筋萎縮 症状から診断 治療 リハビリまで

筋萎縮は筋力低下や運動機能障害を引き起こす重要な症状です。原因疾患の種類、特徴的な症状の現れ方、診断方法から効果的なリハビリテーションまで、医療従事者として知っておくべき筋萎縮の基礎知識を網羅的に解説します。筋萎縮への適切なアプローチをどう構築すべきでしょうか?

筋萎縮の症状と原因

筋萎縮の主な特徴
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筋肉量の減少

筋線維が細くなり、筋肉全体のボリュームが低下します

筋力低下

日常動作が困難になり、運動機能が段階的に低下します

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神経原性と筋原性

運動神経障害か筋肉自体の病変かで病態が異なります

筋萎縮とは、筋肉がやせ細り、筋力低下を伴う状態を指します。筋萎縮は大きく分けて神経原性筋萎縮と筋原性筋萎縮の2種類に分類され、それぞれ異なるメカニズムで発症します。神経原性筋萎縮は、脊髄の前角細胞から筋肉に至る運動ニューロンの障害により生じ、筋肉に指令や栄養を供給する神経系に原因があります。一方、筋原性筋萎縮は筋肉そのものに原因がある病態です。
参考)https://www.itsuki-hp.jp/radio/kako-100711

筋萎縮の発生メカニズムは複雑で、加齢、神経障害、炎症、代謝異常、廃用など多様な要因が関与します。特にサルコペニアでは、神経筋接合部の機能不全やミトコンドリア機能障害が重要な病理学的役割を果たしています。また、糖尿病、長期臥床、栄養不良、肥満、アルツハイマー病などの代謝性疾患でも骨格筋萎縮が頻繁に認められます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10789655/

筋萎縮の原因となる疾患は多岐にわたります。神経変性疾患では筋萎縮性側索硬化症(ALS)や脊髄性筋萎縮症(SMA)が代表的で、神経免疫疾患ではギランバレー症候群や慢性炎症性脱髄性多発根神経炎があります。筋原性疾患としては筋ジストロフィーや多発性筋炎が挙げられます。頸椎症や後縦靱帯骨化症などの機械的圧迫、糖尿病性神経障害、ビタミンB群欠乏なども筋萎縮の原因となります。​

筋萎縮性側索硬化症の症状

 

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動ニューロンが主に障害される進行性の神経変性疾患です。手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて力がなくなっていきます。脳から「手足を動かせ」という命令が伝わらなくなることにより、力が弱くなり、筋肉がやせていきますが、体の感覚、視力や聴力、内臓機能などはすべて保たれることが普通です。
参考)筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2) href="https://www.nanbyou.or.jp/entry/52" target="_blank">https://www.nanbyou.or.jp/entry/52amp;#8211; …

ALSの初期症状は発症様式により異なります。上肢型(古典型)では、多くの場合、手指の使いにくさや指先の麻痺、手の筋萎縮で発症し、進行すると筋のピクつきや関節の痛みもみられます。下肢型では、歩行時のつっぱりが初期には多くみられ、進行すると足の麻痺、転倒しやすい、筋萎縮などが加わります。球型(進行性球麻痺)では、話しにくい、食べ物がのみ込みにくいといった球麻痺症状が主体となります。
参考)筋萎縮性側索硬化症(ALS)の基礎知識と療養のポイント - …

球麻痺症状としては、顔・舌・のどの麻痺、筋萎縮があらわれます。具体的には、しゃべりにくく意思が伝わらずイライラする構音障害、かみにくい・かまずに飲み込む・口元からこぼれる・よだれがでるといった口腔期嚥下障害、飲み込みにくい・鼻に食べ物が逆流する・喉に残る・つまる・むせるといった咽頭期嚥下障害が認められます。これらの嚥下障害により食事に時間がかかる、疲労する、十分に食事が取れず体重減少が進みます。
参考)ALSの早期受診と診断|ALS最前線|筋萎縮性側索硬化症の情…

症状は進行性で、呼吸筋の筋力低下により呼吸障害が出現します。ALSの診断には、成人発症であること、経過が進行性であること、上位ニューロン徴候と下位ニューロン徴候の両方を認めること、筋電図所見を認めること、鑑別診断のいずれでもないことが必要です。
参考)ALSとは?症状や診断方法について解説|渋谷・大手町・みなと…

