軽度のMCL損傷でも、安静だけでは再受傷率が約40%に上るというデータがあります。
内側側副靭帯(MCL:Medial Collateral Ligament)は、大腿骨内側上顆から脛骨内側に走行する帯状の靭帯で、膝関節の外反ストレスおよび外旋ストレスに対する一次制動構造として機能します。MCLは表層と深層の2層構造を持ち、表層MCLは長さ約10〜12cm(ほぼ名刺の縦幅)と比較的長い靭帯です。深層MCLは関節包と一体化しており、半月板とも連結しています。
損傷グレードはⅠ〜Ⅲ度に分類されます。Ⅰ度(軽度)は靭帯線維の微細断裂にとどまり、靭帯の連続性は保たれている状態を指します。外反ストレステストでは不安定性を認めず、疼痛は局所圧痛として現れるのが典型です。Ⅱ度は部分断裂、Ⅲ度は完全断裂であり、管理方針が大きく異なるため、グレード判別は治療の出発点として重要です。
受傷機転として最も多いのは、膝関節に外反力が加わるコンタクトスポーツでの接触(アメリカンフットボール、サッカー、柔道など)です。一方、非接触での受傷もあり、着地時の膝外反・内旋複合動作が原因となるケースも臨床では頻繁に見られます。特にACL損傷との合併は有名ですが、軽度MCL損傷単独でも、動的安定性の低下が膝全体のバイオメカニクスに影響を与えるため、軽視は禁物です。
つまり「Ⅰ度=大したことない」という認識は誤りです。
軽度MCL損傷の評価において、徒手検査の精度と限界を理解しておくことは臨床上きわめて重要です。代表的な検査である外反ストレステストは、0°と30°屈曲位それぞれで行います。Ⅰ度損傷では30°屈曲位でも不安定性(3mm未満の開大)を示さないことが多く、「検査陰性=損傷なし」とは断言できません。圧痛部位の確認(大腿骨内側上顆、関節裂隙、脛骨付着部)を丁寧に行うことが、Ⅰ度損傷の診断精度を高めます。
画像評価では、単純X線で骨折・裂離骨折を除外し、MRIでMCLの信号変化(T2高信号)を確認するのが標準的な流れです。Ⅰ度損傷のMRI所見は靭帯周囲の浮腫が主体で、線維の不連続性は見られません。ただし、MRIの感度・特異度は施設や読影者によってばらつきがあるため、臨床所見との統合判断が不可欠です。これが原則です。
見落としやすいポイントとして、後斜靭帯(POL)や後内側関節包の合併損傷があります。POLはMCL深層と協調して膝の内旋制動に関わっており、POLを見落とすと後内側回旋不安定性が残存するリスクがあります。後内側部に圧痛がある場合や、外反・外旋複合ストレスで疼痛が増強する場合は、POL損傷の合併を念頭に置いた精査が必要です。
また、成長期の患者では骨端線損傷との鑑別が必要な点も忘れてはなりません。画像評価を省略せず行うことは、医療従事者の責務といえます。
参考:日本整形外科学会による膝靭帯損傷の診療ガイドライン概要
日本整形外科学会「膝靭帯損傷」患者向け解説ページ(靭帯損傷の分類・治療方針について記載あり)
軽度MCL損傷の治療は、基本的に保存療法で完結します。急性期(受傷後0〜72時間)はPRICE(Protection・Rest・Ice・Compression・Elevation)が原則です。アイシングは1回15〜20分を目安に2〜3時間おきに実施し、圧迫包帯は末梢循環を確認しながら適用します。この段階での過度な固定は関節拘縮や筋萎縮を招くため注意が必要です。
受傷後3日〜1週程度を目安に、疼痛が軽減したら亜急性期リハビリへ移行します。この時期はROM(関節可動域)訓練と大腿四頭筋・ハムストリングスの等尺性収縮訓練を開始します。軽度損傷では荷重歩行を早期に開始しても問題ありません。完全免荷の継続はむしろ筋力低下と回復遅延につながるという報告があります。早期荷重が基本です。
機能的リハビリ期(受傷後2〜4週以降)では、CKC(閉鎖運動連鎖)訓練を中心に据えた筋力強化と、プロプリオセプション訓練を並行して行います。スクワット・レッグプレス・ステップアップといった実用動作に近い訓練が有効です。特にプロプリオセプション訓練(片脚立位・バランスボード・不安定面での動的訓練)は、MCL損傷後の動的安定性回復において見過ごされやすいですが、再受傷予防の観点から欠かせません。
テーピングやブレーシングについては、軽度損傷に対してヒンジ付きブレース(機能的膝装具)を使用するエビデンスは限定的ですが、スポーツ復帰直後の保護として選択肢になります。患者の活動レベルと不安感の程度に応じて判断するとよいでしょう。
