天然型エストロゲンである17β-エストラジオールを含有し、主にホルモン補充療法(HRT)で使用されます。子宮を有していない患者では1錠/日から開始し、症状改善が不十分な場合は2錠/日まで増量可能です。17β-エストラジオールは人体で産生される天然のエストロゲンと同一の構造を持つため、生理的な作用を期待できる点が大きな利点です。
エストリオール製剤(エストリール錠)
エストリール錠1mgは、比較的弱いエストロゲン活性を持つエストリオールを含有します。全身的な更年期症状が軽微で、主に泌尿生殖器系の萎縮症状が問題となる患者や、高齢者に適しています。エストリオールは核内滞留時間が短く、子宮内膜増殖作用が弱いという特徴があります。
経皮薬は肝臓での初回通過効果を回避でき、胃腸障害のある患者に特に有用です。
貼付剤(エストラーナテープ)
エストラーナテープ0.72mgは、2日に1回貼り替える貼付剤で、安定した血中濃度の維持が可能です。入浴や軽度の運動でも剥がれにくく設計されており、皮膚接触面積が一定のため、用量調整が比較的容易です。ただし、皮膚の敏感な部位への貼付は避け、同一部位への連続貼付は皮膚刺激を避けるため推奨されません。
ゲル剤(ル・エストロジェル、ディビゲル)
ル・エストロジェル0.54mg/1プッシュは、プッシュ式容器で1プッシュ(低用量)から2プッシュ(通常量)まで細かい用量調整が可能です。一方、ディビゲル1mg/包は個包装タイプで、1日1包を皮膚に擦り込みます。ゲル剤の利点として、塗布部位を選択でき、かつ目立たないため患者の生活の質(QOL)向上に寄与します。
両製剤とも乾燥後は透明となり、衣類への移行は最小限です。ただし、塗布後1時間は塗布部位を濡らさないよう指導が必要です。
卵胞ホルモン製剤の重篤な副作用として血栓症があり、適切なリスク評価と管理が不可欠です。
血栓症の発症機序と頻度
エストロゲンには血液凝固因子の産生促進作用があり、静脈血栓塞栓症のリスクを増加させます。発症頻度は10万人に3~4人と報告されており、特に投与開始後4ヶ月以内にリスクが高くなります。
リスク因子の評価
血栓症のリスク因子として、ウィルヒョウの3徴(血管壁損傷、血液凝固能亢進、血流のうっ滞)が重要です。特に35歳以上で1日15本以上の喫煙者では顕著にリスクが増加するため、禁煙指導が必須となります。その他、肥満、手術歴、悪性腫瘍、血栓症の既往なども慎重に評価する必要があります。
経皮薬による血栓症リスクの軽減
経皮薬は肝臓での初回通過効果を回避するため、凝固因子への影響が経口薬と比較して少ないとされています。このため、血栓症のリスクが中等度の患者では、経皮薬を優先的に選択することが推奨されます。
患者の病態、年齢、合併症、生活環境を総合的に評価し、最適な製剤選択を行うことが重要です。
患者背景による製剤選択
胃腸障害や肝機能異常のある患者では経皮薬を、コンプライアンスに問題がある患者では長時間作用型の貼付剤を選択します。また、泌尿生殖器系の局所症状が主体の場合は、腟内薬の併用も検討します。
プロゲスチン併用の必要性
子宮を有している患者では、エストロゲン単独投与による子宮内膜癌のリスクを回避するため、プロゲスチン製剤の併用が必須です。2021年に発売されたエフメノカプセル(天然型プロゲステロン)は、乳癌リスクを上昇させないという利点があり、HRTにおける新たな選択肢となっています。
モニタリングと効果判定
治療開始後は定期的な症状評価、副作用チェック、必要に応じた血液検査を実施します。特に血栓症の初期症状(下肢の痛み・むくみ、胸痛、頭痛、視覚異常等)について患者教育を徹底し、異常時は即座に投薬中止と専門医受診を指導します。
従来の投与経路に加え、新しい製剤開発と臨床応用が進んでいます。
鼻腔内投与製剤の可能性
海外では鼻腔内投与のエストロゲン製剤の開発が進んでおり、経皮薬と同様に肝臓での初回通過効果を回避しつつ、より迅速な効果発現が期待されています。また、投与の簡便性と用量調整の容易さから、今後の臨床導入が注目されています。
長時間作用型製剤の開発
現在の貼付剤は2日毎の交換が必要ですが、1週間から1ヶ月程度の長時間作用型製剤の開発が進行中です。これにより患者のコンプライアンス向上と、より安定した血中濃度の維持が可能となることが期待されます。
個別化医療における薬物動態学的アプローチ
遺伝子多型による薬物代謝酵素の活性差を考慮した製剤選択が、将来的には標準化される可能性があります。CYP3A4やCYP1A2の遺伝子型に基づく用量調整により、より安全で効果的な治療が実現できると考えられています。
日本産科婦人科学会のホルモン補充療法ガイドラインには、エストロゲン製剤の詳細な使い分けについて記載されています。
日本産科婦人科学会診療ガイドライン
厚生労働省の医薬品医療機器総合機構(PMDA)では、各エストロゲン製剤の最新の安全性情報を確認できます。