難病情報センター:筋萎縮性側索硬化症の症状と診断基準の詳細情報

脊髄性筋萎縮症の症状

脊髄性筋萎縮症(SMA)は、SMNタンパク質が減少しているために、脊髄にある運動神経細胞が変化して、体幹、二の腕や太ももを中心(四肢の近位部優位)に筋萎縮・筋力低下が起こる疾患です。それにより、手や足などが動かしにくくなり、立てない、うまく歩けないといった症状があらわれます。
参考)筋萎縮(きんいしゅく)とは|SMA用語集|With your…

SMAは症状の重症度により4つのタイプに分類されます。I型(重症型、ウェルドニッヒ-ホフマン病)は生後6カ月までに発症し、生後数週間で急激に運動機能の低下を認めます。乳児では筋緊張と反射がなく、吸うこと、飲み込むこと、そして最終的には呼吸も困難になります。呼吸筋の筋力低下のため呼吸不全を呈し、人工的な呼吸補助療法が必要となり、また嚥下障害も認め、胃瘻、経管栄養も必要となります。
参考)脊髄性筋萎縮症

II型(中間型、デュボビッツ病)は通常1歳6カ月までに発症し、お座りは可能ですが、支えなしでの起立、歩行はできないタイプです。より重症な症例では感冒に伴い呼吸不全を呈してくることがあり、また側彎などを含む関節拘縮も認めます。III型(軽症型、クーゲルベルグ-ウェランダー病)は1歳6カ月以降に発症することが多く、歩行はできるようになりますが、次第に転びやすい、歩けない、立てないといった運動症状が出てきます。IV型は成人期以降に発症し、軽度の筋力低下が主たる症状で、認知機能、呼吸器症状や消化器症状は認めません。​
SMAの初期症状としては、首のすわりが遅い、支えなしで座れないなど成長に合わせた動きがみられない、体が柔らかい、寝返りをしないなど体の動きが少ない、舌や指先が細かく震える、息を吸うときに胸がへこむといった特徴があります。SMAそのものの症状として、支えなしで座れない、うまく歩けないといった運動機能に関する症状のほか、手や足などに力が入らず動かしにくい、舌や指先が細かく震える、泣き声が弱いといった症状があらわれます。
参考)脊髄性筋萎縮症(SMA)の症状|With your SMA|…

国立精神・神経医療研究センター:脊髄性筋萎縮症の病型分類と症状の詳細

筋ジストロフィーの症状

筋ジストロフィーは、遺伝子異常によって筋線維の破壊・変性(筋壊死)と再生を繰り返しながら、次第に筋萎縮と筋力低下が進行していく疾患の総称です。遺伝型、発症年齢、臨床的経過などからいろいろな病型に分類されています。​
筋ジストロフィーの初期症状は病型や年齢によって異なりますが、共通して筋力低下や運動発達の遅れが目立ちます。具体的には以下のような症状が現れます。
参考)筋ジストロフィーの初期症状を現役医師が解説|原因や治療法もあ…

  • 歩行異常・転倒しやすい:階段の昇降が難しくなる、頻繁につまずく、転倒が増える
  • 筋力低下・疲れやすい:少しの運動で疲れやすくなる、階段の上り下りや走る動作が困難になる
  • 筋肉の変化:ふくらはぎが不自然に盛り上がるなど、筋肉の見た目が変わる(実際には筋力が低下している)
  • 発達の遅れ(乳幼児期の場合):首すわりや寝返り、歩行の開始が遅い、発達の節目でつまずきやすい

進行すると、筋肉の硬直や関節の可動域制限に加え、疲れやすさも見られるようになります。​
筋肉(骨格筋)の障害は、運動機能(歩いたり手を動かしたり)の低下だけでなく、さまざまな症状を引き起こします。咀嚼(かみ砕く)、嚥下(飲み込む)、構音(言葉の発音)機能の低下、眼瞼下垂(まぶたが垂れ下がる)、閉眼困難(目が閉じにくい)、眼球運動の障害、表情の乏しさなどが認められます。また、骨格筋の障害により拘縮(関節が硬くなり、動かせる範囲が狭くなる)・変形、骨粗しょう症(骨が弱くなる)、歯列不正(歯並びの乱れ)、咬合不全(かみ合わせの不良)、呼吸不全、咳嗽力低下(強い咳ができず、痰が出し切れない)、誤嚥(食物や唾液などが誤って気管に入ってしまう状態)・栄養障害なども起きます。
参考)病型と治療