| 時期 | 目安期間 | 主な介入内容 |
|---|---|---|
| 急性期 | 0〜72時間 | PRICE処置・免荷または部分荷重・疼痛管理(NSAIDs) |
| 亜急性期 | 3日〜1週 | ROM訓練・等尺性筋力訓練・早期荷重開始 |
| 機能的リハビリ期 | 2〜4週〜 | CKC筋力訓練・プロプリオセプション訓練・スポーツ特異的動作 |
| スポーツ復帰期 | 3〜6週〜 | 段階的復帰プログラム・再評価・ブレーシング検討 |
スポーツ復帰の時期は「受傷後3〜6週」という期間が一般に示されていますが、この数字だけで復帰を判断するのは不十分です。臨床では、患者の競技特性・ポジション・接触の頻度を踏まえた個別評価が求められます。期間はあくまで目安です。
機能的復帰基準として用いられる主な指標は以下のとおりです。
これらの基準を文書化して患者・チームスタッフ・コーチと共有することが、医療従事者として果たすべき役割のひとつです。口頭だけの説明では伝達ミスが生じやすく、早期復帰による再受傷リスクを高める可能性があります。記録に残すことが重要です。
復帰後のモニタリングも忘れてはなりません。スポーツ復帰後2週・4週・8週を目安にフォローアップ評価を設けることで、慢性不安定性や関連部位(ACL・半月板)への二次的ストレス増大を早期に察知できます。
軽度MCL損傷に対するリハビリで、靭帯の物理的修復だけに注目してしまうのは盲点になりやすいポイントです。実はMCLとその周囲組織には多数のメカノレセプター(ルフィニ終末・パチニ小体・自由神経終末など)が存在し、靭帯損傷に伴いこれらの受容器機能が低下することが示されています。
この受容器機能の低下は、膝関節の位置覚(関節位置覚・運動覚)の低下として現れ、動的安定性を担う神経筋協調性を阻害します。つまり、靭帯の修復だけを追っても、神経筋協調性が回復していなければ動作の安定性は戻りません。神経筋訓練は必須です。
具体的には、以下のような訓練が有効です。
このような神経筋訓練を体系的に組み込んだリハビリプログラムは、単純な筋力訓練のみのプロトコルと比較して、スポーツ復帰後の再受傷率を有意に低下させるという報告が複数あります。McKean et al.(2012年)のレビューでは、神経筋訓練を含む包括的プログラムが膝関節損傷全般の再受傷リスクを最大50%以上低減できると示唆されています。これは使えそうです。
神経筋訓練の導入を躊躇している場合、まず「片脚立位・閉眼・10秒保持」を評価として使うことをお勧めします。この課題でバランス崩れが頻発するようなら、神経筋訓練の優先度を上げる判断の根拠になります。
参考:日本スポーツ整形外科学会(JSOA)による関連情報ページ
日本スポーツ整形外科学会(JSOA)公式サイト(スポーツ外傷・靭帯損傷に関する診療情報・ガイドライン関連資料が参照できます)
軽度MCL損傷は「治った」と感じやすい損傷です。疼痛消失が比較的早いため、患者が自己判断でリハビリを中断するケースが少なくありません。しかし疼痛消失と組織修復の完了は必ずしも一致しません。これが落とし穴です。
コラーゲン線維のリモデリングには受傷後6〜12週を要するとされており、特に靭帯付着部は修復が遅い部位です。疼痛が消えても靭帯の機械的強度は完全に回復していない段階があるため、この時期のコンタクトや急激な方向転換は再受傷リスクを高めます。患者への説明資料としてこの時系列を視覚化したものを準備しておくと、アドヒアランス向上に役立ちます。
長期的な再受傷予防策として、以下の3点が実践的です。
また、軽度MCL損傷を繰り返すケースでは、膝アライメント(外反膝・扁平足など)や体幹・股関節の機能的問題が根本にある場合があります。足底板や体幹安定化訓練といった下位・上位構造への介入も視野に入れた包括的評価が、長期的な再受傷防止につながります。
膝周囲の筋群(特に内側広筋斜頭・ハムストリングス・大殿筋)の持続的な強化は、長期にわたる内側安定性の維持に貢献します。薬物治療や手術への依存を減らす観点でも、運動療法の継続は長期コスト削減という現実的なメリットにもつながります。再受傷を防ぐことが最大の治療です。
参考:日本理学療法士協会による膝関節リハビリテーション関連情報
日本理学療法士協会公式サイト(理学療法診療ガイドラインや膝関節疾患の診療指針に関連する情報が掲載されています)

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