心臓(心筋)や腸の運動(平滑筋)にも筋肉が関わるため、心不全不整脈(心筋障害)、胃腸の機能不全・便秘(平滑筋障害)といった症状も起きます。一部の病気では、筋肉の障害以外に中枢神経障害(知的障害、発達障害、けいれん)、眼症状(白内障、網膜症)、難聴なども合併することがあります。​
最も有名なデュシェンヌ型は、ジストロフィンという蛋白の異常によって男児に起こり、歩き始めてから歩き方がおかしかったり、よく転んだりして気づかれます。その後も進行して全身に筋萎縮がおよび20歳前には呼吸も出来なくなるという大変重篤な病気です。​
難病情報センター:筋ジストロフィーの多彩な症状と合併症について

筋萎縮の進行パターンと特徴

筋萎縮の進行パターンは原因疾患によって大きく異なります。ALSでは、上位・下位運動ニューロンの変性により全身の筋力低下が進行し、線維束性収縮の増加、針筋電図で神経原性変化が認められます。症状の進行に伴い関節拘縮が生じるため、定期的なリハビリが重要です。
参考)筋電図検査(筋電図 / Electromyography /…

サルコペニアは加齢に伴う急激な筋力低下を特徴とし、その原因としては筋萎縮および筋再生能の低下であると考えられています。筋力低下や運動機能の低下が主症状で、歩行速度の低下、握力の低下、骨格筋量の減少が認められます。体重減少、活動量の低下、疲労感、筋力低下、歩行速度の低下といったフレイルの症状とも関連します。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10801561/

呼吸筋の筋萎縮は特に重要で、呼吸筋力低下とサルコペニアの関連が研究されています。呼吸筋力低下を伴うサルコペニア群では、男性の割合が有意に高く、BMI、骨格筋指数、骨格筋量、位相角、口腔機能が低値で、すべての身体機能が有意に低下していました。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8701155/

廃用性筋萎縮は、過度に動かないことによって生じる筋力低下であり、長期臥床や活動制限により発症します。臥床ではなく離床することにより、荷重負荷がかかることで筋萎縮を予防し、骨芽細胞を活性化させるだけでなく、循環血液量の増加や換気機能の改善も期待できます。
参考)日常生活の注意点とリハビリについて|縁取り空胞を伴う 遠位型…

ミトコンドリア機能不全は骨格筋萎縮の発症に重要な役割を果たしており、酸化ストレス、炎症性サイトカインインスリン抵抗性、不活動などの複合的な要因が関与しています。集中治療を要する重症疾患、癌、慢性炎症を伴う疾患、神経疾患などでも筋萎縮と疲労が問題となります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10373380/

筋萎縮の合併症と全身への影響

筋萎縮は単なる筋力低下だけでなく、多様な合併症を引き起こします。最も損害的な影響は、機能障害による生活の質の低下、骨折リスクの増加、基礎代謝率の低下、骨密度の減少です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9917738/

呼吸器合併症として、呼吸筋力低下により呼吸不全が生じ、人工呼吸管理や痰を取り除くケアが必要となります。咳嗽力低下により強い咳ができず、痰が出し切れない状態となり、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。
参考)SMAのケア

嚥下機能障害は、飲み込む力が弱くなり、栄養障害や脱水のリスクが増大します。食事に時間がかかる、疲労する、十分に食事が取れず体重減少が進むという悪循環に陥ります。​
運動器合併症として、関節拘縮(関節が硬くなり、動かせる範囲が狭くなる)・変形、骨粗しょう症(骨が弱くなる)が生じます。背骨が曲がって脊柱側弯症を呈することもあります。​
循環器合併症では、心筋障害により心不全・不整脈が発症します。筋ジストロフィーでは運動機能の低下や呼吸器装着などで、一般の人に比べて心臓への負担が低下しているので、心機能が低下していても自覚しにくいのが特徴です。​
消化器症状として、平滑筋障害により胃腸の機能不全・便秘が生じます。認知機能への影響として、一部の筋萎縮疾患では知的障害、発達障害、けいれんといった中枢神経障害を合併することがあります。​
メタボリックシンドロームとサルコペニアの関連も注目されています。骨格筋量の減少と筋肉内脂肪蓄積は、酸化ストレス、炎症性サイトカイン、ミトコンドリア機能不全、インスリン抵抗性、不活動などの複合的要因により生じます。
参考)https://www.mdpi.com/2072-6643/13/10/3519/pdf

筋萎縮の診断と検査

筋萎縮の診断に必要な検査方法

筋萎縮の診断には、詳細な神経学的診察と複数の検査を組み合わせて実施します。筋電図検査は、筋力低下や筋萎縮などの症状があるときに、それが神経系のどのレベルで生じているか診断する基本的な検査です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/59/1/59_59.79/_pdf

筋電図検査には表面筋電図と針筋電図があります。表面筋電図は、異常が疑われる筋肉の表面にある皮膚に表面電極を貼り、筋肉が収縮する時に発生する電気刺激を測定します。針などを刺さないため、非侵襲的(体に負担をかけない)で、あまり時間もかからず、筋肉全体の活動として捕らえていくことができます。パーキンソン病、痙性斜頚、顔面痙攣、痙縮、舞踏病などの不随意運動を起こす疾患の評価に適しています。
参考)各検査(筋電図・神経伝道検査など)|川越市のなるかわ内科・脳…

針筋電図は、筋肉に細い電極針を刺した状態で、力を抜いた状態、弱い収縮、強い収縮を意識的にしてもらい筋肉より生じる電気的活動を記録します。筋力低下や筋肉の萎縮の原因が、筋肉にあるのか末梢神経からなのか、あるいは脊髄にあるのかを推定でき、障害の部位や重症度なども評価できます。特に神経原性変化の検出に優れており、ALSの診断には欠かせません。
参考)筋電図検査(EMG)|脳・神経系の検査

筋電図検査でわかることは、脊髄の前角細胞、神経線維、神経筋接合部、筋のいずれかの障害です。そのため、筋電図を考慮すべき病態は、筋力低下、筋萎縮、線維性攣縮、感覚障害などです。筋電図検査で発見しやすい主な疾患として、末梢神経障害、筋ジストロフィー、ALS、重症筋無力症ギラン・バレー症候群があります。​
神経伝導検査は、末梢神経を電気刺激して、神経の伝導速度や振幅を測定する検査です。末梢神経障害では伝導速度の低下や振幅の減少が認められます。体性感覚誘発電位(SEP)は脊髄症などの診断に有用です。
参考)筋電図外来

画像検査として、頭部MRIや脊髄MRIが実施されます。これらは脳腫瘍、多発性硬化症などの脳幹病変、頚椎症、後縦靭帯骨化症など脊髄病変を鑑別するために重要です。
参考)ALSの検査について href="https://www.jacals.jp/als/examination/" target="_blank">https://www.jacals.jp/als/examination/amp;#8211; JaCALS

生検は、筋肉組織を採取して顕微鏡で観察する検査で、筋原性変化と神経原性変化の鑑別、筋ジストロフィーの病型診断などに有用です。
参考)https://biogenlinc.jp/therapeutics/sma/diagnostic-support/definite-diagnosis-age60/

血液検査では、血清酵素(トランスアミナーゼ、アルドラーゼ、クレアチンキナーゼ)の測定が診断的価値を持ちます。筋ジストロフィーでは血清CKが著明に上昇します。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/cb247f76693780f2c98c7f6842c8925ee38841cc

SMAの診断には遺伝子検査が重要で、SMN1遺伝子の欠失や変異を確認します。針筋電図検査では、明らかに筋力低下・筋萎縮のある筋で、運動単位電位(MUP)の減少、干渉低下、巨大電位がみられます。​
日本ALS協会:ALSの検査方法の詳細情報

筋萎縮の鑑別診断のポイント

筋萎縮の鑑別診断では、神経原性筋萎縮と筋原性筋萎縮を区別することが最も重要です。神経原性筋萎縮の多くは末梢神経の障害(ニューロパチー)により生じ、外傷や圧迫によるもの、炎症性のもの、遺伝性のものなど多様な原因があります。
参考)筋萎縮

ALSの診断では、日本では1995年の厚生省の診断基準があります。神経所見として、球症状(舌の麻痺・萎縮・線維束性収縮、構音障害、嚥下障害)、上位ニューロン徴候(痙縮、腱反射亢進、病的反射)、下位ニューロン徴候(線維束性収縮、筋萎縮、筋力低下)のうち2つ以上を認めることが必要です。​
診断の判定では、成人発症である、経過は進行性である、神経所見で上記3つのうち2つ以上を認める、筋電図所見を認める、鑑別診断のいずれでもない、というすべてを満たすものをALSと診断します。​
鑑別診断として、下位または上位ニューロン障害のみを示す神経変性疾患、脳腫瘍・多発性硬化症など脳幹病変、頚椎症・後縦靭帯骨化症など脊髄病変、末梢神経障害を除外する必要があります。​
筋ジストロフィーとALSの鑑別では、筋電図検査が重要です。筋ジストロフィーでは特有の波形パターンがみられ、安静時にも異常活動がある場合があります。ALSでは線維束性収縮の増加、針筋電図で神経原性変化が特徴的です。​
重症筋無力症では、筋疲労しやすい、まぶたの下垂、嚥下困難などが特徴で、反復刺激での漸減現象(伝導ブロック)が検査所見として認められます。​
ギラン・バレー症候群では、急激な四肢麻痺、呼吸筋障害を伴うこともあり、神経伝導速度の低下、伝導ブロックが特徴的です。​
サルコペニアの診断では、筋肉量の低下に加えて、筋力(握力や歩行速度)の低下を評価します。筋超音波検査は、筋量、筋質、筋構造を評価でき、サルコペニアの診断やスクリーニングに有用です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9588427/

頚椎症性筋萎縮症と平山病の鑑別も重要です。平山病は前腕に限局する筋力低下・筋萎縮を呈し、当初は進行性であるが、数年後には停止性となる、筋萎縮性側索硬化症とは異なる生命予後良好な疾患です。
参考)https://www.jascol.jp/about/memorial_magazine.pdf

筋萎縮の早期発見と診断の重要性

進行性の病気の為、早い時期に検査をして診断することが大切です。早期検査と診断の利点として以下があります。
参考)筋萎縮性側索硬化症(ALS)の診断

  • 病気について知識が早く理解できて、不安が早く解決する
  • 早くリハビリや治療を行うことができる
  • 公的支援申請などが早く行うことができ、治療や介護を積極的に行うことができる

原因が分からないまま不安な状態を少しでも早く取り除くことができます。難しい難病とされていますが、早く病気のことを理解することで将来に起こる症状に早く対応できるといったメリットがあります。また、早く診断されることで公的支援などを利用できることで治療の経済的な負担が軽減されます。​
ALSでは急激な体重減少、筋萎縮が診断につながる大切な情報となります。また、手足の筋肉がピクピクする症状があれば必ず医師に伝えることが重要です。ご家族の方は、性格の変化など認知症状にも注意が必要です。​
気になる症状が現れた際には、まず神経内科を受診しご相談することをおすすめします。筋萎縮をきたす疾患には数多くの病気があり、頸椎症のように一般的な物もあれば中にはALSのように重篤なものもあります。鑑別診断には専門的な知識が必要ですから、神経内科を受診されることをお勧めします。​
健康長寿ネット:筋萎縮性側索硬化症の早期診断の重要性について

筋萎縮の治療とリハビリテーション

筋萎縮の治療法と薬物療法

筋萎縮の治療は原因疾患によって大きく異なります。ALSでは、根治を期待できる治療法は現在確立されていませんが、投薬により進行を遅らせることができます。リルゾールは神経細胞を保護する働きがあり、18カ月間の投与で生存期間を2~3カ月延長できる効果が認められている一方、症状の進行抑制効果は証明されていません。
参考)筋萎縮性側索硬化症(ALS)の診断・治療

症状の進行に伴い生じる関節拘縮の予防をするため、定期的なリハビリも実施します。呼吸障害に対しては呼吸補助・気管切開による処置を実施します。嚥下障害に対しては、飲み込みやすい食形態の工夫、経管栄養、胃瘻造設などが検討されます。​
多発性筋炎は膠原病の1種であり、筋肉に対する自己抗体により筋肉に炎症を起こして筋萎縮が進行してゆきます。治療にはステロイドホルモンを用います。​
SMAに対しては近年、疾患修飾療法(disease-modifying therapy)が開発されています。球脊髄性筋萎縮症に対する疾患修飾療法の研究も進んでいます。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/af8c30e6bea318a81c000759cb8e763a92c6d6e9

サルコペニアの予防・治療には、栄養療法と運動療法が重要です。筋肉を維持・強化するために必要な栄養素であるタンパク質を魚、肉、大豆製品などから積極的に摂取しましょう。また、筋肉や骨の健康維持に役立つビタミンDとカルシウムの摂取も大切です。
参考)寝たきりでもできる筋力低下を防ぐリハビリ方法

頚椎症性筋萎縮症では、継続的なリハビリ(牽引、温熱、運動療法など)を実施することで、一部は約3か月以内に改善傾向が見られるとの報告があります。
参考)頚椎症性筋萎縮症のリハビリとその重要性 - リニューロ・川平…

筋萎縮に対するリハビリテーションの種類

筋萎縮に対するリハビリテーションは、その方の症状に合わせて実施します。リハビリの目的は、その時の症状に合わせた運動療法を行ったり、歩行障害が出現した場合に適切な補助具を選定したりすることです。
参考)球脊髄性筋萎縮症(SBMA)のリハビリテーションの役割 - …

運動療法として、以下のような下肢筋力トレーニングを行う必要があります。​

  • 足上げ運動:仰向けにて膝を伸ばしたまま足を30度程度持ち上げ、10秒保持、その後ゆっくり下ろします。反対の足も同様に行います。
  • ブリッジ運動:仰向けで両膝を立て、お尻を持ち上げて10秒保持、その後ゆっくり下ろします。
  • ゴムチューブにて股関節外転運動:仰向けにてゴムチューブを左右の腿を囲うように結び、股関節の外転運動を行います。外転したら10秒保持、その後ゆっくり戻します。

関節可動域訓練では、肩をすくめる、上肢を前方や側方に挙げる、後方に伸ばすような動きをするときの筋力の低下に対応します。自力で動かすことが出来ないと、関節の動く範囲が狭くなってしまいます(関節可動域制限)。リハビリでは、関節の動きが悪くなったり固まらないようにする目的で、肩関節や肘関節の動きを補助して動かします。​
筋力強化訓練では、肩関節周囲、肘関節周囲の筋力低下が起こりやすい部分に対して強化訓練を行います。上肢を垂らした姿勢で、自力で動かせる範囲で動かします。動かそうとしても自力では困難な場合は、動きを補助して行います。訓練を継続的に行い、自力で動かせるように徐々に補助を外していきます。​
ベッドの上では、「手のひらでグーとパーをする」「足の指の開閉をする」といった横になっている体勢でもおこなえる筋力トレーニングがおすすめです。また各人の状態にもよりますが、寝たきりであっても、仰向けからお尻を持ち上げる「ヒップリフト」や「ブリッジ」、足を伸ばした状態で上げ下げする運動もおすすめです。​
ノバルティス:SMAのケアとリハビリテーション情報

筋萎縮のリハビリ実施上の注意点

筋萎縮に対するリハビリテーションでは、過度な運動を避けることが重要です。筋ジストロフィーなどの筋原性疾患では、過度な運動が筋損傷を引き起こす可能性があります。そのため、過度に動かないことによって生じる筋力低下(廃用性筋萎縮)を予防することは可能であり、現在ある筋力を維持するのに運動療法を実施することは良いとされています。​
ALSに対するリハビリテーションでは、寄り添う医療、苦痛を緩和する医療に理学療法、作業療法、言語療法が含まれます。患者・家族の身体・精神的サポート、終末期であってもその人らしさ、その人の楽しみに対するサポートが重要です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/53/7/53_529/_pdf

寝たきりの方を介護する際のポイントとして、体位変換が重要です。2時間ごとに体位を変えて、床ずれを防ぎましょう。同じ体勢を長時間続けると、骨の突出部分が寝具に当たって圧迫され、床ずれを引き起こす場合があります。床ずれは重症化すると筋膜や骨にまで傷が達してしまい、重症化する恐れがあるため、こまめに体の向きを変えることを心掛けてください。​
清潔の保持も重要で、毎日体を拭いたり(清拭)、適度に入浴させたりして、体を清潔に保ちます。体を拭くことは、血液の循環を促進するため、床ずれや関節拘縮の予防にも効果的です。​
呼吸リハビリテーションとして、筋緊張低下、筋力低下の予防と機能維持、関節拘縮予防のための運動・リハビリテーション、人工呼吸管理や痰を取り除くケアが必要です。​
嚥下リハビリテーションでは、飲み込む力が弱い場合のケアとして、食形態の工夫、嚥下訓練、姿勢調整などが実施されます。​
脊柱側弯症などの変形に対しては、背骨が曲がっていく変形を予防するための装具療法やリハビリテーションが行われます。​

筋萎縮の予防と日常生活での工夫

筋萎縮の予防には、日常生活での身体活動が重要です。家事や庭仕事など、日常生活でできる身体活動を積極的に取り入れます。「近所へ歩いて買い物にいく」「寝転がらず座るようにする」など工夫をしましょう。​
筋力を維持するために、筋力トレーニングをおこなうと良いでしょう。筋肉が減少しやすいふくらはぎやお尻などの下半身を重点的に鍛えるのがおすすめです。他にも、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を取り入れると、心肺機能の維持にも役立ちます。転倒を予防するためのバランス改善を意識した運動も効果的です。​
廃用症候群を予防するためには、できるだけ寝た状態を存続させないようにします。臥床ではなく離床することにより、荷重負荷がかかることで筋萎縮を予防し、骨芽細胞を活性化させるだけでなく、循環血液量の増加や換気機能の改善も期待できます。
参考)https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/04text

栄養管理も筋萎縮予防に重要です。筋肉を維持・強化するために必要な栄養素であるタンパク質を魚、肉、大豆製品などから積極的に摂取しましょう。また、筋肉や骨の健康維持に役立つビタミンDとカルシウムの摂取も大切です。どうしても食事だけで摂取するのが難しい場合は、サプリメントを活用しましょう。​
水分摂取も忘れてはなりません。適切な水分摂取は、筋肉の機能維持や代謝の正常化に必要です。

 

日常生活での工夫として、補助具や福祉用具の活用があります。歩行障害が出現した場合に適切な補助具を選定することで、活動範囲を維持し、廃用性筋萎縮を予防することができます。​
環境整備も重要で、転倒予防のために手すりの設置、段差の解消、滑りにくい床材の使用などが推奨されます。これにより、安全に身体活動を継続することができます。

 

筋萎縮患者の医療・福祉支援体制

筋萎縮をきたす疾患の多くは指定難病に指定されており、医療費助成制度の対象となります。令和2年度の特定医療費(指定難病)医療受給者証所持者数によると、ALSでは10,514人がこの制度を利用しています。
参考)脊髄性筋萎縮症(指定難病3) href="https://www.nanbyou.or.jp/entry/135" target="_blank">https://www.nanbyou.or.jp/entry/135amp;#8211; 難病情報センタ…

早く診断されることで公的支援などを利用できることで治療の経済的な負担が軽減されます。公的支援申請などが早く行うことができ、治療や介護を積極的に行うことができます。​
難病患者の総合的地域支援体制として、ALSは3.8%、筋ジストロフィーは3.5%、脊髄小脳変性症は3.2%を占めています。地域における難病患者支援のための相談支援、訪問看護、訪問リハビリテーション、レスパイトケアなどのサービスが整備されています。
参考)https://plaza.umin.ac.jp/nanbyo-kenkyu/asset/cont/uploads/2023/06/2022report.pdf

集中治療領域では、日本集中治療医学会による「日本版・集中治療における早期リハビリテーション~根拠に基づくエキスパートコンセンサス~」(J-ReCIP 2023)が策定されています。重症患者における筋萎縮の予防と機能回復のためのリハビリテーションプロトコルが示されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10629099/

在宅療養支援として、訪問診療、訪問看護、訪問リハビリテーション、訪問入浴などのサービスが提供されます。人工呼吸器を使用する患者に対しては、24時間対応の訪問看護体制が整備されています。

 

福祉用具貸与制度により、車椅子、特殊寝台、移動用リフトなどの福祉用具を利用することができます。これらの福祉用具は、患者の自立支援と介護者の負担軽減に重要な役割を果たします。

 

患者会や支援団体も重要な役割を果たしています。日本ALS協会などの患者会では、情報提供、相談支援、患者・家族の交流会などが実施されています。医療従事者は、これらの支援体制について患者・家族に適切に情報提供することが求められます。

 

みんなの介護:筋萎縮性側索硬化症の介護と支援体制について